『バーチャルワールド』チャプター1 冒険の始まり 前編

※この小説はフィクションです。※
 私は有道拓途。今日は2023年4月3日。今日からこのITの会社、テレブラザー株式会社に入社し、社会人ライフを迎えようとしています。入社式はここ東京都内のホールで行われるのですが、とても会場が広くて、どこに行っていいかわからないです。私が道に迷っていると…。


高杉義彦(以下、高杉と記載) :「君、道に迷っているの?」

有道拓途(以下、有道と記載) :「は、はい、ちょっとですね…。

高杉 :「テレブラザーの入社式はホールAだよ。」

有道 :「こんな大きなホールの中の、一番小さいところでやるんだね!でも、なんで僕のこと知っているの?」

高杉 :「内定者サイトで見たよ。有道拓途っていうんだろ?俺たち、同じ部署に配属されるみたいだね。よろしくね。」

有道 :「そそそ、そうなんだ…。ごめん、全く知らなかった。」

高杉 :「気にしなくていいよ。さ、会場に入ろう。」

有道 :「あ、ありがとう。これからよろしくね。」


 入社初日で、同期の友達ができました。なんだか、この会社うまくいくかもしれないです。


** 帰宅後 **


有道 :「ただいま~」

有道の母 :「おかえり。入社式どうだったの?」

有道 :「凄かったよ!いっぱいお偉いさんの方がいて…。あと友達もできたの!夕食の時に話すね。」

有道の父 :「友達ねぇ…、よかったね。同期と仲良くなることは会社を生きる上で大事だからね。でもまずは夕食の前に、お風呂に入るんでしょ。急いで入っておいで。」


 お風呂に入って、夕食を食べているとき、その日にあったことをすべて話しました。社長の講和で読まなければならない話、新しい友達の話…。


 それから、寝る前には僕のインスタグラムを見ました。同期が今日ホールで撮った僕の写真に「いいね!」を押してくれました。最高です。

 しかし、「ストーリーズ」の一覧を見ると…。


多岐嶋優璃花(以下多岐嶋と表記) :「はいどうもこんにちは~!多岐嶋優璃花です~。本日からフリーとして新たな道に進みたいと思います~!!」

有道 :「あれ、多岐ねえが動画出している!フリーランス初日というのに…。

内容は…?、ふむふむ、新卒の子にインタビューしている。テレブラザーではないけど。ファンだし早速みたいんだけど、明日から研修だからな…。よし、週末YouTubeでみようっと。リンクどこだっけ…。」


 多岐ねえとは、多岐嶋優璃花アナウンサーのこと。ミス東大を経て国立放送のNo.1のアナウンサーになった方!なのですが、今年フリーになりました。


** 1週間後 **


 1週間の新人研修を経て、私と高杉君はサポートエンジニア部門に配属となりました。

そこで、中年より少し若い、30代後半ぐらいの男性の方に会いました。


堀崎良一(以下堀崎と表記) :「始めまして。オレは堀崎という。」

有道 :「ははは、始めまして…。」

高杉 :「有道!この人上司だよ~!!」

有道 :「す、すみません。有道と申します。右にいるのは、同期の高杉です。」

堀崎:「有道。未だ社会人生活慣れていないみたいだね。でも大丈夫。これから頑張れば問題ないよ。」

 このときは未だ気づいていませんでした。この上司の方と大変なトラブルに巻き込まれるなんて…!


** 半年後 **


 それから半年。私の予想に反して、仕事ではうまく行かない日々が続きました。まず、最初の案件先では「覚えが悪い上に残業が多い」と評され、案件先から追い出されました。辛うじて受け入れてくれた新しい案件先で、早速業務用のPCをセットアップしようとしたのですが…。


毛受三(以下毛受と表記):「有道~!!さっき言っただろ~!!!PCが来たらオレに報告しろ、となぁ!話ぐらい聞いとけよなぁ!肝に銘じとけ!!!」

有道 :「す、すみませんでした~!!!」


 始めて課長に怒鳴られました。確かに、PCが来たら、課長と一緒にセットアップするはずですが、緊張のあまり指示を忘れたのです。私、ITエンジニア向いていないのかもしれない。始めて思いました。


** お昼休み **


高杉 :「有道、さっき普段温厚な課長に怒られてたけど、何かやらかしたの?」

有道 :「指示されたことを忘れてた。僕、転職したい。この仕事向いてないのかもしれない。」

高杉 :「何言ってんだよ。未だ入社して半年さ。君のやったことはヤバかったようだけど、これから気を付ければいいさ。後、コミュニケーション苦手?」

有道 :「もしかすると苦手かも。」

高杉 :「そうか、それならこうするのはどう?」

高杉君は、私を何とかしようと、アドバイスをくれました。内容が分かり辛い指示は、作業前に確認すべき、ということだった。しかし配属後それは活かされませんでした。やるべきタスクが多すぎて、アドバイスを実証する時間がとれない。


