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やばい者たち

Side 人間

 とある格安アパートの近くの交差点に、大きな事故で無残な死に方をした幽霊が出るらしい。
 どこにでもありそうな怪談話だが、たまに真実だったりする。そう、先ほどの幽霊の話は本当であり、そのとある安アパートの住人たる俺は毎日見かけている。
 茶金系の髪の毛にいわゆる若者がしている格好で、冬に死んだのか厚着をした幽霊だ。
 別に、こいつに何かされたわけではない。されたわけではないし、ただ交差点を見ているだけなのだが。
 正直、見えない方が絶対的にいいし、見えていようが何もできやしないし、付きまとわれるのも嫌なので見えないふりをしている。見えると分かった瞬間に付きまとわれるわ、悪さされるわ、最悪だ。
百害あって一利なし、だ。
 そんなある日のことだった。学校に行くのに交差点で信号待ちをしていると事故が発生した。曲がろうとした車と歩行者の接触事故というべきなのだろう。歩行者のほうが跳ね飛ばされ、ずいぶんぐちゃぐちゃになっている。落ちた時の衝撃で頭蓋骨が割れたのか、ピンク色をした液体が道路に広がっていた。
 朝から最悪だ、今日の学食のメニューはハンバーグ定食なのにと思っていると、幽霊が呆然とその事故を見つめていた。
自分の事故でも思い出したのだろうか、一寸かわいそうだなと幽霊が口を開いた。
「やっば、めっちゃでかい事故じゃん! やっばあ、なんか手足変な方向向いてるしやばあ」
 すごく、若者言葉で野次馬波に騒ぎ始めた。
「うわ、血やば。俺血とか内臓とか嫌いなんだけど。ウェ、グロ。ホラーゲームとかそういう映画嫌いだし、リアルで起こるとかマジやばいんだけど、うぇ、なんか頭からピンク色の出てるしまじやば」
 やばいやばい煩い幽霊をしり目に、救急車と警察を呼んだ。やばいとかいう前に一応人道的に救急車を呼ぶべきだろう。あんな状態でも、助からないかどうかは医者が判断することだ。
「やっば、助かんのこれ? ここで死なないでくれる? 交差点の地縛霊俺だけでよくね? やば、俺の一危ういじゃん」
 縁起でもねえなこいつ、ある意味害悪だな。
「やっば、これどうすんだよ、俺しばらくこの光景見なきゃいけないのやっば、まじむりやっばいよっもう」
 目の前の事故よりも、こいつのほうが色々やばい気がしてきた。
 救急車も来たので、隊員に事情を説明し、そのまま学校に行った。
 学食のハンバーグ定食は普通にうまかった。

Side 幽霊

 とある安アパートの近くの交差点に、大きな事故で無残な死に方をした幽霊が出るらしい。
 どこにでもありそうな怪談話だが、たまに真実だったりする。
 そう、これは本当の話しである。何故わかるかって? 俺がその幽霊だからだ! すごいだろう! やばいだろう!
 と言ってもまあ、どういう死に方をしたのか、俺一人だったのか複数人だったのかやばいことに覚えちゃいないんですがね。やばいよね、自分の死にかも覚えてない幽霊とか立ち悪くね? 自分で言っちゃうのもやばいんだけどさあ。
 そんな俺ですが、この前交差点で事故が起き、追い出されそうになったので近くの人間に取り付いてみました。俺やばくね? マジ天才。地縛霊だから本来そのまま消滅だけど、手ごろな人間に取り付けばワンチャン移動できるかも? とか思いつくとか。マジ俺の頭脳やばくね、マジ天才!
 というわけで、よくここを通りかかる仏頂面男子(この前の事故で救急車呼んでたやつ)に取り付いてみました。
 いや、これにはちゃんと理由があって。なんか、こいつ俺のこと認知できるみたいで、だったら構ってくれる奴についてった方が得じゃね?みたいな。だから、ついていくことにしました的な感じ。
 いやあ、本当はやろうじゃなくて美人なお姉さんについていきたかったけど、俺のこと認識できる人少ないからさあ。しょうがないよね。
 たださあ、やばいくらいつまんないんだよなあ。俺のこと認識している割に何事もないような顔するし、物を落としたりポルターガイスト的なことを起こしても何も反応しない。ちょっとこっち見て、ため息つきながら掃除してるんだぜ? やばくね? 怖がれよって話。
 こいつ何をすれば怖がるんだろうと思っていた矢先、部屋で友達とスプラッター系ホラー映画を見るという話が聞こえてきた。
 やべえ、俺スプラッター系嫌いなんだよなあ。けど、移動できないからどうしようもねえ。やべー、まじやべえ、どうしよう。
 まあでも、こいつが何で怖がるかわかるかもしれないから、一応一緒に見るかあ。
 部屋に若者何人かが集まり、各々コーラやポップコーン、ポテチの袋を開けていた。
 ちなみに、ポテチはワサビ味のやつで、ちょっとつまみ食いしたら流石に死ぬかと思った。いや、俺死んでるんだけどね。あんなの平気で食うやつやべえよ。痛覚どうなってるのよ。
 んでもって、しれっと本編始まってるし。
 やべえ、めっちゃグロい……。吐きそう。無理無理無理無理!
 内臓とか血とか初っ端からぶしゃあな映画って何よ!
 やべえもう無理な期待帰りたいお母さーん!
 そう思っていると、なんか若人たちがなんか騒がしかった。
「いやいや、内臓そんな色してないし」
「本物のほうがもっと鮮やかだよなあ、解剖実習とかやっちゃうとやっぱスプラッタはギャグだわ」
 嘘だろ、こいつら。おぎゃりたくなるシーンでやべえくらい笑ってるんだけど。精神大丈夫? 病んでない? 病んでないとしたらこいつらやばくね? それともこれが普通なの?
 やべえ、まじわかんねえ。最近の若者やべえくらい怖い。
 やべえもう、なんか元の場所に戻りたいなあ。


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