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「奨学金」という名の借金を背負い生きていく自分をイメージできますか?


大学で夢を実現するための「投資」

昭和の時代に大学を卒業した人は、今の大学の学費の高さに驚くのではないか。筆者の場合、私立大学の文系学部だったが、年間の授業料は24万円だった。同じ学部がいまは100万円だ。

文部科学省の2023年度の学校基本調査によれば、大学進学率は57.7%、8年連続で最高記録を更新している。

思い描くキャリアを手にするためだろうが、それにしても「投資」としては高額だ。授業料に加え、施設使用料など諸経費を納入する必要がある。教科書やパソコンなどの購入費用もかかる。生活していくうえでは食費、小遣いもばかにならない。親元から離れると、住居費も必要だ。

親の懐は大変だが、足りない場合は教育ローンや奨学金に頼ることになる。教育ローンは親が契約主体。奨学金は学生本人が契約し、貸与型の場合、卒業後しばらくして返済が始まる。奨学金というと聞こえはいいが、貸与型は学生ローンだ。

ぜいたくを言わなければ、大学進学希望者は全員、どこかの大学に入れる。私立大学は過半数の大学が定員割れの状況だ。「行きはよいよい」だが、出た後はまずい現実も。

7年ほど前だったか、大学別の奨学金返済の延滞率ランキングというのが明らかになり、話題となった。入学偏差値の低い大学ほど上位になっている。中には、利用者の10人に1人が延滞しているという大学もある。

国の自殺統計に「奨学金の返済苦」という分類が

こうした一方で、国の自殺統計に「奨学金の返済苦」という分類が2022年から新たに加わった。2023年6月の発表によると、奨学金の返済苦が原因で自殺したと考えられる人が10人いたことが警察庁などのまとめでわかった。10人の内訳は、20〜30代の男性6人と、10代〜20代と40代の女性4人だという。

貸与型は「借金」なので、返す必要がある。返済が滞ると通知が来る。中には、これを無視してしまう人もいるそうだ。そうなると保証人に連絡がいく。最悪になると、一括返済を迫られるケースにも。返せない場合、自己破産が現実味を帯びてくる。

なんらかの奨学金利用 学部生で55%

学生の多くは日本学生支援機構(JASSO)の奨学金を利用している。その利用状況はどうなのか。

JASSOの奨学金は2017年に給付型が創設されるまで貸与型のみだった。奨学金とはいうものの、実際は「学生ローン」だ。1984年の法改正で有利子枠(第二種奨学金)が導入され、ピーク時は4人に3人が有利子だった。

20222年度のJASSO奨学金の利用者数は、第一種(無利子)が約46万7000人、第二種(有利子)が約66万5000人、給付型が約33万7000人となっている。

2024年3月に発表になった2022年度学生生活調査結果によると、何らかの奨学金を受給している学生の割合は、大学学部(昼間部)で55.0%。2018年47.5%→2020年49.6%→2022年55.0%としだいに増えている。

なお、日本学生支援機構の給付奨学金および貸与奨学金の受給者の割合は、2022年度支援実績ベースで大学学部は32.3%となっている。学生生活調査では奨学金受給率が実態よりもやや高めとなる傾向があることが以前から確認されているという。

社員の奨学金 企業が肩代わり ファンドも登場

借りたお金は誰だって返したいのは山々ではあるが、どうしても返せない場合がある。特にコロナ禍のもとでは、せっかく入った会社の業績が悪化し、リストラされたり、給料が減額されたりした人は少なくない。病気で思うように働けなくなったという人の声も聞かれる。

住宅ローンの場合、利用しようという人は、会社に数年勤務し、十分に「信用力」が備わった人が多い。サラリーマンも先行きのリスクは大きくなってはいるが…

しかし奨学金は、本人として信用力がない人に貸す制度だ。低利で、しかも借りやすい制度なのだが、その後の返済リスクは当然大きなる。

初任給をもらい、会社の雰囲気や仕事に慣れてきたころに返済は始まる。しかし、2年目になると、住民税の納付が始まる。これは結構大きい。計算が狂う。また社会人というのは、何かと出費がかさむ。例えば、会社に来ていく服。学生時代のようにはいかない。

しばらくすると、同級生や同僚から結婚式の招待状が届くようになる。ご祝儀として数万の出費は痛い。「大学では親しい友達がたくさんできた」という人は、よく準備しておいたほうがいいだろう。

車も買いたいところだが、さらに借金が増えるので慎重に人生設計を検討しないといけない。

こうした実情に対応し、社員の奨学金返済を肩代わりし、サポートしようという企業が増えてきた。

三菱UFJ信託銀行は、2025年度に返済が不要な給付型奨学金を支給するファンドを立ち上げる。富裕層や企業から拠出金を集め運用資産を2029年度に1000億円まで拡大し、運用益を原資に大学生など4000人に年120万円ほどを支給する目標だ。

不特定多数から資金を集めて支給するファンド型の奨学金は国内初という。

8月に映画公開 奨学金の悩みテーマに

この夏、奨学金で悩む女子大生をリアルに描く映画が公開される。

主人公は640万円の奨学金を得て、滑り止めの大学に進学する。親からは、国公立でないと支援は無理と言われていた。

奨学金の概要については、申し込む際に十分な説明を受けるわけではあるが、あくまで事務的な説明で、その後どうなるかは、社会経験の乏しい高校生にとってはイメージしにくい。

1つのストーリーを通し、進学とお金について考えるうえでは、友達や家族とぜひ見てほしい作品といえよう。


【参考】


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