見出し画像

みんなのマンションの話 「大規模修繕は借金で」が増加中

※写真はイメージで記事内容とは一切関係ありません。


融資 この10年で3倍に

マンション管理組合の役員。分譲マンションで暮らす以上、やらざるを得ないのだが、実入りがあるわけでもなく、忙しい現役世代はどうにか避けたいところだろう。どうせやるなら軽い担当と願いたい。

しかし、運悪く理事長にでもなってしまうと大変だ。各段に責任が重くなる。管理費や資材の値上げに直面し、多くの理事長はそろばん勘定に苦戦している。そこで最近は区分所有者から徴収する管理費、修繕積立金の範囲では間に合わず、借入に頼る管理組合が増えているという。

住宅金融支援機構が扱う「マンション共用部分リフォーム融資」の利用が急増し、この10年で3倍に。2022年度は150億円を下回っていたが、2023年度は200億円に迫る水準になっている。


のしかかる人件費、資材の高騰

建物や設備は時が経つに伴い劣化する。そのためマンションは何年かに一度、大規模修繕工事を実施する。自分が住むマンションがいつ工事を予定しているかは、大規模修繕計画を見ると分かる。

2008年のリーマンショック前までは分譲マンションの供給が多かった。おそらくその頃、建てられたマンションが最初の工事適齢期を迎えているのだが、資材、人件費高騰で予定額では間に合わず、借金することに決めたのだろう。

修繕費はここ10年で2~3割高と言われるが、実感はもっと多いのかもしれない。大規模修繕に限ったことではないが、小さな工事でも「資材価格の値上がりは今後も続くでしょう。ホント、怖くて見積書が出せないですよ」と嘆く業者もいる。

とはいえ、大規模修繕は避けて通れない。しないとマンションの資産価値は大きく下がる。転居等で部屋が空けるとなれば、次の買い手に売らなければならない。その際、次の買い手は工事実績を確認するので、やるべき工事をやっていない物件は当然敬遠される。

買い手は修繕積立金の残高についても確認する。残高が相場に比べて明らかに少ないとなれば、購入を渋るだろう。

積立金が不足したらどうする?

修繕積立金の不足に管理組合はどう対応したらいいか?

① 一時金を徴収する
足りない分を自らどうにかするとなると、まず検討するのが、まとまった一時金の徴収だ。だが、組合員はたいてい渋る。富裕層ばかりが暮らすマンションならまとまるかもしれないが、たいていはそう余裕がない。

また高齢層は、建物の何十年も先のことなど関心がないので一時金には反対する。

② 工事を延期する
対症療法で抜本的な解決策にはならない。今は人手不足で管理組合の都合のよい時期に工事が実施できるかどうかわからない。時間稼ぎをしているうちに工事を要する箇所の劣化が進んでしまう。

③ 金融機関から借りる
計画的な返済に備えるには、お金が必要。組合員には修繕積立金値上げを納得してもらう必要がある。どっちにしてもお金はかかる。

区分所有者から徴収する毎月の修繕積立金は、だいたいいくらぐらいにしたらいいのか。国土交通省はそのための目安となるガイドラインをマンションの規模ごとに設定している。2021年にその水準を大幅に引き上げたのだが、現場は混乱した。国の水準にあわせると、大幅引き上げが必要になるところが出てくる。「そんなに払えない」という組合員も出てくる。

積立金値上げ予定を「見える化」

2024年6月、管理組合規約のひな型である「標準管理規約」が改正された。そこには、「修繕積立金の変更予定等の見える化」が盛り込まれている。いきなり値上げ案を出すと、合意の形成は難しい。「聞いてないよ~」だ。そうならないよう、あらかじめその予定を周知し徹底しておくことを求めている。

大きな決断 カギとなる理事会

大規模修繕はマンションの暮らしやすさを保ち、資産価値を維持するうえで重要だ。管理組合がまともに機能せず、建物が廃墟のようになり、地元住民の通行にさえ危険となったマンションが税金を投入により解体された事案が滋賀県であった。今後こうしたマンションが増えない保証はない。築40年の老朽マンションはますます増えていく。

本来なら自己資金で賄いたい大規模修繕工事だが、経費の高騰を背景に、借り入れに頼るのはもはや仕方ない。されど、管理組合が高額の借金をするのは大変大きな決断だ。

お金を借りるかどうかは、最終的には管理組合の総会の判断による。しかし、その前に理事会で総会の議案とするかどうかを決めなければならない。

ここで登場するのは、事なかれ主義の「いい子」だ。誰だって管理費や修繕積立金はやすい方がいい。借り入れもするよりはしないほうがいい。

とあるマンションで管理費値上げをめぐって実際にあったことなのだが、理事長らは数カ月に渡って、管理費値上げを話し合ってきた。値上げを回避するため、管理会社のサービスを見直すこともやってきた。

概ね合意が得られという段階で、「そうは言っても皆さん家計が大変だから…」と切り出す。一番年配の副理事長だという。「見直しもまだまだ十分かどうかわからないし、資料を次期役員に引き継いで、違った視点で検討を深めてもらってはいかがでしょうか」。こんな具合。

すると、値上げを決めて「あーだ」「こーだ」責められるのを避けたい臆病な役員が同調しだす。理事長によると、この副理事長は「こうしてはどうか」「ああしてはどうか」とは言うのだが、実際に自分で調べて具体的な提案をしたことは皆無だったという。理事長が具体的な提案を促すと、決まり文句が出る。「俺、年だからさ」

結局、理事会では値上げ反対が多数となり、総会への議案提出は見送られる。かといって管理組合の財政状態が変わることはない。課題が次期役員に先送りされるだけだ。

次の役員ははっきり口に出さないまでも、「前任の人たちがもう少しやっておいてくれたら」と思うだろう。そうならないためにも、理事長は理事会での議論の経緯ははっきりと議事録に書いておいたほうがいい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?