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リサーチャーによる情報の受け止め方をまとめた本、『「過情報」の整理学 見極める力を鍛える』

『「過情報」の整理学 見極める力を鍛える』 著:上野佳恵 中公選書
2022年12/5 読了。

読書メモの公開としてはこれが初になります。
この本を最初に選んだ理由は特にありません。

ーー以下、読書メモ。ーーーーー

高校時代の恩師が以前にお勧めしていた本。

内容としては基本的な情報リテラシーについて。
過去に情報についての書籍は既に数冊読んでいたため、
真新しい情報や考え方などはそこまで得られなかった。
しかし著者ならではの、リサーチ業界のプロとしての調査法などが解説されていたため、自分の既存知識の強化・裏づけに役立った。


■第一章 情報平準化の恐ろしさ


〇1-1 1日に新聞6000ページ分
 阿頼耶識に流入・蓄積できる分量は無限であろうが、人がそれを末那識に挙げられる量は有限。
 となれば、仮に6000ページ分の情報がインプットされようとも、ふるいにかけられて残る量には昔も今も大きく変わらないのではないだろうか。
 ただしどの情報を取捨選択するかを考える上で「選択疲れ」は当然起きるから、その分の疲弊は少なからず現代の方が多いに違いない。

■第二章 「みんな」とは誰のことか?


〇2-8 日本人は匿名志向か?

人々がSNSを使うのは、見ず知らずの「みんな」ではなく、仲間との繋がりを得たいとの思いがあるからだろう。

この書籍自体が2012年発刊なのでまだSNSの本格的な流行の走りの頃。ミクシィやTwitterが主流で、Facebookも広がってきたばかり。

この後からInstagramやTiktokが現れ、YoutubeがSNSとしての機能を拡充し、基本実名で参加するFacebookから若者が遠のいてきた。

そういった意味で、「SNSを使う理由は仲間とつながりたいから」という指摘はわずかなズレがあるように感じる。

日本人に限って言えば、SNSを利用する理由は、どちらかというと「見ず知らずの仲間」を求めているのに近い。
 求めているのはスタバの「サードプレイス」のような、近すぎず遠すぎない関係性かと思う。
 自己顕示欲や承認欲求を満たせる距離感。
 いざとなったらアカウントを捨てて逃げることが出来、自分の活動や好みが「いいね」数で可視化され、
 評価するのもされるのも責任が希薄で許されるリアルとバーチャルの中間の世界観。

なおSNSにはそれぞれの特徴があり、共通点と相違点があるため一緒くたにまとめるのは難しいが。

2チャンネルに双方向性がないというが、そうは思わない。
インタラクティブなサービスであり、アンカー機能によってコメントのやり取りができる機能は充分に双方向性があると言える。

2チャンネルからTwitterへとユーザが流れたというのも違和感がある。両方使っている人もいるだろうし、より匿名性の高い2チャンネルを好む人もいるだろう。

■第三章 情報の「ウラ」を読む


〇3-3 「ネットで調べました」は禁句

インターネットは新聞や雑誌、テレビと同じように、情報を伝える、流通させるためのツール、メディアである。
インターネットそのものが何かの情報を作り出し発信している「情報源」というわけでは決してない。

新聞における社説やコラム、ネットにおけるブログやSNSなどは、情報源ともいえよう。

「ネット上には多くの情報がある」ではなく、「インターネットを使うと多くの情報にアクセスできる」ということだ。

なるほど、その通り。

〇3-7 情報の信憑性

リサーチ業界では次の順に沿って見ていく、探していくという不文律がある。

1.官公庁資料
2.業界団体資料
3.シンクタンク資料
4.民間調査会社資料
5.新聞・雑誌

この順番は、情報源としての信頼性をベースに、情報そのものの特徴や入手のしやすさ、入手にかかるコストなどを踏まえてのものだ。
必ずしも1から5という順番で見ていかなければならないというわけではない。

これらの情報源は覚えておいて活用したい。なお、ここに書籍が入らないのは興味深い。
 あくまで探しているのは「データ」であり、それを混ぜたり判断したり考察したりする結果を求めているわけではない、ということだろう。

