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『職業遍歴』#10 新聞拡張団は、社会の吹き溜まり③ シャブが広がった拡張団

筆者が過去に経験した「履歴書には書けない仕事(バイト含む)」を振り返るシリーズ第10弾。学生時代にバイトしていた新聞拡張団のお話です。

10. 新聞拡張団の事務

学生時代にあるきっかけで新聞拡張団で事務のバイトをし始めた話、新聞拡張団ってなんなのかということを以下記事で書いた。

実際にどんな職場だったかは、こちらで書いた。

上記2記事でほぼ語りつくしてはいるのだけど、団員の間にシャブが広がったという話を書いて締めようと思う。

ある日のことだった。夕方ころ、ある団員が突然事務所を訪れた。私が応対したのだが、なんだか普通じゃないというか、言っていることも変だし、呂律が回ってないような感じ。お酒を飲んでいるのかな?と思った。

その団員さんは若く可愛らしい感じのイケメンで、事務員の評判はよかった。ところがそのときは、目は落ちくぼみ、頬はこけ、みるからにげっそり痩せていた。その変貌ぶりに驚いてしまった。着ているものも、ボロボロのジーンズに、ボタンをとめていないシャツ。明らかに異様だった。

女性事務員がぽつりと言った。「シャブかも・・・」

私は心底驚いた。当たり前だが周りにシャブをやってる人なんていない。映画やドラマのなかの話かと思っていた。

入手ルートはよくわからないのだけど、もともとはある班の班長がはじめて、それがその班内で広がり、ほかの班の団員の一部にも広がっていたらしい。最初にはじめた班長は、暴力団とのつながりもあるらしいとのことだった。そのひとはすごく穏やかなひとだったので、驚いた。

結局、このシャブ騒動、結構たいへんだった記憶があるのだけど、どう解決したんだっけ?当時団長も脅されたりして、ボディーガードを雇うほどだった。

拡張団と暴力団とのかかわりについては、私はよくわからない。たまたまだったのかもしれない。

でも、実際に知っているひとが短期間で全く違う風貌に変わってしまい、言動もおかしくなっているのを目の当たりにして、怖かったのを覚えている。

こういうことがあってから事務所を移転したんだったかな?最初はマンションの一室で、誰でも入ってこれるような事務所だったのだけど、次に入った事務所はビルの一室で、セキュリティもしっかりしていた。

前の記事にも書いたとおり、私のいた拡張団は、団長もきちんとしたひとだったし、拡張団としては優良なところだったのだと思う。でも、ひとを雇うためにそのひとが前の拡張団で背負っていた借金を払ったり(つまり人身売買のようなもの)、枚数をあげられず、借金を踏み倒して消えてしまう団員も何人かいたりした。消えた団員のことは探す。この仕事をしているひとはほかの仕事ができないことが多く、移り先もほかの拡張団だったりする。どうやらその業界内だけの新聞?のようなものがあり、そこで「お尋ね者」みたいに写真とか氏名とかを晒されるらしい。そうやって見つけ出された団員がどうなったか、私にはわからない。

私のわからないところで、いろいろエグイこともあったのかもしれない。でも私は学生の事務バイトとして、自分のやるべきことだけきちんとやっていた。

その拡張団が今どうなっているのかは知らない。新聞を購読する人もかなり減り、拡張員といった人もあまり見かけなくなったような気がする。今はもう、この会社はなくなっているかもしれない。私がいたのは20年以上前の話だから。

3年ほどまえ、最寄り駅のファミレスで、このときお世話になった女性事務員の一人にばったり再会した。そのひとはなんとそこでホール係として働いていた。20年ぶりだったけどお互いにわかって、私はそのとき確か名刺を渡した。「メールするね」なんてそのひとは言っていたけれど、メールは来なかった。そのファミレスにはその後何度か行ったが、時間帯のせいかそのひとに会うことはなかった。ちなみにそのひとは、当時団員のひとりと付き合っていた。けど、ファミレスで会ったときの名札はそのひとの苗字だった(そこチェックする私w)。その団員さんとは別れてしまったのだろう。ま、余計なお世話ですね。

そういえば、私も団員のひとりに熱心に口説かれていたのを思い出した。そのひとはなかなかイケメンだったけど、拡張員と付き合うというイメージが湧かなかった。そのとき思い切って付き合っていたら、今頃は違った景色が私の目の前に広がっていたかもしれない。

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