見出し画像

2作目の地の文とセリフを書く1

2作目の地の文とセリフを書こうとして行き詰まり、プロットを全修正した戌井です。

修正後のプロットがこちらです。

はじまりのブロック

石原の母親が萩沢が来た後から様子のおかしくなった息子に動揺しながらも見守っていると、帰宅した父親が息子と話をして萩沢のところへ連れて行ってしまう。心配して待っていたら、父親だけ帰ってくる。

事件のブロック

息子はどうしたのか聞くと、しばらく萩沢に預けた方がいいと言う父親。無責任だと詰るが、いつもは温和で優柔不断な父親ががんとして引かない。萩沢のところへ電話をして息子と話す。当分ここにいたいと言う。自分では力になれないのかと落ち込む。翌日のカウンセリングに同行し、医師に相談し、地元のおかしさも訴えるが、本人の意思に任せて様子をみましょうと諭される。自分が過保護なのかと悩みながら渋々承諾。

被害状況のブロック

母親は石原の元職場に石原が追い詰められ自傷に至ったのは労働環境が悪かったからだと労災を訴えており、その件でやってきた元上司との話し合の中で、上司の様子がおかしくなったことに気づく。同席していた夫も不審がり、やがて上司は石原は生きているのかと聞いてきて、なにを不謹慎なと母親が怒る。夫はなにか見えるのかとわけのわからないこと言いだし、同意した元上司はやはり死んだのかと早合点して大騒ぎして逃げ出す。

対処のブロック

呆気にとられた母親は憤慨し石原に連絡をしようとするが電話が繋がらない。何となく不安になり夫と共に様子を見に萩沢の家に行き、血塗れで倒れている石原を見つける。救急車を呼び救助され、命に別状はないが深い切り傷が背中一面に刻まれていた。心労と混乱で夫を詰る。萩沢のところへなぜ預けさせたのかと問い詰め、夫が渋々、幼い頃から見聞きしたナカヤの不可思議な話をするが、こんな時にオカルトかとぶち切れ。

おわりのブロック

夫を病院に残し萩沢へ抗議をしに行くが不在。元上司がやってきて萩沢を見つけないと石原に祟り殺されると鬼気迫る様子。山に分け入っていく上司を追いかけ見失い、いつの間にか山頂の神社へ。拝殿の前にいた巨大な六山に飲み込まれる。

修正前のプロットで書いているうちに、この話だけ読んだ人は訳が分からなすぎて怖くもないのでは?と思い始めてしまって、説明を付け足したら長くてくどくなり、どうしようかなあと悩んだ結果、書き換えました。

あとそもそも旭のキャラが無駄に根明で素直なアホなってしまって、怖い話にしにくいなと気づきました。

今度は前作より怖いのが書けそうな気がします。地の文とセリフは今回も大幅に字数オーバーしまくってますが、推敲で削って整える予定です。

苦戦しましたが、書けて良かったです。

今回は一回ずつ推敲するので、次回ははじまりのブロックの推敲と、事件ブロックの地の文とセリフです。

はじまりのブロックの地の文とセリフ(3741字)

 八月の半ば、冷房の利いたリビングでテレビのワイドショーの音声が空々しく響いていた。

 落ち着かない様子でソファの端に座る息子の旭の前に、石原一美はトレイに乗せたお茶とお茶請けのよもぎ団子を置いた。よもぎ団子は、このあたりの地域でよく作られる一口大の真ん中が少し潰れた平たい形状で、甘いきな粉をたっぷりとまぶして食べるものだ。幼い頃の息子の好物でもあり、一美もよく作ってあげていた。

 今日のよもぎ団子は近くの山にある神社に住み込んでいる萩沢が旭への見舞いで持ってきてくれたものだ。なにかと迷信深いこの地域では、よもぎ団子は悪運を祓うとされているらしく、事故や病気見舞いの定番だ。

「はい、お茶入ったよ」

 一美は笑顔でそう言いながら、つい息子の様子を窺ってしまう。さっき、来客に挨拶をしてから旭はまたひどく塞ぎ込んでしまった様子だった。自分から出てきたから話をさせたが、やはりまだ人前に出すのは止めるべきだっただろうか。一美はまた自分の判断が間違いだった気がしてならない。