〇3-9 「政府経済見通し」の現実

経済成長率の見通しや人口予測等に関しても、政府系機関が発表しているデータに疑問が呈されることは珍しいことではない。

政府も予算を立てるために経済成長率などの予測値が必要となる。

決して担当者が都合よいものに仕上げているということではない。
予測を行うには様々な前提条件が必要であり、その前提条件の一つとして”政府の都合”が入り込む余地がありうるということだ。
政府見通しの数値が毎年外れたり、過去に予測されたデータと現実が違うからと言って、政府の発表するデータがすべて信頼できない、ということではない。

現状把握のための統計調査と、予測や見通しのデータは、まず区別して考えるべきだ。
そして予測値というものは、前提条件や算出方法によって変動しうるものであることを理解しておくべき。

政府などがこれらの統計情報や予測値を用いて未来を決めるのであれば、その決定者たるトップの思考方法、価値観を合わせて得られれば未来の一つの仮定を推察できるだろう。
ただし、国会や世論によってその意思や決断が左右される側面を考えれば、変数が多すぎて結果を正しく推測するのが難しすぎる。
つまるところ、国の行く末を予測するのもやはり不可能に近い。

ヒトラーが大衆を操作することを選んだのは、不愉快ながら恐ろしく賢い。

〇3-13 統計データを読む ~大卒者の就職内定率~

2011年に大学を卒業した人の就職内定率は91.0%、就職氷河期と呼ばれた2000年春を下回り、統計を取り始めた1997年以降で最低だった(文部科学省、厚生労働省『大学等卒業者の就職状況調査』)。

自分の卒業年と同じだ。
確かに就職氷河期とも呼ばれ、先輩から自分たちの代まで、就職率は低く、就職してもすぐに転職するケースが多かった。
しかし91%も就職内定を同級生がもらっていた実感はない。
因みに自分自身は就活はせず、卒業後にゆっくりバイト先を探した。
1か月ほどかけて応募や面接をし、
訪問介護事業所に雇用されたのは5月の半ば。
フリーターをしながらバンドでプロを目指すというのが目的であったので、特に問題はなかった。

調査対象になったのは全卒業者のうちの1%に満たない。

就職希望者の中から1%程度の卒業生のみを大学がなんらかの基準で抽出した。

調査対象となる大学の抽出を、文部科学省、厚生労働省がどのように「考慮」したのかは調査の説明には書かれていない。

残念なことに、就職希望者全体の数を把握できる統計が存在しない。

この統計情報を集めるだけでも相当なコスト(税金)がかかっているだろが、結果として実情を正しく表せていないのであればえらく無駄の多い統計なことだ。
改善されていることを願おう。

■第四章 情報を「選ぶ」訓練をする


〇4-5 どの情報を活用すればよいのか

その情報が生み出された背景をきちんと把握し、データを読み込み、そして自分の目的に従ってどの情報をどのように使うのか、どのデータが自分のニーズに合うものなのかを判断する。
そうやって初めて、どのデータを使うべきかが判断できる

〇4-7 動く前に考えるべきこと
情報をうまくまとめるためには以下を考える

1.何のために情報をまとめるのかという目的を意識する
2.最終的にどうやってまとめるのかをあらかじめイメージする
3.手や足を動かす前に何をどうやって調べるかを考える

〇4-10 情報は説得するための材料

情報を集めるだけでは価値を生まない。
必要とする相手に正しく伝わってこそ意味を持つ。

その通り。言った言わないの水掛け論が水掛け論たる所以は、「伝わった伝わってない」というのが本来議論するべき点であるからだろう。

■第五章  インターネット時代の情報リテラシー


#真新しい主張は特になし

以上

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フェイクニュースや陰謀論が幅を利かせているからこそ押さえておきたい、
情報の受け止め方、調べ方の基本。

より深くインターネットにおける情報の危険性や受け止め方を知りたいのであれば、笹原和俊著、DOUJIN SENSHOの『フェイクニュースを科学する 拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ』がお薦め。


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