見出し画像

お客さまは必ずしも神様でも王様でもありませからね! そこんとこヨロシク!


悪質な場合は“出禁処分”

高島屋はこのほど、カスタマーハラスメント(カスハラ)に対する基本方針をホームページ上で公開した。

不特定多数の顧客に接する小売業で、カスハラ対策を定めても、内々での共有にとどめるのが一般的だろう。ケースによっては、「対応を打ち切り、来店を断る場合がある」とはっきり打ち出している。

カスハラに該当するとした行為を社内外に周知し、被害から従業員を守るのが狙いだ。

カスハラに該当する具体的なケースとして

  • 従業員への人格否定や差別的な発言

  • 個人情報のSNSへの投稿

  • 土下座の要求

などを挙げた。

基本方針では、ごく一部の顧客の心ない言動により、職場環境が害される事案が発生していると指摘した。

高島屋は「社外にもカスハラに毅然と対応する姿勢を示す狙いがある。お客さまとの信頼関係を築き上げることを目指す」としている。


「この2年で47%が体験」労組が実態調査

労働組合「UAゼンセン」の調査によると、流通業やサービス業に従事する組合員のうち、46.8%が直近2年間でカスハラに当たる行為を経験している。2020年の前回調査より9.9ポイント減少したものの依然として被害は多い。

調査は2024年1~3月に実施し、計3万3133人が回答した。最も印象に残っている迷惑行為は「暴言」が最多の6170件(39.8%)で、「威嚇・脅迫」2281件(14.7%)が続く。

迷惑行為に遭った際に「謝り続けた」との回答は35.9%で「毅然と対応した」の35.3%とほぼ同率。迷惑行為をした顧客の推定年齢は60代が29.4%、50代が27.2%と中高年が目立った。

「冬の屋外で2時間以上、謝罪させられた」といった具体的事例も寄せられた。

対策は企業の枠超え業界一丸で

カスハラ対策は業種を問わず喫緊の課題だ。特に問題顧客による嫌がらせともいえる行為が目立つのが鉄道業界。酔客と接するケースも多い。

JR東日本グループは4月、カスハラに対する方針を策定、公表した。暴行や威圧的な言動、土下座の要求をする客などへは対応しない方針を打ち出した。

きぜんとした方針を明確にしたことで、一定の効果は表れているようだ。JR東日本の喜勢社長は7月4日の会見で「対処方針を明確にしたことで、乗客の対応にあたる社員が上司とともに組織的に対応しやすくなり、安心して働けるようになった」と述べた。

ローソンとファミリーマートは、店舗で働く従業員の名札について、店舗の判断で本名以外の記載を可能にした。従業員に安心して働ける環境を提供するのが狙いだ。

全日空と日本航空は、カスハラへの対処方針を共同でまとめた。該当する行為を暴行や誹謗中傷など9つの類型に整理し、こうした行為には組織としてきぜんとした対応を取る姿勢を明確にした。

対処方針ではカスハラに該当する行為を、暴行や、誹謗中傷、過剰な要求など9つの類型に整理。これらの行為は「従業員の人権および就業環境を害するもの」と位置付けた。

そのうえで、カスハラに対しては警察への通報なども含め組織としてきぜんとした対応を取る姿勢を明確にした。

各企業、業界がカスハラ対策を強化するのは当然だ。「注意やクレームが駄目なのか?」という指摘も聞かれるが、各社が明記しているカスハラ行為はその域をはるかに超えている。

注意やクレームについては、これをヒントにして製品やサービスの改善につながることがある。しかし、行き過ぎたカスハラはもはや異常な嫌がらせであって企業にとってはマイナスでしかない。

一般の顧客にとっても甚だ迷惑だ。スタッフが疲弊してしまっては、適切なサービスを提供できなくなってしまう。また、嫌がらせのような行為を目にするのは不快である。

プロ野球の応援にも変化

プロ野球では、ファンからの行き過ぎた「ヤジ」や「替え歌」への注意がなされるようになっている。

日本野球機構(NPB)は「試合観戦契約約款」として、監督やコーチ、選手らへの「誹謗中傷その他の迷惑を及ぼす行為」を固く禁じている。各球団も独自で定めた観戦ルールをホームページやSNSで発信するなど、マナー向上を呼びかけている。

ファンの気持ちもわからんではないが、節度を欠くヤジを浴びせられたら、はつらつとしたプレーはできない。やる気も失せる。結果、チームが勝利から遠ざかるというものだ。

異常なカスハラ なぜ起こる

いったいどんな人が異常ともいえるカスハラに及ぶのか?

