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【福祉系上場企業こんにちは①】医心館の株は買えるか。

おはらいばこになった京王電鉄の5000系を富士急行がもらって2両編成で大月−河口湖間を運行しています。潔いデザインですね。「赤い線一本ひこうぜ!それで終わり!」って京王の企画会議で決めたわけですよね。

ここでは、上場企業の事業評価をしてみたいと思います。上場企業って、評価にさらしてほしいってことで上場しているので格好の教材だし、福祉系人材が就職先として株式会社を考える場合、事業評価を行うことは必須です。投資する(オーナーになる)ことと、従業員として働くことは、視点としてはけっこう近いですからね。こういう論点を株ってことを切り口にしているだけです。

医心館は、ターミナルケアに特化したホスピス事業を展開しています。介護保険サービスと医療保険サービスをうまく活用し、手厚いサービスが提供できることから、どんどん新規開設をして業績を伸ばしているようです。そんで、その株は、買えるかということを考えてみたいと思います。短期的な目線で記すと、更新するのが面倒なので、長期的な視点から考えます。


医心館の株は買いたいのか、買いたくないのか、どっちなんだい?
⇒ 長期投資では買いたくない。短期~中期ではよさそう。
※2023年12月を起点で買って、数年のうちに売り払うなら買いかもしれません。しかし、私には、短期売買において売りぬける見識がありませんので買えないかなと。

医心館の株式について

2023年12月時点までの医心館の株価は右肩上がりに上昇しています。
PBRという指標に基づけば、株の時価総額は、会社の総資産の11倍を超えてきているので、医心館には市場の期待が大きい(事業が伸びる⇒株価があがると思う人が多い)みたいですね。
そんで、医心館の事業は今後も長期的に発展し続けるんでしょうか。

医心館の最大の強みは手厚いケア

まず、医心館のホームページを見ると、あれ?とおもうのが、消費者側の動線からは、施設区分がよくわからない、明示されていないことです(2023年12月時点)。普通、ホームページにはサ高住なのか、住宅型有料なのか、介護付き有料なのかって、区分は大事なので載せますよね。
採用サイトを調べてみると、区分は住宅型有料老人ホームだということがわかります。これがわかりやすい形で載っていないのは、意図的だと考えたほうがいいでしょうね。
この住宅型有料っていう区分では、基本的にはあらかじめケアプランで計画された定時に訪問することになります。なので、「すみません、ちょっと不安なんで来てもらえますか?」とナースコールを押しても、「~さん、次の訪問は30分後ですからちょっと待ってください」という反応でも法的にはおかしくありません。ただ、それでは終末期の方のケアは行えないので、事業所側の任意で対応しているのでしょう。

入所できる人は、癌末期や重篤な神経難病の人など終末期の方に限られています。ここがこの事業のポイントの一つですね。
要介護度が高く、特別訪問看護指示書の対象になるケースが多くなるでしょう。なので、介護保険と医療保険のダブルで介護と看護サービスが使えます。下のサイトを見ると、看護師配置は、一般病床の10対1の看護基準に相応すると書いてあります。これは、病気の急性期を治療する病床の看護基準と同等だということです。一般的に慢性期の患者を診療する病床では、15対1から30対1の間です。
さらに、ですよ、介護士を含めた、利用者と介護・看護師の比率は1対1にしたいということです。驚きですね。これが医心館の最大の強みといえるでしょう。

ターミナルケアに特化することの経済的意味

 医心館はホスピス事業と謳っていますから、入居者は癌や神経難病などでの末期状態の方になるみたいです。
「最後までみてくれるいい施設だから、元気なうちに入りたいな。あれ?費用も安い。生活保護でも入れるレベルだな。よし入居しよう!」
と思ってもダメなはずです。
そういう方が一定程度入居すれば、レクリエーション担当を決めて、クリスマスパーティーやら夏祭りやら、餅つき大会もひらいて、演歌歌手もお笑い芸人も、音大出身者も呼ばないといけなくなるでしょう。その手間暇になんの報酬もありませんわ。
そんで、例えばそういう方が、数か月後に認知症が増悪して、夕方になると「蝶が飛んでる。ほらそこ。かえらなきゃ家に。帰して。ねぇ帰して家に。なんで帰してくれないの!この!このやろっ!(介護者の腕をつねる)」と不穏症状や安静が難しい周辺症状が出始めたりすれば、四六時中見守りの必要が生じるわけです。そこにも報酬は発生しない場合が多くあります。
ターミナル期の場合には、そういう状況はあまり想定されません。ベッド上であることが多いでしょうから、ある程度は、日課について支援計画どおりの展開や予定的なチームプレーが期待できますね。
そういう体制では、比較的に支援者が疲弊しにくく、その最大のメリットは、人材を集めやすくなることだと思います。
「ターミナル期の患者は簡単だみたいに言われた気がして、すごい嫌な気持ちなった!なったという私の気持ちはデカルトでも疑いようのない真実!」・・言ってませんよね。
 

