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第二十二話 未知との遭遇

遺跡をメインに考えてこの国、ビルマに来た僕でしたが、そのハイライトであるはずのバガンの感想が短い。

実は旅の中で感じる事、感動する事は、人間が作り出した物よりも、人間や、自然そのもの、それらからの感動の方が圧倒的に多かったのです。
興味を惹かれたのです。

勿論、遺跡、それに描かれたレリーフにも感銘を受け、模写し、その後に影響も受けたのも確かですが。

 さてさて、では話しを戻して、マンダレーから今度はインレー湖(レイク インレー)へと移動したところから。
武三くんと僕は、インレーへと到着する。素朴で、喉かな田舎の風景。中国の田舎町か、ネパールみたいなところでした。
この街にあゆインレーという湖は、独特の船の漕ぎ方をする民族が居ます。彼らは船の上に立ち。片足で船のオールに足を掛け、そして漕ぐのです。

 さて、そんなインレーで、まず僕らが仲良くなったのはイスラエリーの二人組。
一人は巻き髪でガタイも良いローマ軍の戦士のようなタイプ。もう一人はスマートだけど屈強な戦士みたいな男。彼らはかなりの旅の強者で、どこででも生きていけそうなタイプでした。

彼らと意気投合した僕らは、川沿いで食事をしながら、話す。その後ものんびり街を探索。ここの空気に合わせて、のんびりとした一日でした。

 次の日、武三くんと僕は今まで外国人が入った事の無いと言われる山奥の村、山岳民族の村へと訊ねるというプランに参加した(ガイドを雇い)。

イスラエリーの二人のうち一人は、馬を借りて、山でガンジャを探しに行くというプラン(好きだねー)。もう一人はのんびり街で過ごす。
それぞれに行動を始めました。
 
 僕らの他、山岳民族の村に行く事になったのは、オージーのカップル、フランス人カップル、そして19歳のマンチェスター出身の青年(彼は赤いゲバラのTシャツを着ている)そして僕らとガイド二人という即席パーティ-。
僕はまずはゲバラのTシャツを着るイギリス人に話掛ける。
「エルネスト・ゲバラ、好きなの?」

「うん、まあね。彼の生涯は僕にはすごく魅力的で。」

「彼も旅をしてたんだよね?彼がもし今の世界を見たら、どんな風に思うだろう?」 

そんな話しをしながら、山を登る。日もだいぶ高くなり始め、霧も晴れてくる。
先頭はガイド。二番目に武三くん。三番目にイギリス人の彼と僕。後ろにオージーのカップル、そして最後にもう一人のガイド。まずはここでフランス人のカップルが脱落。ここが限界といい、帰って行った。
 
そして山は更にだんだんを厳しい斜面へとなる。
 岩肌むき出し、かなりの傾斜角の斜面を登るうち、オージーの女性が疲れて歩けないという。何度か休憩を入れる。が、遂に断念。ここで今度はオージーのカップルは引き返したのでした。
 僕はあいかわらず、ガイドにもイギリス人にも、そして武三くんともしゃべり倒す。
ガイドは「鉈(なた)」で道を切り開きながら進む。
「こんな先に人が住んでいるの??」
 更にしばらく行くとやっと細いながらも道が見えてくる。もしかして近いのかな?
すると竹やぶの向こう、道の先に人影が見える。
向こうから歩いて来たのは、頬っぺたが真っ赤で、まさに日本昔話に出てくいるような「金太郎」のような青年。肩から銃を下げている。
僕らは「山の基本」、挨拶をする。
しかし返事がない。
 
 よく見ると彼、「蛇に睨まれたカエル」のように、固まっている。微動だにしない。
白人も居たし、ひょっとして彼にとって初めて見る外国人だったのか?
横を通り過ぎるが、置物のように全く動かず、僕らが通り過ぎて、何度振り返ってもその場で固まったままだった。
 
 また暫く歩く。すると辺りが開け、ようやく村へと到着する。

いやー、かれこれ何時間、道なき道を来たのだろうか?

村では洗濯をするおばちゃんや子供達が見える。
手を振る僕ら。

するとこちらに気がついた村人達が一斉に騒ぎ始める。距離は50-100mくらい先なのですが、皆、悲鳴を上げて逃げまとう。
荷物を手に、方々家へと入ってしまう。転んで逃げ遅れた子供が泣いている。お姉ちゃんらしいコが戻ってきて、手を引き連れ、そして逃げる。
全ての扉、窓が閉まる。

僕らが村に着く頃には誰もいなくなってしまった…。
う~ん、歓迎されてないなあ。

僕はてっきりガイドが外国人が訪ねてくると伝えたものだと思ってましたが、どうやらノーアポのよう。
そりゃ、190センチくらいある金髪の大きな青年が居たら、驚くは苦笑
しかも、生まれて初めて見る外国人なわけだし。
 
 ガイドの交渉で、この村のある家での生活ぶりを見せてもらう事になる。
 
その家に行くと土間があり、竈門もある。
ここでおばあちゃんが作業をしている。
なんだか、ここは江戸、いや、鎌倉時代辺りに舞い戻ったような生活をしている。

古い時代の日本の生活を見ているようだ。
これまで遺跡の発掘調査で見てきた生活の跡、それがここでは実際にそのまま行われているみたいで、非常に興味深かったです。
僕らは珍しがりカメラを構える。フラッシュがおばあちゃんに浴びせられる。
「そんな光るもの、向けるんじゃないよ。」おばあちゃんは笑いながら、「やめとくれ」と言う。

言葉は分らなくても、おばあちゃんの言う、一言一言が分るような気がする。不思議です。
 
色々と説明してもらった後、更に山の上のお寺があるというところへと向かう。
 
 ここでは修行をする、小さな僧侶達が沢山いる。あの小坊主のような。赤い衣を身にまとう僧侶達。チベットのそれと似ているようだ。皆、純朴で良い目をしている。
 
 僕らはここで水をもらい、バナナを出してもらい、僧侶達と話しをする。
音がない。聞こえるのは僕達の話す声と自然の音だけ。すごく静かだ。
良い所に住んでいるのだなあ、彼らは。
ここでのんびりする僕ら。
 
そして、しばらく話した後、山を降りる。
 
 すると、さっきまで泣き叫んでいた子供とそのお姉ちゃんが後ろから着いてくる。一定の距離を置いて。
僕が振り返ると止まる。また前を向き、歩き出すと着いてくる。振り返る。止まる。
まるで「達磨さんが転んだ」をしているようだ。
 
 これが「お互い」に楽しくなり、僕らは結構な間、この遊びをしながら、一緒に進む。
「置いていくよ?」皆の声が掛かる。
僕は彼女達にさよならを言い、皆と共に、山を降りたのでした。
 
この先の旅の中で、誰も外国人を見た事が無い所に行く機会など、あるだろうか?
インドネシアのマルク諸島方面ですら、昔日本人に会った事があると言っていた。

とても貴重な体験で、素朴な村での楽しいひと時でした。

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