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兵法書『孫子』で脳に刻んでおきたいプロジェクトマネジメント基本原理 ver.1

(※この記事は、継続的に要バージョンアップ)
三国志が好きなので、孫子の兵法は小学生のときから聞いたことがあり、大学生のときに日本語訳を全編を読んだ。その時は、特に印象に残った言葉などは無かった。

2019年12月、年末の暇なときに何気なく読み直したら、自分にとって価値のある基本原則が書かれてあることに気づき、何度も読み直した。私はプロジェクトマネジメントの仕事をする機会が多く、今後もマネジメント職を追求したいと考えている。『孫子』はプロジェクトマネジメントに通じる基本原則が書かれていると考えた。

Googleで検索してみると、「孫子」+「プロジェクト」で書かれている記事はネット上にあるが、フレームワークの類似性ついて書かれているだけだったので、自身で考えを整理する。

『孫子』の中からプロジェクトマネジメントにとって重要と私が考えた箇所を抜粋し、「プロジェクトマネジメント視点の解釈」を記載しておく。

◆プロジェクトの成否を分ける五大要素(計篇より)

一に曰く道、二に曰く天、三に曰く地、四に曰く将、五に曰く法。
将は聞かざることことなきも、之を知るものは勝ち、知らざるものは勝たず。

【訳】
「戦いの勝敗を左右する要素として「道・天・地・将・法」の5つがある。この言葉を聞いたことない将軍はいないだろうが、本当の重要性と意味を理解している人は勝ち、理解していない人は勝てない。」

・「道」:大義名分や「君主と民が心を同じにしている状態」のこと。
・「天」:四季、天候などの意味で使われている。
・「地」:地の利のこと。距離、地形の高低、広狭のこと。
・「将」:将が備えるべき、能力のこと。
・「法」:軍の部署割、監督権、指揮権のこと。

【プロジェクトマネジメント視点の解釈】
「道」は、クライアント、チームメンバー、会社の上司と共通のゴールを持って、心が同じ状態になっていこと。実際のプロジェクトにおいて、ゴールやビジョンを共有することは、”とても大事”という表現は不適切で、”最重要項目”に挙げるべき。上手くいったプロジェクトと上手く行かなかった時を比較すると、プロジェクトマネージャー、クライアント、メンバー、上司、社長、協力パートナー会社などの関係者間の信頼関係はどの程度強固だったか。ごれほど、一致団結して仕事をしていただろうか。
スコープ調整や予算調整など、お金に関わるセンシティブな話しもクライアントとの信頼関係ができていた時はスムーズに終わり、業務に集中できていた。メンバーは課題や解決策を積極的にエスカレーションしてくれていたし、上司は社内のリソース調整にすぐに応じてくれた。関係者との信頼関係の構築はプロジェクトのの最重要課題と心得て、お金と時間を投資すべき。

「天」は、「タイミング」と解釈する。プロジェクトが開始される背景やタイミングもプロジェクトの成否に影響するので注意をすること。PJを始めなければならない必然性がどの程度あるか。
例えば、
・「これからはデジタルマーケに力を入れろと、上司から言われているからとりあえず、サイトリニューアルしたい」
・「会社の記念日に合わせてWebサイトをかっこよくしたい」
・「システムの保守契約が切れるため、年末までにシステム移行をなんとしても実施しなければ業務が回らなくなる。」
など。PJの背景や実施のタイミングによって、メンバーのコミットメント、予算獲得のしやすさ、メンバー調達の可否が影響されるので、タイミングには気をつけること。

タイミングを考えるための具体的な質問は、以下3点。
1.PJの内容は、世の中全般の時流と合っているか?
2.クライアントにとって、今このタイミングでPJを始める意義があるか?
3.このPJを始めた場合に、クライアントの業界内で差別化できるか?
全てに「YES」で答えられるなら、タイミングとしてはOK。

「地」は、PM視点で解釈すると、「主戦場の理解」、プロジェクトの「争点」といえる。例えば、開発PJでいえば、要件定義~設計~開発~テスト~公開までプロセスで、どのフェーズが最も最終成果物の品質に影響しそうか、クライアントと揉めそうか、難易度が高いか、をプロジェクト開始前に把握できていることがPJの成否を左右することになる。これは、クライアントの要望と自社の得意/苦手分野の正確に理解できていば可能。PJの「主戦場」が分かっていれば、事前に検討ためのスケジュールを十分に取れるし、PJメンバーの調達が可能になる。

「将」はPJメンバーの能力に該当するだろう。メンバーの能力に焦点を当てること。実際の現場では、コミュニケーションに難があるけど優秀なエンジニアがたくさんいる。とにかく、能力に焦点を当てて、能力を認めて、最大限発揮してもらえるようにPMが動くこと。