福祉領域では、実際に起きている、利用者が行う暴力や暴言などに、社会は見て見ぬふりをして、「入所者の社会的ニーズの充足」とか「利用者の自己実現ニーズの充足」とか支援者の責任をひたすら追求してきました。そういう過剰な責任が介護施設に人材が集まらない要因になっているのは、根拠はないけど断言したいです。「絶対そうだ!と思う」とかいってね。医心館はその逆張りをかけているように見えます。
また、医心館の入所者のターゲットの限定は、経済合理性の観点からはある種の支援は「経済的でない」というメッセージを引き出せるかもしれません。ちょっと強い表現ですね。国語が苦手な方は、私が「経済的でない患者は入所させない方がよい」という意見を持っていると思ったり、私が医心館がそう考えていると断定したと、インプットしてしまうかもしませんね。そういうことは思ってないし言ってません。

医心館の強みに潜む懸念

医心館は現行の医療保険・介護保険サービスを活用した豊富なサービス量が強みと述べましたが、その強みはむしろ事業持続性の観点からは不安でもあります。

医心館としては、現行の介護保険・医療保険システムをうまく活用することで、手厚い介護・看護が提供できるじゃん!という発見的なサービスを創出できたと考えているでしょう。ホームページにもそういう主旨の文章が並んでいます。
しかし、長期的リスクとして問題は3つあります。

問題1 既存の医療・福祉事業所への脅威
たとえば療養病床の運営には、厳格な公定の設備基準などがあって、それを遵守する多額のコストがかかるわけです。それが医心館は、建物は中古物件を買い、サービスはアウトソーシングの形態ですからランニングコストがかからない。
「すばらしいアイデアじゃないか」と普通の人は考えると思いますけど、そうとは限りません。既存の慢性期の医療機関にとっては、医心館の運営は、制度の隙間をついた社会資源の悪用だと映るでしょう。「悪」だとおもわれてしまうのは、患者にとっての悪ではなく、もちろん既得権を持っている人たちにとって「悪」なわけですけどね。
私が所属する介護老人保健施設の目線からしたって、薬剤の制限や、外来受診の制限、多様な専門職が関わる責務などを負いコンプライアンスに苦心しながらなんとか利益を出しています。
そういう私らの苦労を横目に、「在宅扱いだから」の一言で、訪問診療を受けながら、医療機関の専門外来もガンガンして、なんの医療制限もなくすり抜けられたら公平性の観点では問題があると思わざるをえません。

問題2 国や都道府県の規制の許容範囲内か

国や都道府県は、ターミナルケアを要する国民を集計し、それに対する予算を配分し、対象となる社会資源に対し、法規制をかけて、一定の管理をしています。厚生労働省からしたら、医心館のサービスはアンコトローラブル(uncontrollable)と思うかもしれません。なんせ住宅型有料の規制しかかけれないわけですからね。監査だっておそらく簡素なものならざるをえないはずです。

また、慢性期医療機関や福祉施設の設立は、都道府県がその数量を管理しています(総量規制といいます)。国の許認可が必要な医療事業もあります。しかし、住宅型有料はそういう規制はかかっていないなか、タケノコみたいに新設され、荒稼ぎされたら、慢性期病床や居室を持つ法人は頭にくるし、ショバ(場所)を仕切っている親分(厚労省・都道府県)は面目が保てません。既存の医療法人は医師会を立てて、厚労省や都道府県にクレームを入れるかもしれませんね。
行政が無反応なら、入院病床を持つ医療機関が類似の施設を病院の隣にポコポコ設立して、ガンガン外来受診や短期入院をさせてぐるぐる回して、錬金術が行えるでしょう。特別訪問看護指示書でリハビリが行えると解釈すれば地域包括ケア病床並みの医療資源が投下できるから国民もhappyだ。広く日本中にいきわたれば、社会保障費を消費しまくれますね。現代貨幣理論(MMT:日本銀行はいくらお金を刷っても問題ないから、お金をばらまいて良い)に則った理想的な世界が到来します。
個別のケースには最善であっても、それが全体化していくと成立しなくなるということを、合成の誤謬といいます。

