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ホラー小説の執筆 3

念願のホラー小説執筆に取り掛かったのに楽しさよりも大変さを噛み締めている戌井です。

前回やった方法で情報を増やす作戦はまあまあうまくいったと思います。しかし、増えすぎた場合に削るのが大変でした。
削ろうとして文章を変えたら何故か更に増える現象や文章を消すのがもったいないと思えて悩むという謎の感情が出てきます。

いちいち悩んでいると時間がいくらあっても足りなくなりそうだったので、地の文を削る方法を決めました。

地の文が増えすぎた時の対処法

  • プロットを表すために必要な部分以外は削って良し

  • なんとなくもったいない感が出て削りたくないと思ったら、悩む前に別のファイルに移動させる

  • 移動させた文章は後で地の文を整える時に使えそうだったら使う

完全に消すのは何故か躊躇してしまうので、いったん取り置きということにしました。

炊きたてごはんをゴミ箱に入れるのはなんか嫌だけど、お櫃に入れて冷暗所にそっと置くなら大丈夫みたいな気持ちです。

以下は2000字に収めた地の文とセリフです。字数内に収めるために書き方を変えたり、プロットに書いてある事を表現するためにどんな書き方をすれば伝わるのかを考えたり、プロットに書いてないことが出て来たけどこれはこのままでいいのか?と考えたり、とにかく考える事が多いです。考えて考えて考えたものを字数のために削る事もありました。徒労感半端ない。疲れます。

しかし2000字書けたという達成感はありました。

次は事件のブロックを5500字に増やします。もういいんじゃないかな、という気持ちが無くもないですが、犬がいるのでなんとか出来そうな気もします。
犬は偉大だ。

始まりのブロックの地の文とセリフ

昼少し前、石原旭はイワナの焼ける香ばしい匂いをたっぷりと肺まで吸い込んだ。
七月初めのこの時期、市街地なら昼近くにもなれば外へ出るのも億劫なほど暑いが、濃い緑の梢に頭上を覆われた山の中は軽く汗ばむ程度だ。澄んだ沢水が流れる川を渡ってくる風は、早朝からの山歩きと数時間の釣りで疲れた体に心地よい涼しさも与えてくれる。
石原はさらなる涼を求め、びっしりと水滴のついたレモンチューハイの缶を開けた。ごくごくと喉を鳴らして火照った体へ流し込んだレモン風味のアルコールは、居酒屋で上司や同僚たちの顔色を窺いながら飲むレモンサワーとはまるで違う鮮烈さで体の隅々まで染み渡っていく。
「あーっ、うまいっ!」
弾ける炭酸のように腹の底から声が出た。
「大げさじゃね?」
串を打ったイワナを炙っている焚き火台を挟んで斜め向かい、石原と同じ簡易チェアに座りハイボールの缶を手にした六山勇郎が笑った。
二人は渓流釣りの拠点とした岩場で早めの昼飯に取り掛かっていた。
足場の悪い岩場だが、苔むした大きな平たい岩が川面を覆うようにせり出している場所がある。ここを拠点にそれぞれ目星をつけたポイントで午前中いっぱい釣りを楽しみ、昼飯に釣果を味わうという流れが、二人で地元に戻った際の定番になりつつある。
「いや全然大げさじゃねえよ、まじ生き返った味がする」
「どんな味だよ」
よくぞ聞いてくれたとばかりに石原は滔々とまくしたてた。
「二十五連勤で働き続けて、セール準備のくっそ忙しい時にバイト三年目の有能女子大生がドタキャンした別のバイトの穴埋めに来てたくそぼけ上司のセクハラにキレて辞めた挙げ句にくそぼけ上司が他店舗の余罪含めて処分されて謹慎くらって人手が足りない中でめちゃくちゃ頑張ってセールの仕込みやって、有能女子大生がやってくれてた夏用のPOP作りと飾りつけで徹夜して、セールやりながら補充のバイト面接やって接客苦手なパートのおばちゃんのフォローしながらレジやって、売り上げ落ちてるってマネージャーにグチグチ言われながら新人バイトを仕込んでやっと有休取って、ガンガン釣った魚が焼けるの待ちながらキンキンに冷えた酒飲んで感じる味ってこと!」
「いや、長ぇし。一言で」
「親友と飲む酒、最高ー!」
石原は缶を握った手を空へ突き上げた。六山は半ば呆れたような笑みでよく焼けたイワナを指差す。
「よっぽどストレス溜まってんのな。まあ、食えよ」
「食うよ!いただきます!」
がふっとイワナの背に食らいつく。ぱりっと焼けた皮に多めにまぶされた塩は、ふっくらとした身を噛みしめるたびに脂の甘味と旨味と溶け合い喉を落ちていく。香ばしい後味に満ちた口の中へレモンチューハイを流し込む。
「うっま!やべえ、もう美味すぎて魂抜ける!」
「生き返ったり死んだり忙しいな」
「忙しいよ、ほんと忙しい。もう永遠にここで魚食っていたいぐらい忙しい!」
「意味わかんねえ」
「理解はいらない。感じてくれ、この感動と喜びを!」
「そういえばオレさー、彼女出来た」
石原は、紙皿の上に置いた焼き立てイワナから割り箸で器用に骨を抜いている六山を凝視した。開放感と爽快さで満たされていた自由な世界に現実へ繋がる穴を開けられたような気分だった。
「は?なんで?引きこもりのくせにどこで出会いがあんの?」
「引きこもりじゃねえ。必要ないから出ないだけ。きっかけはゲームかな。ギルメンとオフしたら付き合う事になった」
「え、いつ?今まで何も言ってなかったよな?」
「一昨日。旭とは今日の用意のやり取りしてたから言うタイミングなかった」
「へー」
羨ましい。ぽろりと出そうになったその一言をイワナと一緒に飲み込んだ。羨望は六山が最も鬱陶しがる感情だ。だが、正直言って羨ましい。
六山は親が持っている幾つもの不動産の一つであるマンションに住み、FXや株で優雅に稼ぎながらゲームを楽しむような暮らしをして彼女まで出来た。
比べて自分は、使えない上司とプレッシャーしか与えてこないマネージャーに心身をすり減らされながら働かされ、プライベートの楽しみなど惰性でログインを続けているスマホゲーで目当てのキャラのSSRを引くために万札を溶かす事ぐらいだ。
小学校から高校までは同じような人生を送っていたのに、二十五歳になったらこの格差。だが、親友に彼女が出来たとなれば女友達を紹介してもらうチャンスかもしれない。
「どんな子?年とか、雰囲気とかさ」
座ったままの簡易チェアをずりずりと引きずって距離を詰めると、六山はスマホを出して画面を石原に向けた。
映っていたのはゲームのプロフィール画面だ。彼女のアカウントのようだ。
ニックネームはema、アイコンのイラストは顔が黒い煙のようになっていて、ゴシック風のゴテゴテと花やレースで飾られた黒い帽子と黒いドレスを着ている。プロフィール欄は『成人済み、イン率低下中』という二言だけ。
第一印象はちょっと地雷っぽい。

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