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Ambient , Jellyfish , End point

「知ってるかい?クラゲって奴には、まったく脳みそが無いんだ」リチャードバック・ジョナサンが眠い目を擦りながら僕に言った。

僕は、Aphex Twin のAvril 14thを聞きながら、今朝のネットニュースをぼんやり眺めていた。今年も村上春樹がノーベル文学賞を逃したらしい。村上さんにとっても迷惑な話らしいね。彼曰く「脳減る賞」だって。

村上さんはクラゲにはなりたくないようだ。



「脳みそが無いのにどうやって動くんだい?」僕は何気なしに聞いてみた。

「クラゲには散在神経ってのがあって、そこに刺激が加わる時の反射で動いているんだ」それから僕らはコーヒーを買いに行った。

いつものセブンイレブンでいつものアイスコーヒーのLサイズを掴む。いつもの店員さんが僕がアイスコーヒーを掴んだのを確認する。僕はいつもの店員さんのレジに並ぶ。レジには僕がアイスコーヒーを出す前から会計が表示されている。

今度はアイスコーヒーのSにしてみようか。ちょっとした悪戯を思いついて、店員さんの困惑顔の空想に耽る。



「そればかりじゃない、クラゲには心臓も血液もないんだ」

「君はまるで、クラゲのようだな」ジョナサンは薄ら笑いを浮かべて言った。

「そうだね、僕はまるでクラゲのようだ」

僕には湧き上がるような鼓動が聞こえない。熱い血流を感じない。考える脳が無い。生命の舞踏(ダンス)がない。死という明確なゴールを認識していない。日常にふわふわと揺れながら反射だけで生きている。僕にとって世界は漂うには余りにも青くて広すぎる。だから僕はどこへ向かえばいいのか分からない。



「君が死んだ時、君の葬式はどんな感じだろうね?」

「まったく想像がつかないな…」

「それなら、人生の着地点を思い描いてみろよ。思い描いたゴールは君のコンパスになるだろう。君にとって余りにも青くて広すぎる世界にはコンパス(ゴール)が必要なんだ。」



僕は困惑してしまった。あまりにもゴールが漠然としている。それにゴールはたくさんあって、どれを選べばいいか分からなくなってしまった。

「思考の宇宙で迷子になっただろ?ヒントをあげようか?」

人にはいくつもの「役割」と「役割ごとのゴール」がある。君だってそうだ。仕事。ライフワーク(生きがい)。そして君の周りにいる愛すべき人たちとの関係。

いくつもあって、それぞれに責任感を感じているかもしれない。ただ難しく考えなくていい。ここで考えるべきは、「役割」じゃない。君の中での揺るがない「原則」のこと。人がこうありたいと願っている自然な望みのことであって、つまり【誠実】や【公正】だったり、他者に【貢献】したい気持ち、【可能性】への挑戦、そして【成長】だけだ。原則を中心にして役割、役割ごとのゴールを俯瞰的に見る事ができれば人生に骨格が形成されてブレない生き方が出来る。その時、君はもうクラゲじゃなくなってるだろうね。

「だって、骨があるクラゲなんていないだろ」

すんごいドヤ顔でジョナサンは僕を見ている。その顔を見たらありがとうっていう気がなくなってしまった。



Aphex Twin の Avril14th が流れている。僕の葬式にはこの曲が流れていて、僕が愛した人たちが泣いたり笑ったりしてるのがいいな。

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