元山形県警科学捜査研究所(科捜研)研究員で、桐生正幸東洋大教授(犯罪心理学)は、さまざまな事例を分析する中で「カスハラにはストーカーと似た加害者心理がある」と感じたそうだ。

孤独感が問題行動を引き起こし、感情のコントロールが難しく攻撃的になる、執拗につきまとうなど、ストーカー行為の特徴はカスハラにも当てはまるという。

カスハラに走る人の特徴

桐生教授は2020年、カスハラ加害に関するWEB調査を実施した。調査は2060人(女性1096人、男性964人)から回答を得た。

調査ではまず、回答者自身のカスハラ加害の経験を聞いた。すると、全体の45%に相当する924人が、「悪質なクレーム」をしたことがあると答えた。クレームの付け方については、「淡々と静かに話した」(629人)が最多だったが、「攻撃的な話し方や言葉があった」と答えた人も71人、「大声を上げる時があった」が63人、「お店や担当者に対し罵詈雑言があった」も11人いた。

「カスハラ加害をした」人の性別は、女性445名、男性479名。ほぼ拮抗している。

しかし、カスハラの内容では男女で違いが見られた。

男性では、45歳以上が店員のミスや手続き不備などを理由に、高圧的な態度をとり、上層部からの謝罪を受けるタイプが多かった。

一方、女性は45歳未満が商品の欠陥を理由として、店員に対して淡々とクレームを述べ、商品や商品代を受けとるタイプが多い。※ちなみに「淡々と」とは「物静か」とか「あっさりしている」という意味だが、カスハラなのか? それとも「一方的に話し続ける」という趣旨か?)

年齢はどうか? カスハラ加害の経験がある人の平均年齢は46.4歳加害行動の割合が多いのは、45歳から59歳までの年代だった。

職業を見ると、加害行動の割合が多かったのは「会社員(その他)」「経営者・役員」「自営業」だった。

世帯年収だと1000万円以上になるとカスハラ加害経験の割合が増えている。年収1000万円というとかなり余裕がありそうだが、手取りにすると700万円程度。このクラスは、付き合いや消費の目的も増えるので周囲が思うほど余裕はない。カネ遣いが派手になって債務残高が増え、自己破産する人も少なからずいる。

桐生教授はカスハラ加害者の傾向を下図のように整理している。

出所=「カスハラの犯罪心理学」

「うるさい客」というのは昔からいたものだが、昔と今とではどう違うのか? 桐生教授は説明する。
「従来、企業はクレームを『企業の財産』ととらえ、顧客の要望に応えることで、サービスや商品の改善と企業の発展につなげてきました。しかし2000年代以降、時代と共にクレームの形態も変化し、金銭や謝罪を求めるのではなく、ただ怒りをぶつけるような『悪質なクレーム』が増加しました。」

クレームで自分の存在意義を確認?

最近は「シルバーモンスター」なる言葉も聞かれる。しつこく文句を言う高齢層だ。一説によると、団塊の世代が引退してから目立つようになったそうだ。「プライドは高いが、定年後にすることがなく、自分の存在意義を感じられなくなっている人」がシニアクレーマーになりやすいとの指摘もある。

ここまで見てくると、カスハラの“主犯”は中高年以上で、しかも威圧的な態度をとる傾向がある男性となりそうだが、そうともいえない。カスハラ加害者は世代を超えて存在する。

学校では、モンスターペアレントが増殖し、教員を疲弊させている。そのため、奈良県天理市のように、専用窓口まで設けて苦情に対応する自治体も現れた。

何かと競争が激しくなっているせいか、暮らし向きに余裕がないのせいかか、自分を満足させることが優先されているようだ。筆者も感情に任せて怒鳴ったことはあるので、偉そうなことは言う立場にはない。ただ、そうしたことを思い出すたびに落ち込む。当時は「言ってやったぜ!」ぐらいの気持ちだったが、今になっても傷はズキズキする。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?