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超ド底辺で働く私

私は塗装職人である。

ガテン系でありながら文章を書きイラストを描くことを楽しみにしている変わり者だ。

職人の多くはヘビースモーカーで大酒飲みでギャンブラーだ。休み明けの話題となればパチンコで勝った負けたの話で持ちきりだ。

気が付けばそういう業界に身を置いているわけで決して目指して入ってきたわけではない。

体育会系の縦社会で性格に一癖も二癖もある職人の世界は一般社会からは隔絶された業界なのである。

今にして思えば学生時代に勉強をしておれば、もっといい会社に入れたものを…と自分を責めたくもなるが幼少期の家庭環境を考慮すると進学は諦めざるを得なかったのだ。

自己主張の弱い子供だった。

家庭内では親父の権力は絶対であり、召し使いのように扱われたものだ。

傲慢な男で一度座ったらテコでも動かずにあれ持ってこいこれ待ってこいと落ち着いて飯も食えなかった。

食事中に会話らしい会話をした記憶がない。

学校で起きたことや友達のことなど話したことはなかった。

当然進路のことなど全く話す機会はなかった。

中学三年の頃、進路を先生に聞かれた時に私はこう答えた。

「プロレスラーになりたい!」

当時、新日本プロレスで活躍していた武藤敬司に憧れていた。あのようにでかくてカッコいいプロレスラーになりたいと思った。

だがそういう私の理想は先生の耳には届かずに一蹴され「現実を見ろ!」と言われた。

アバラが浮いた貧相な体、枯れ木のような腕にトムソンガゼルのように細い足である。

その頃私は家庭内不和のストレスで拒食症気味になっており、満足に食事を摂っていなかったのである。

現実に引き戻された私は悩んだ。

進学という選択肢はなかった。貧しい家庭だったのでとても学費など払ってもらえるとは思えなかったのだ。

ならばもう働こうと決意した。

運良く業界では大手の会社に就職することが出来たのだが大きな問題が浮上した。

職人の世界は絶対的な縦社会なのである。先輩のいうことには一つ返事でハイ!と答えねばならぬ。

一服の缶コーヒーを買ってくるのも下っ端の仕事だ。それぞれの好みを把握しなければならない。

あの人はブラック、あの人はエメマン、あの人はカフェオレと言った具合だ。

ヒエラルキーは家庭でも下っ端で職場でも下っ端である。

中には意地が悪い人もいる。

温かいコーヒーを買っていくと冷たい方だと叱り、冷たい方を買っていくと温かい方だと理不尽に叱られた。

極めつけはコンビニで昼飯を買いに行かされるのだが、どうしておにぎりを温めてもらわなかったのかとひどく咎められた。なので翌日は明太子とイクラと注文されたのでそれらをラベルが真っ黒くなるくらいアッツアツにレンチンしてもらったのである。

そういう癖の強い職人の世界の中、一時間に一本しかない田舎のローカル線の始発に乗って21時過ぎに帰るという生活を三年続けた。

元々体が弱かった私は体調を崩し退職を余儀なくされ、職を転々とし紆余曲折ながらも結局職人に戻り日曜祝日関係なく現場で汗臭くなって働いている。

一服中缶コーヒー飲みながらこうして文章をまとめている。きっと来年も再来年もこうしているのだろう。


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