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第五十話 ジャングル生活2日目

2日目。
荷物を担ぎ、ジャングルトレッキングして、次のブンブン(動物観察小屋)へと辿り着く。

僕らより1時間程遅れてオージーのカップルが到着。
それより更に遅れ、一人旅の日本人が到着。
どうやら、今夜ここに泊まるメンバーが集まったようだ。


オージーの二人はとても大人しいバードウォッチャー達。

 もう一人の日本人の旅行者はとにかく装備がすごい。
グレゴリーの旧ロゴのバックパック、フェアリーダウンのシュラフ、シェラのマグカップ、その他、すべてのアウトドア用品が最高級ブランドで固められている。凄い。
 
「アウトドア好きなの?」
 
「いや、今回初めて。今までヨーロッパとL.Aとか旅行をしてたけど。余り自然とかは興味無かったんだよね。山とかも行った事ないしなぁ。取り敢えず今回はこういう自然は初めてだし、楽しみなんだ」と彼。
いきなりのアウトドアが、マレーシアのジャングルというのは驚き。そして装備から入るのは、何とも日本人らしい。
 
オージーの二人は自分達も静かだけど、それは他人に対しても同じで、少しでも話していると鳥が逃げるとすぐに注意してくる。ちょっとでも声が大きくなると、その度に何度も何度も注意してくる

面倒臭い…。

僕はブンブンに荷物を置いて、一人ジャングル探検へと向う事にした。
 
道無き道を歩く。
 
本当はトレッキングルート以外は歩いてはいけないと言われているのだが、僕はそれを無視してどんどん奥地へと入っていく。今思えば、不思議なのですが、何時間もジャングルの中を歩いても迷う事はなかった。

どういうわけか、森が教えてくれると言ったらら変かもしれないけど、木々の顔を覚えていた。

あ、「この植物は、さっきのだ」とか、「この小さな木の芽を右だ」とか。
森から声が聞こえるといったら変かもしれないけど、帰り道を教えてもらっているような感覚で、いつもどんなに奥地へ行っても戻ってこれたのでした(今は冷静に考えてしまうと、同じ事をするには怖くて無理)。

そうやって、どんどん奥地へと入っていく。
 
すると背後でドサッという音がする。
 
僕はすぐに後ろを振り返る。すると、なんと大きな蛇が木の上から落ちてきていたのです。丸太みたいに太い!
 
流れるように、滑るように走る蛇。凄いスピードで駆け抜ける。
僕は走ってその場から逃げる。
 
ヤバい、もしかして人は森の中では最弱になるんじゃないか??
 
そして今度はぬかるみに。
ここでは足跡が沢山ある。
 
たぶんイノシシや鹿などの足跡。その中にびっくりするようなものを発見する。
 
「これは…」
 
「ネコ……?なわけないよな。」
猫科の大きな足跡。
しかもまだ乾いておらず、比較的新しい。
 
ヒョウか何かだろうか?会ってみたい!けど、その時は同時に僕の命も無いかもしれない。
もしかしたら、どこかで息を潜めているのかもしれない。僕は慎重に、その場を警戒しながら歩く。

猫科の多くは「待ち伏せタイプ」。
ヒョウは木の上などに居て、獲物が通るとドサッと降りてくると聞く。
僕は手にナイフを握り、緊張しながら進む。
もし狙われたら、刺し違える覚悟で。
 
更に今度は木を引っかいたような跡。これは熊?しかしそう大きくない。
 
「これはマレーグマの爪跡だ!」
 
また、次の日にでもここで待ち構えてみようと、場所を覚えて帰る事にする。
 
そんな成果を浅野さんに話す。
 
浅野さんはやはり、何も見つける事が出来なかったようだ。
 
「本当に動物なんて居るんですかね?」
段々と、ここには動物なんて居ないんじゃないかと疑い始めていた。
 ここまで見つける事が出来ない人も、ある意味、貴重だと思う。
 
そしてジャングルに夜が訪れる。
夜の帳が下れば、ここは動物達の世界。
 
文明の中で生きる人間は、ここでは更に最下層、最弱の生き物となる。
蛍が飛ぶ。フクロウが鳴く。
 
「さあ、寝よ、寝よ。」
みんな寝てしまう。
 
ええ??何で?
アリエナイでしょ?
 
動物が活動するのは夜中。その夜中に寝てしまえば、動物なんて見れるわけがない。

何て勿体無い。
 
 僕は一人、マグライトを手に夜のジャングル探索をする。
でもやはり、それは流石に怖かったので、直ぐに戻りブンブンからの観察するという方向に切り替える。
何故なら、森の中は真っ暗で何も見えず、周りからは聞いた事のないような沢山の鳴き声が聞こえるので…。
 
みんな寝息を立てて寝ている。

僕は皆んなを起こさないように、ソッと観察小屋の窓へと向かった。 

小屋には大きな窓はあり、そこから外の景色を観察出来る。
 
闇夜ながら、時に月明かりで、辺りが照らし出される。
 
まず一番初めに現われたのは恐らくマレーバクの夫婦。
闇夜の中なので、よくは見えないけど、確かにシルエットからして、バクだと思う(本来から白黒のパンダみたいなはずだけど、そこまでは分からない)
 
「夜に夢を食べるバクと出会えるなんて、縁起良い」
僕は勝手にそう解釈する。
 
しばらく、そうやって見ていた頃でしょうか。
 
正面に見える景色(草原の広場)が、突然霧に包まれていく。右側から霧が立ち込めてくる。
しかもすごい濃い霧だ。
 
空気もひんやりと冷たい。
 
すると今度は、信じられないほど不思議な光景を目の当たりにする事になったのです。
 
夢のような_。

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