「法」はPJの仕組みづくりをすること。各チームの役割を定義し、方針を作って、PMがいなくてもPJが勝手に回り、課題が発生したら勝手に上がってくる仕組みをつくること。本来チーム単位で判断すべき事項なのに、PMが事あるごとに判断をしないとPJが回らないのは、炎上案件の一歩手前だと心得よ。PMが細かい業務に入りすぎると、PJを俯瞰できず、本当に重要な意思決定を下すための時間が取れなくなる、もしくはそもそも意思決定を見逃すことすらありえる。

◆計画段階にこそ成功を決める真因が潜んでいる(謀攻篇より)

善なる者の戦うや、奇勝なく、智名なく、勇功なし。
勝兵は先ず勝ちて、しかる後に戦う。

【訳】
優れた者が戦う場合には、世間を驚かせるような奇抜な勝利はなく、智将だとの名声はなく、勇猛な武功もない。
勝利する軍は、戦う前に勝利を確定しておいてから、その勝利を予定通りに実行しようと戦う。

【プロジェクトマネジメント視点の解釈】
上手くいくプロジェクト(特にシステム開発系)では、プロジェクトの土壇場の奇抜なアイデアで乗り切ることや、危機的状況の中でマネージャーが献身的にサポートして課題をクリアしたり、メンバーを叱咤激励して引っ張っていくようなことはない。その結果、一見何事もないように終わるので、マネージャーが社内で評価されるようなことはない。
なぜなら、プロジェクト開始前から、技術的な実現性、作業ボリューム、リスク、メンバーのスキル、クライアントのコミットが得られ、それらが全て資料上に文章として記録され、関係者と共有されている。そのため、プロジェクト開始後は、ただ粛々と業務を進め、適宜予定を軌道修正するだけで、プロジェクトが完了してしまう。

この孫子の言葉は日本企業の全てのプロジェクトオーナーとプロジェクトマネージャーが心に刻むべき言葉だと思う。これまで多くのプロジェクトを見てきて、計画も段取りも無く始まるプロジェクトがいかに多いことか。闇雲にプロジェクトを始めて、計画が無いにも関わらず、予算と期限だけが決まっているプロジェクトは、関係者全員を不幸にする。オーナーは必ず孫子を読みましょう。自分たちが事前準備の重要性を理解することで関係者を幸せに仕事をしてもらうこともできる。

計画が9割。PMBOKのプロセス群のうち、計画プロセスに大部分の項目が集中しているのもうなずける。

◆事前の情報収集にはお金も時間も惜しまず使う(用間篇より)

敵の情を知らざる者は、不仁の至なり。

【訳】
(戦争は国の人的リソース、金、資源を膨大に消費し、一つの戦いで全てが水泡に帰すこともあるため、)戦いを有利に運ぶための情報を集めることを怠るものは、民を愛する心のない不仁の最たるものだ。

【プロジェクトマネジメント視点の解釈】
プロジェクトはクライアントのお金、自社のお金、メンバーの大切な時間を消費して実行される。そのため、プロジェクトの成功のために必要となる事前の情報収集を怠る人間は、クライアントの成功を願っているとはいえないし、会社のことも、プロジェクトを支えてくれるメンバーのキャリアのことも考えていないし、もはやマネージャー失格といえる。
プロジェクト開始前に、クライアントの会社の状況、クライアントメンバーの力量、プロジェクトで利用するサービス調査、メンバーのモチベーションとスキルなど、成功に必要となる情報を必ず集めること。

プロジェクトに不足している情報、成功を予約するための情報が何なのか仮説を立てつつ、情報収集にはお金と時間は惜しみなく投入せよ。

◆プロジェクト成功の定義を広い視野で考える(火攻篇より)

それ戦いて勝ち攻めて得るも、その功を隋(お)わざるものは凶なり。

【訳】
そもそも戦闘行為を行い攻撃して戦果を獲得したにもかかわらず、戦果がもたらす戦略的成功を追求しないものは、国家に対して不吉な行為である。

【プロジェクトマネジメント視点の解釈】
プロジェクトとしてシステムやWebサイトをクライアントの要件どおりに作成ことができたからといっても、システムによって得たい成果が本当に達成できるかどうかを追求しないようでは、本当の意味でプロジェクトの成功とはいえない。メンバーの貴重な時間を消費してシステムを作るのだから、売上やコスト削減のような当初の大目的の達成がいとされるべきだし、本当に貢献できるのかを継続的に評価していく必要がある。

プロジェクトの成功を考えるのであれば、さらに広い視点で考えるべき。
成功を判断するための具体的な質問は以下3つと考える。

1.クライアントから「ありがとう」の言葉をかけられ、継続案件の相談を受けるほど信頼関係を築けたか?

2.メンバーから「自身の成長になった」と言われ、またやりたいと思ってもらえたか?

3.プロジェクトの金銭的利益、もしくは実績として会社の資産となるプロジェクトだったか?

上述の3つの質問に全て「YES」で答えられるPJは、私はまだ実現できていない。2つまでしか達成できていないが、今後達成するつもり。

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