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徒然諸々 『嫌われ松子の一生』文庫本下巻を読んで

 下巻は、上巻と違い一週間で読み終えました。下巻は嫌ミスぽく無かったのでスラスラと読めました。『嫌われ松子の一生』が嫌ミスでは無いかもしれませんが、わたし暗い話しが続くのが苦手です。

 読み終わっての最初の感想は、んー……つまらなくはなかったけど…。読み終わってみたら、後半も振り返って前半もは辛くなかった、です。松子は幸せに成れるチャンスが二度あったのに二度とも棒に振ったんだね。しかも元教え子で新しい恋人の龍洋一の為に棒に振ったんだね。文庫本の最期にある香山二三郎さんの解説ではないけれど、家族の支えがない(支えが期待出来ない)、男の見る目がない、運もツキもない、人生の方針がない、から松子はどんどん不幸になっていったんだね。仮に龍洋一が自己中心的でなく、松子のことを自分と同じように考える人だったら、もしくは自分の幸せより松子の幸せを考えることが出来る人に成ったのであれば、松子の元に帰って来たのかもしれない。しかし龍洋一は、下巻200頁、殺した元大川第二中学校校長の田所の孫娘から許された言葉に感化して、聖書を読み教会に通い始めた自己中心的な性格です。龍洋一が松子に会いたかったのは、謝りたかったからでしょう。刑務所から出てきた時にお金だけを無心して逃げたこと、今までの松子への素行、殴ったりヤクザな世界に巻き込んでしまったことを謝りたかっただけではないか。さすれば神さまが龍洋一を許してくださると考えて。でも松子は謝って欲しい訳ではなく、一緒に暮らして欲しいと願っていました。女としてパートナーとして愛して欲しいと願っていました。内容は違うけども、松子は『愛を乞うひと』です。身体の芯まで愛されたいと思っている人です。龍洋一が謝るだけで教会に行ってしまったら、松子は救われないので縋り付きます。龍洋一は自己中心的な人間なので縋り付く松子を振り払って教会に逃げるでしょう。結局、涙しながら松子は孤独に死んで行ったのではないかな。仮に松子が絶望せずに「カット&パーマ みたむら」で働き続け生きていたとして、たぶん松子の弟の紀夫は姉が死んだあとも姉を嫌っているくらいだから、松子があと十年生きても、二十年後でも、弟から許されて家族(甥っ子の笙と義妹)と合わせて貰えもせず、仏壇の前に招かれて両親や妹久美にお線香を上げることも許さなかっただろうと思います。恋人もいない、心を許す友達もいない――助けを求めれば沢村めぐみ、赤木さんは松子に手を差し伸べただろうけど――、家族もいない家族も作れない。60歳70歳になった松子は結局絶望して、アパートの自室に閉じこもって孤独死を選んだような気がします。

 読後、この小説の『嫌われ松子の一生』の松子は誰に嫌われているんだろうと考えてしまいました。神様に嫌われた松子だろうか。弟に嫌われた姉松子だろうか。酒に酔った勢いで、遊び半分に殺した若者五人に嫌われた、落伍者松子だろうか。
 
 話しは前後するけども、松子は、刑務所で知り合った芸能事務所社長沢村めぐみやヘアーサロン『ルージュ(元あかね)』のオーナー内田あかねやカット&パーマー『みたむら』のオーナー三田村秀子を頼ることが来たならば、その後の人生を平凡に終わらせることができただろうと思うと残念です。結局、最期は絶望して孤独死したろうけども。
 女だから同性の女の人に頼れなかったのか。沢村めぐみも内田あかねも三田村秀子も、松子からみて充実した人生を送っているように見えたから、嫉妬したんだろうか。松子の気立ても好ましく思っていたし理容師の腕も買っていた三人に気後れをしたんだろうか。そのことに松子が気付くのが死ぬ直前だったのも残念に思います。
 でも生きていれば、第二の赤木さんのような人が現れないと限らない。安田弘之の漫画『ちひろさん』のように、働いた先の店で愛されたかも知れない。

 読み終わって改めて思ったのは、婚活の時に出会った彼女は、この『嫌われ松子の一生』をベスト10に上げたのではなく、ワースト10に上げていたのかもしれないな。読み返したくなる作品ではない気がしました。愛されているという実感がない人が、自分似た境遇の松子にシンパシーを感じることは考えられるけども。読み終わって元気がでる感じはしなかった。他人の不幸は蜜の味と言うけども、不幸な主人公の物語を読み終わって、私と主人公は違う、頑張って生きなくっちゃ! と思えるものだろうか。そういう読者が想定できるほどいるとも思えないけども。

 なにかモヤモヤします。細かいことだけど、裁判の場面でも、親族に愛されている主犯格の若者と家族(父と弟)に愛されていない突き放されてる松子、の対比も筆者の意図だと思うけどもモヤモヤします。辞め検の弁護士先生が"何"とかしてしまうだろう裁判結果と、執行猶予も情状酌量もされなかった松子、という差も。運が悪いツキが無いという以上に、不公平がまかり通っている"世界"設定にモヤモヤしました。

 改めて、やっぱり「嫌ミス」は私は苦手です。
 『嫌われ松子の一生』が嫌ミスかどうか分からないけども。

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