死なない男

 ゾンビと来れば死体が歩き人々を襲うモンスターとして知られている。

 倒す方法としては頭を破壊すればいいというのが共通の方法である。

「おはようございます」

 朝、出社してきた男に誰もが絶句した。

「お、おい…大丈夫なのか?」

 その男に声をかけるがいつものように返事が返ってきた。

「すいません、昨日ちょっと飲み会の後ひき逃げに遭いまして…」

 その男の体はズタボロになっており、腕が奇妙な方向に折れ曲がっていた。

 その男の名は万年平社員の落合だ。

 落合は会社の中では古参にも関わらず一切出世することなく平社員のままだった。仕事はそこそこだが大きな仕事を任されることも無く新入社員にも追い越される始末。

 唯一褒められることは一度も欠勤したことがないことだった。

「だからってお前…ひき逃げに遭ったなら病院に行けよ!警察にも…」

「いえ、大丈夫です…痛くないので…」

「いやいやいや…そういう事じゃなくて…」

 その日は結局病院に行くこともなく終業まで仕事をこなした。

 その次の日もまたその次の日も働いた。

 しかし、1週間もすると異変が現れた。

「何…この匂い!」

 社内に充満する腐敗臭。その発生源は落合だった。

「おい!落合!お前風呂入ってるのか?」

「風呂…入ってますよ?頭もきちんと洗いましたし…あ?」

「ひぃぃぃ!!」

 落合が頭に手をかけた瞬間髪の毛が頭皮ごとずるりと落ちた。剥き出しになった頭蓋骨と頭皮の間には粘液が作り出した糸が垂れていた。

「うわぁぁぁ!お前!早く病院に行けよ!!」

 病院で医師は複雑な顔をしていた。

「落合さん、あなたね、死んでるんですよ…」

「え?」

「心拍数0、血圧0、それどころか血が腐り肉も腐ってる!!なんであなたは動いてるんですか!?」

 医師は半狂乱になっており、まくし立てる。

「なんでって…俺にもわかりません…痛くもないし…」

「当然でしょう!!死んでるんですから!!」

 すぐに警察の事情聴取が始まるが、腐敗臭のあまりの匂いに聴取がまるで進まなかった。

 その内学者達が集まり研究施設へと送られた。

「これは人類の不老不死の夢が叶うかもしれない!」

 学者達は興奮していたが時間が経つほどに落合の体が腐れ落ちていくにつれて恐怖感へと変わっていた。

 なぜならいくら研究し調べても落合が死なない原因が見つからなかったからだ。

 そしてそれは落合自身も不安に駆られていた。

(俺…死ねないのか?)

 それから落合は研究施設を脱出し紛争地域へと身を移していた。

 個人軍事会社を設立し撃たれても死なない不死身の戦士として最前戦で活躍していた。

「俺は死なない男なんだ!ははは!」

「ダメですね…」

「え?」

 どこからか声がした。

「心拍数0。血圧0。ご臨終です」

 突然意識がはっきりし、耳に鮮明な声が聞こえる。

「酒を呑んで路上で寝てる所を車で轢かれるなんて…」

「懸命な措置を施しましたが…」

(おいおい…どうなってんの?俺は…声が…目も開けられないぞ!?)

 そして狭い箱に押し込められお経が聞こえる。

(おい!俺は生きてる!生きてるんだよ!!)

「最後のお別れを」

(これから…意識がはっきりしているのに…このまま…焼かれるのか!!おーい!!俺は生きてる!!おーい!!)

 その後、落合は“生きたまま”焼かれた。


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