** 半年後**


 結局その後、自社業務に移動となりました。しかし、そこは2個目の案件先より忙しく、自分のタスクすら管理できない。最悪なことに、配属1ヶ月で私はインシデントを起こしてしまったのです。私は課長の指示を受けて、会議中に申請履歴のことを聞かれるかもしれないと思い、申請履歴を調べようとしていましたが…。

堀崎 :「なぁ有道、お前、自分のやるべきこと分かってるの?」

有道 :「はっ!すみません、すっかり申請履歴書を追いかけていて…。」

堀崎 :「はぁ?お前自分がやらかして、部外者からサポートまで受けてるのに内職してたってことか…、人として最低だろ!!」

高杉 :「堀崎さん、認識ずれてますよ。毛受さんから指示あったんでしょ。」

堀崎 :「そ、そうか…。にしてもそれは会議の後にやるべきことだろう!!お前はコミュニケーション上で課題があると思っていたが、どうやらそうじゃないみたいだ。何をするにしても、根幹がずれてるぞ!今やるべきなのか、俺に先に聞かないと…!!!」

インシデントをした上に、温厚な堀崎さんに怒られてしまった。堀崎さんに本性を知られたのかもしれないです。

 私はITエンジニアがなんなのか分からない状態で入社しました。「IT業界がセカンドキャリアで有利になる」その言葉を過信して、就活アドバイザーから勧められた会社としてテレブラザーを受けました。では私の本当にやりたかったことは何なのか。それはジャーナリストとして全国でトレンドとなっているものを取材することでした。普通ジャーナリストを目指す人は、学生時代からマスメディアに関わる必要がありますが、新型コロナウイルスで就活が深刻になりそうなのと、私の要領が悪いから学業だけで内定を狙おう、と間違った作戦をたててました。その結果本命のマスコミ業界は全滅。要領が悪い人は絶対向いてない、というIT業界の闇を知らずに、テレブラザーを受けてしまったのです。


** 帰宅後 **


有道 :「僕、この業界無理だよ~!!」

有道の母 :「今頃何を言ってるの?確かにあなたは中高のとき理数系向いてなかったじゃない。」

有道 :「辞めたい。この会社。」

有道の母 :「辞めた後の進路決まってるの?3年、いや少なくともあなたが結果を出すまではこの会社辞めるべきではないでしょ!!」

有道の父 :「仕事が辛いのか…昔から君のこと知ってる中学校の先生に聞いてみたらどう?転職先の参考になるかもよ。いや、待てよ。パパと一緒に司法書士を目指してみたら?向こうから仕事もらえるよ?いずれにせよ早く動いた方がいいよ」

有道 :「でも、オレ法律系は苦手なんだけど~」


私の両親はどんな相談でも「失業しないで」という観点から色々物を言います。そりゃそうですが、私キャパ低いから充電期間が必要なようにも思うのですが…。


** 翌日**


 偶然にも翌日は大型連休でした。私は自分の本当にやりたかった「マスメディアで取材して、自分の記事を発表する」夢を自分で叶えられるか、それを確かめるために、その日に配信が始まった仮想空間アプリ「バーチャルワールド」をスマートフォンにダウンロードし、アプリを開きました。ホーム画面には「入る」というボタンがありました。そこを何気なくタップすると…。信じられない、スマホが巨大化し、その中に私が吸い込まれていくのです。わぁっ、と悲鳴を上げながら私はスマホの中の世界へ飛び込みました。

 仮想空間上の地面にお腹から落ちて、その痛みで目を覚ますと、そこには自由が丘の駅前ロータリーのような景色が広がっていました。

カーター :「大丈夫ですか、少年?」

後ろから私の肩を、見知らぬアメリカの黒人らしき方が、ポンと叩いてきたのです。

有道 :「ひぃ~!あなたは誰?ッてかなんで日本語しゃべれるんですか~?」

カーター :「驚かせて悪いねぇ。生まれはフロリダですが、10年ぐらい前から日本に住んでるですよ。ほら、これが在留資格。」

そして彼は在留資格を見せてくれました。なんだ、怪しい人じゃないみたい。

有道 :「失礼しますが、お名前うかがってもよろしいでしょうか。また、ここで何をしているのでしょうか。」

カーター :「オレはカーター・ヌビンという。研究家集団『ライトニングレボリューションズ』のリーダーだ。今日は仮想空間のフィールドワークをするために、ここに来たんだ。」

有道 :「フィールドワークか!何か楽しそう!僕も何か取材して、記事に残すって仕事が好きなもので…あ、名前は有道拓途っていいます。」

 何かこの人合いそう。こんなに楽しく会話できたの何か月ぶりだろう。興味本位で彼の研究について行こうと思いました。しかし、その時…。

堀崎 :「おい!そこの裏切り者!!オレの大切な部下に手を出してんじゃねぇぞ!!」

…何やら聞き覚えのある怒鳴り声がしたのです。


チャプター2に続く

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