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第二十五話 最前線突入

自転車に乗り、どんもん郊外へと向かう。
ひたすら、遠くへ遠くへ。
気分的にはそれこそ、南米をバイクで周ったエルネスト チェ ゲバラのよう。
 
 すると段々と、道らしきものは無くなってくる。あとは田んぼのあぜ道のようなところをガタガタいわせながら、進む。ヌカルミにタイヤがはまる。田んぼに突っ込む。背丈よりも高い草むらの道を進む。
するとその草むらを抜け、視界が一気に開けるところへと出る。

武三くんと僕は広場の真ん中で止まる。というか、止まらざるおえない状況があったのです。

「おっと…。」
何か異様な空気を感じるというか、その広場の光景に驚く。
 
 なんと銃を構えた兵士達が(相当な人数)、全員川の方向を向いているのです!
僕らはそんな兵士達の真ん中にいきなり自転車で乗り込んでしまったのです。

「この状況はやばい!」
心の中でそうは思っても、もう仕方ない。

軍人達も、いきなり草むらから自転車で飛び出してきた外国人二人に驚いている。
 
僕らは全員に笑顔をふりまき、挨拶をする。苦笑いの兵士達。怒ってる人もいる。
 
僕らはひきつる笑顔のまま、早々にその場を立ち去りました。
「武三くん、何、今のは???」


「分からない!でも、演習とかじゃないね!直ぐにも戦争が始まりそうな感じだった!」

「よく生きて出られたね?」
いや、本当に助かりました。
肝を冷やしながら、一気にその場を駆け抜けました。
 
 実はこの辺りは少数民族達との交戦もあると聞いていた。当時は僕ら外国人が行ける場所は非常に限られており、所々、検問があった。
ジャーナリストだった知人は現地人に紛れて検問を越えたりしていたが、僕らは車の通る道ではなく、自転車で行けるような道から、そんな政府の見せたくない場所の包囲網を突発してしまい、図らずともそんな場所へと立ち入っていたのでした。

危ないところだった。

向こうも向こうで、今から戦争が始まるというその最中、いきなり訳が分らない外国人の訪問で、面食らったのでしょう。

逆にそんなタイミングで助かりました。
(数日後、この川の下流で、そんな少数民族達の多数の死体が流れてきたという事を付け加えていきます)
 
 その後も、更に奥へと進む。草むら、木に埋もれる仏教遺跡も途中見掛ける。

しばらく行くと奥地の村へと辿り着きました。

ここは全て高床式の住居。下では豚と鶏が飼育されている。セパタクローをする青年達。
変な外国人が来たと、大勢の子供達が集まってくる。ある家に招待される。
この時、初めて高床式の家にお邪魔したのですが、これがすごく快適。床は弾力があり、柔らかく、風通しも良い(トイレの穴から豚が見えるのは気になりますが)。
ああ、やはりこの環境故、生まれた住居なのだなあ。

 暫くし、外で子供達とサッカーをする僕ら。僕がボールを持つと怒る子供達。多数にに囲まれ、ボールを奪われる。キープすると、「変なの履いてズルイ(スポーツサンダル)」とブーイング。
皆、裸足なので。
仕方ない。僕も君らに合わせて裸足でやってやろうじゃないか。

 最初は村人達も珍しそうに僕らを見ていたのですが、子供達とサッカーをしている頃になると、もう普通に気にする事もなく、生活していました。

勿論、セパタクローにも混ざる。僕は少しリフティングが出来たので平気でしたが、武三くんはまったくの素人。いつも「お前のところでいつも終わる」「一度も拾えない」と(言葉は通じないけど、その頃には余り言葉は関係なくなっていた)、落とすたびにブーイングでした笑
 
「そろそろ、戻らないと日が暮れそうだね」
僕らは十分に楽しみ、子供達や村人に別れの挨拶をし、村を後にしたのでした。

この時は何もかも、彼らも僕らも初めての体験という事が多かったと思います。

 
 そして、街へと戻り、食事をする。途中、仲良くなったビルマの人と同じテーブルで語り合う。

他の村の話しやインレーの寺の話しなどを和やかに話す。

そしてさっきのあった事件、兵士の話もする僕ら。
 するとその話しを聞いた彼の表情が、突然変わったのです。

彼の話では、先日ももう少し川の上流の方で交戦があり、10人近くの死体が流れ着いたという。

その前も交戦がその近くであったという。

この現実を見て欲しい、シャン(州)の奥地へと案内するから一緒に来て欲しいと頼まれる。
そこに、ある外国人がいるから、紹介すると。

当時はクンサー将軍が軍政に投降したかしないかの、時代。まだまだ、タイ、ミャンマーの辺境の地は不安定な時でした。

武三くんは明日、このインレーを発つ予定なので断る。

でも、僕は自分のその正義感と好奇心から、翌日、その地へ行く決断する。
しかしこの時、僕は彼が何者か?そして、何をしてる人物なのか?そして、そこに待つ外国人が誰なのか?
何も知らなかった。
そもそも彼はビルマ人でもなかったし、そんな何も知らぬまま、更に奥地へと旅をするのであった。

この先、その外国人との出会いが、僕の人生を大きく変える事になる。
その時を境に、ただだだ毎日が楽しく笑顔で天真爛漫に旅をしていた時は終わりを告げ、大きな影を落とす事になる。
*ただ、この話はとても過酷な話になってしまうので、今回の中では飛ばします(実は2年前、タイとミャンマーの国境空白地帯、シャンの支配地域に行った時、偶然にもその時に出会っていた家族と再び会う機会があった事をここに書き加えておきます)。
 
武三くんとはここでお別れだ。
結構長い期間、行動を共にした僕らでしたが、なごみ惜しみながらも、ここでそれぞれ自分達の旅へ、一人旅へと戻ったのでした。
 
さて、そろそろビルマの旅も佳境です

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