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twilight amber

「もしかしたら、異動になるかも」

ちょっとした懸念だろうと聞き流せたつもりなのに、時間が経てば現実になってやって来そうで、心許ない。君がいなくなる空想は形になりそうなのに、君がいなくなった後の僕の在り処については想像がまったく出来ない。出会った時からいつかは帰ってしまうと理解していたけど、こんなにも近い未来ではないと思っていた。もう君は転勤してしまう前提で僕は考えを巡らせている。そう考えて免疫を作っていないと君との別離を受け入れる事が出来ないと思った。大丈夫だよって言う君の言葉が中空に浮かぶ。全然大丈夫じゃないよ。昔から僕の悪い予感はよく当たる占い師よりも当たってしまうんだ。もう僕は若くはないから距離なんて関係ないよねって言えなくなってしまった。溶けそうな夏、一日に一回のメールは、木葉散る秋になれば一週間に一回になって、息が白くなる冬には便りは無くなってしまうだろう。君を抱き寄せているときは君の左肩の感触も髪の香りもするから、悪い夢から醒めたようにしか思えなかったけど、家でひとりきりになると凄く素敵な夢のなかで透き通っていく君の面影を捕まえようとしているような気がした。「今から別の人を見つけるといいよ。そしたら辛くないじゃん」なんて言うけど、本気で言ってるの?「うん、そうだね。」なんて冗談でも言えないくらい僕の胸には大きな穴が空いちゃったよ。君とバイバイした後、そのぽっかりと空いた穴を悲しくてとても美しい夕日が覗いていたよ。

「悪いことの後には、きっといい事があるよ」って言った君の言葉をぽっかりと空いた胸の穴を埋めるように反芻している。

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