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感傷日記/遅すぎた涙

1月。

 映画初めはシネマ・ヴェーラのフィルム・ノワール特集で「遅すぎた涙」。ロスの夜景を見下ろす夜道を走っている夫婦の車に、突然、対向車から札束のぎっしり入った鞄が投げ込まれる。当然、ヤバイ金である。でも妻は手に入った金を手放したがらない。ユニオン・ステーションに鞄を預けて様子を見ることになったが、大金に目が眩んだ女はその鞄の持ち主である悪党を巻き込んで、次から次へと悪事に手を染めていく。

 最初はリズベス・スコットを引っ叩いて強気に出ていたはずのダン・デュリエが、殺人も辞さないスコットにドン引きして精神的に追い詰められていく様子が面白い。

 貧困層の出身ではないが「ホワイトカラーの中の貧民」で「周囲への見栄で自分をすり減らしていく」立場だったというヒロインの飢えに、急速に物質主義に傾いていく大戦直後のアメリカが見える。リズベス・スコットの風情にすごく説得力がある。第二のローレン・バコールとして売り出された女優で華奢な美人だが、何だか品がなく、そこがこの役にハマっている。調べたら、19歳の時にブロードウェイでタルーラ・バンクヘッドの代役を務めて有名になった女優だという。バンクヘッドはプロデューサーの愛人だったスコットを認めず、舞台裏では血で血を洗う争いが繰り広げられたとか。この二人の諍いをもとにしたのが「イヴの総て」の原作だと知って、納得した。そうか、オリジナル・イヴ・ハリントンか! 通りでガツガツとしていたわけだ。


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