ちょっとふざけて考えを飛躍してしまいましたが、少なくともこの事業はだれでもやろうと思えばやれる(参入障壁が低い)ことから、医心館についていえば、長期的に優位なポジションが確保できるとは思えません。
また逆に、もし、法改正で住宅型有料向けの訪問看護や訪問介護の内容に規制がかかれば、この事業はかなり苦しくなります。そういう風に、厚労省に梯子を外された例は、小規模ディの茶話本舗などにみることができます。医療・福祉の世界ってあまりに独創的なことってしにくいんですよね。

問題3 多職種連携は担保されているか

上の問題は、医心館のハード面の問題ですが、最後はソフト面の問題です。医心館のホームページを見ると、看護師以外に登場する職種が少ないのが気になります。看護師さんの支援が中心となっているんじゃないかと推察します。介護士さんも活躍しているんでしょうけど上のサイトの題名が「看護師中心のホスピス」と書いてもありますしね。

看護師という専門職は、やってはいけないこと以外なんでもやれる、という特徴をもちます。医療処置、リハビリ、介護、相談援助など、各専門職がいる中、看護師は各専門職の業務と重複したオールラウンドな業務を行っています。
しかし、その専門性はやはり、各専門職にあって、リハビリはその専門職、相談援助はソーシャルワーカーにあります。
私の立場からは、特に、地域医療連携部員に主に看護師を配置しているようだという点は気になります。おそらく患者の医療状況を詳しく聴取し、説明することについて、一番看護師が長けていると考えてのことでしょう。しかし上で述べてきた通り、この事業は既存の医療機関との関係性が少し微妙なところがあるので、地域の行政の信頼を勝ち取ることや、逆に、行政の嫌がることは慎重になり(住所地特例関係とか)、やがては都道府県や国の信頼を勝ち取る戦略が必要だと思います。そういう点では医療ソーシャルワーカーが適任のはずですが、大事なことは専ら医療情報や家族情報の伝達係や営業ということなのでしょうかね。施設の中がうまく回っていればOKだと思ってるなら、了見が狭いというか・・。そんなこと思っていないでしょうけどね。
「そういうことも看護師がやればいいじゃん。」そうですね。

またリハビリ専門職等の、多職種連携が不可欠なケースにはどう対応しているのでしょうか。看護師ができる範囲で、嚥下評価や下肢機能評価や家族アセスメントや、社会機能評価を行っているんでしょうか。適切に外部サービスと連携しているんでしょうね。。
医心館の併設事業所で完結すれば一番儲けが大きくなるビジネスモデルだけに、そうではなく、多様な専門職の視点が活きたケアが行われていることを明示してほしいところです。

また、医師の診療は外部の診療所が担当医になるシステムですが、夜間の急性増悪などに対して、外部の、医心館の指示命令系統に入っていない町医者が必ず、患者にとってベストな対応をしてくれるのかちょっと心配な点があります。「え?じゃあ病院つれてって」とかいってね。そういうトラブルは在宅の現場ではよく起きるのですが、医心館は在宅介護と同水準のケアを謳っている施設ではないわけですからね。

結論

医心館は、既存の医療保険・介護保険制度をうまく使って、患者に手厚いサービスを提供するモデルを構築し、新規施設を次々と開設しています。このモデルが既存の地域包括ケアシステムの中で安定的なポジションを維持できるかは、この事業モデルに対する行政側の選好ということも要因の一つになるのではないかと思います。

医心館が急拡大してきたのは、ターミナル期の患者を既存のシステムがうまく対応できなかったというか、総量規制の上にあぐらをかいて、システムから漏れた患者や利用者を見捨ててきた面もあるし、国は支援スタッフの苦労を正当に評価してこなかったことにも背景要因がありそうです。
 したがって、既存のシステムが医心館に負けないよう、サービスやサービス提供体制の見直しを行えば、いいだけのはずですが、そういうことを考えたくはないね、という場合には、どうなるんですかね。足をひっぱるんでしょうか・・・。
一方、医心館だってこの事業が根付くように政治的なアプローチを血眼になってしているでしょうし、今後も維持・発展していってほしいサービスです。
 しかし、今の段階では、希望的観測を根拠に、長期目線で株を所有する気にはならない、ということです。ただ、短期~中期的にはかなり良い業績を積み上げていくんじゃないかなと予想します。そういう意味では、たとえば介護業界を志す学生がいたら、就職先の一つとして提案すると思います。
医心館は、悪質なクレームなどは本部職員が対応することや、介護福祉士の年収が450万~と、かなり高水準だったりと、まっとうなマネジメントをしているのではないかと思えるポイントがいくつかありますからね。














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