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「三たびの海峡」 帚木蓬生

第五回目

帚木蓬生 「三たびの海峡」

 まず作者の紹介をしましょう。ペンネームは、「源氏物語」の「帚木」(ははきぎ)、「蓬生」(よもぎう)から取ったということです。
「ははきぎほうせい」と読みます。
経歴がすごい。1947年生まれ、福岡県出身、東大仏文科卒、TBSに入社、2年勤務の後、九大医学部入学、卒業後は精神科医となる、ですよー。

 一時期私はコアなファンでした。
病院勤務しながらの執筆ですので寡作な作家ですが、発刊を楽しみにして読んでいました。お医者様それも精神科医であるだけに医療サスペンスで登場人物の心理描写には唸るほどです。
 帚木先生の何が良かったかと言えば、私は理系から遠い遠い所にいたもので、医療にまつわる色々な情報に出会い、知らないことをたくさん知ることができました。タイトルにもなっている「エンブリオ」とは、お産で生まれる前のお母さんのお腹にいる胎児の事、「インターセックス」とは、染色体異常による男性でも女性でもないヒトの事です。他に「閉鎖病棟」は精神科病院の中の話で、「臓器農場」は、臓器売買の話です。
 内容は重くて物凄いのですが、帚木先生は、声高に正義を振りかざす事なく、またヒューマニズムに訴える事なく、淡々と静かな筆致で展開。近未来、こういう事になるのかと恐ろしくなりますが、多分人類の英知でならないと信じます(^^)
 歴史や史実を元にしたものも面白いですよ。「ヒトラーの防具」や「聖杯の暗号」など。少々難解ですが、読み応えあり、読後は爽快です。
 帚木先生は60歳過ぎに白血病で長期入院されています。お元気になられて、今、医者を続けられているのかは知りませんが、何冊か執筆されています。私はもう手にしてはいません。何かためらう気持ちがあるんですよ。恋心の裏返しでしょうか(^^)
 私もこの年になった今、一冊だけ読み返すとしたら、どれにしようと考えて、「三たびの海峡」を選び、ここにあげました。戦争の最中、「徴用」という名で強制連行された朝鮮半島の人々の苦難の歴史をもとした作品です。戦後76年が経ち日韓関係が微妙な今もう一度読んでみたいと思いました。


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