 旭はまだ痛々しく包帯の巻かれた右腕をお腹に抱え込むようにして、何かから身を守るように背中を丸め、不自然なほどうつむいて視線を下へ固定させている。社会人として立派に働いていたはずの二十五歳の息子ではなく、ひどく叱られて落ち込む幼子のような頼りなさと哀さを感じて、一美はざわざわと自分の胸の底が不安と焦燥で波立つのを感じた。

 しかしその波を決して面に出してはいけない。仕事のストレスで自分の右手を切り落とすほどにまで心を病んでしまった息子のことを、カウンセリングを担当した医師はとても繊細で周囲の視線に敏感な性質だと言った。

 確かにそんな傾向は幼い頃からあった。中学までの旭は近所に住む同い年の幼なじみ、六山勇郎の後ろに隠れるようにしてついて回っていた。同年代の子に比べて少しだけ成長が遅かった旭は、他の子達にからかわれたり仲間外れにされることが多かった。そんな時に仲良くしてくれる勇郎は一美にとってもありがたい存在だった。

 しかし、勇郎を頼もしく思うほど、息子のひ弱さが気にかかった。男の子なんだからもっと強くなってもらわないと将来が大変だと思い込んでもいた。だから旭が泣きついて来たときは、心を鬼にして、勇郎くんを見習いなさいと叱ることもあった。

 だから、カウンセリングの医師に愛着障害について説明された時は、自分の子育てが間違っていたのかと目の前が真っ暗になった。よかれと思ってしたことが息子を追い詰めたのだと思うと、後悔してもしきれない。しかし、過去はもう取り返しがつかない。自分の過ちが息子から利き手を奪うことになったのなら、今度こそ自分がしっかりと息子の面倒みて育て直してやらなければならない。

 医師は、旭が右手を切ったり体に傷をつけたのは突発的な強いストレスによる衝動的なものだと言っていた。長時間の過重労働による不眠やうつ傾向が重なった不運な出来事で、入院するよりは安心できる自宅でしっかり休養して心と体のバランスを取り戻すことが重要らしい。

 息子が精神病院に閉じ込められて薬漬けにされるのではと思って心配だった一美は、家で息子を見守れるとわかって安心した。不安や重圧もあったが、家に戻った息子は案外、暢気な様子だった。怪我の痛みや利き手が使えない不自由さを嘆くことはあっても、精神的な不安定さはそれほど感じなかった。

 しかし、いまの息子の様子は変だ。今までも、物思いに耽るようにぼんやりしていることはあったが、いまの旭は何かに怯えているように見える。変化の原因はやはり萩沢だろうか。そういえば、息子を追い詰めた職場の上司も萩沢の同年代の男だ。萩沢を見て仕事の事を思い出してしまったのかもしれない。

 あの年代の男とは接触しないように注意するべきだ。一美は心の中で旭の取り扱い事項にその点を加え、表面上はなにも気にしてない風を装って旭の斜め向かいに座り、団子を頬張った。

「んー,美味しい。瓶子のおばあちゃんが作ってくれたのが一番好きだったけど、萩沢さんのは香りがすごいわね。冷凍じゃなくて生の葉っぱ使ってるのかな。お山の上の方はまだ涼しくてよもぎも若いのかもねえ。ほら、旭も食べてごらん」

 にこにこと声をかけると、旭はふいに何かに気づいたように顔を上げ、骨張った左手でよもぎ団子をひとつ掴み、リビングの掃き出し窓へ向かって投げた。

 一美はぎょっとしたが、反射的に口をつぐんで息子の様子を見守った。医師から、旭が動揺している時は冷静を保つようにアドバイスを受けていた。不安定な患者の言動にいちいち影響を受けていると身が持たずに共倒れになる可能性もあると言われていた。

 息子が奇妙な言動をしても感情的に反応せず、落ち着いて対処しようと覚悟を決めていた一美は、なんでもない事のように旭へ言った。

「ちょっと、豆まきの豆じゃないのよ? ああ、ほら、きな粉まみれになっちゃったじゃない」

 冗談ぽく笑って見せたが、息子は皿に残っていた団子をわしづかみにして窓へ投げた。利き手ではないせいか、団子の大半はうまく飛ばずにソファやラグに落ちた。すると旭は空になった皿にまた手を伸ばし、そこに団子がないとわかると、焦ったように手近に落ちていた団子を拾って自分の口に押し込んだ。

 さすがに一美の笑みが引き攣った。怒鳴ったり暴れたりといった奇行は想定していたが、この行動はなんなんだろう。ストレスや過労によるうつでこんな行動をするのだろうか。まさか本当はなにか精神的な病なのではないか。そんな可能性すら頭に浮かんでぞっとした。

 しかし、動揺してはいけない。息子は一時的に参っているだけだ。辛抱強く見守ればまた元のように社会人として働いて自立できる。一美は心の中で自分に言い聞かせた。声が震えないように気をつけながら、できるだけ朗らかに声をかけた。

「あ、旭? ほら、お母さんの分まだあるから。ね、こっちを食べたら?」

 すると息子は、一美の差し出した皿をじっと見つめ、何かに気づいたような顔で、きな粉で汚れた窓を見つめた。それから一美の皿を手に取り、まるで窓の外に熊か何かでもいるかのようにひどく警戒した様子で外を窺いながら自分が投げた団子を拾ってまだ手つかずの団子がある皿に戻していく。

「片付けるの? じゃあお母さんが」
「いいから。座ってて。あと、あれは片付けなくていいから。絶対そのままにしといて」

 旭が固い声でぴしゃりと言って、窓際に落ちているひとつの団子を指さした。

「ええ? なんで? だって片付けないとベタベタになっちゃう」
「いいから。動かさないで。必要なんだから。玄関とか、他の窓も全部、必要だから」

 そう言いながら旭はキッチンの窓へ駆け寄り、窓枠に団子をひとつ置くとすぐ玄関へ走り、ドアが当たらない位置へ一つ置く。それから家中の窓の近くに団子を置いて回った。トイレの小窓のところにまで団子は置かれた。一美は、いったい何を考えているのかと息子を問い詰めたい衝動を必死で抑えた。

 家中の床に散らばったきな粉の掃除を考えるだけで気が塞いでくるが、それ以上に気になるのは息子の行動だ。

 団子を置き終えた息子は、まだそわそわと落ち着かない様子でスマホを弄り、団子だけじゃ弱いかな、などと呟いて何かを調べているようだった。

 やがてキッチンへ向かう。今度は何をするのかと思えば、塩をありったけの小皿に盛ってあちこちに置いた団子の横に置き始めた。盛り塩のつもりなんだろうか。そう思い当たると、一美は少しだけ納得した。

 この辺りの地域は昔からああいう迷信を伝統だと言って四季の行事や祭りに取り入れている。一美自身は何の効果もない古い考えだと思っているが、近所付き合いのために参加せざるを得ず、旭も幼い頃からそういう光景を見ている。恐らく、不安定になった心を落ち着けようと必死なのだろう。

 旭は最後に自分の部屋の前に塩と団子を置き、夕飯はいらないと言って自室に籠もった。盛り塩は、悪いものを寄せ付けないようにする結界だと聞いたことがある。一美は、自分まで旭の考える安全圏から弾き出されたような気がして寂しかった。

 夜になり、帰ってきた夫に今日の旭の行動を話した。夫は、少し旭と話してみると言って息子の部屋へ行った。

 夫の恭介は日頃は無口だが、何かあれば率先して動いてくれる頼もしさがある。きっと旭をうまくなだめてくれる。期待して待っていると、二人が部屋から出てきた。なぜか旭がボストンバッグを抱えている。

「ちょっと萩沢さんの所に行ってくる」
「え? なんで?」
「大丈夫、すぐ戻るから、待っててくれ」
「ちょっと待ってよ、なんでよっ?」

 思わず大きな声を出したら、旭が困ったような顔で恭介を見た。まるで助けてくれと言っているような顔だった。一美は、はっとして笑みを浮かべて取り繕った。

「行くなって言ってるわけじゃないからね。理由を聞きたいだけだから」
「帰ったら説明する」

 恭介は日頃の温和な雰囲気とはまるで違う強ばった顔でそう言い、旭を連れて行ってしまった。逃げるように出て行く二人に見送った一美は、自分もついて行けば良かったと後悔しながら帰りを待った。

 やがて日付が変わる頃に、夫だけが帰ってきた。
 

見出し画像:UnsplashC Perretが撮影した写真

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?