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城定秀夫「女の犯罪史」

城定秀夫「女の犯罪史」

昭和53年3月18日、豊島区の公園で女性ホームレス(波多野結衣)が通行中のリーマンを傘で殴りつけ、そこから彼女の出身地が日本海側の漁村で、3000万円もの公金を横領した漁協職員であることが発覚。「OL日記 濡れた札束」を彷彿とさせる、不幸な女の半生を描いた実録犯罪映画の力作。

ほんわかムード漂う作風が特徴的な城定さんが時々思い立つw人間のどす黒い欲望と哀しい宿命を徹底的にクールに描いた作品で、城定さん自身も撮っていて辛くなったのだろうか、シンデレラ御用達の赤いハイヒールを始め、これでもかと放つモチーフのオンパレードが特徴的な作品。

映画全体の作りは、まさに昭和の人気番組「ウィークエンダー」そのもので、「新聞によりますと」よろしく、まず凶悪事件を最初に持ってきて、そこから、犯罪者や被害者、その関係者による再現ドラマを綴る。のだが、やっぱり77分は長い。ウィークエンダーなら10分で終わりだw

物語は、ウィークエンダーっぽくw昭和53年3月28日23時30分、豊島区の公園で女性ホームレスが傘を振り回してサラリーマンに怪我を負わせ現行犯逮捕。警察の取り調べにより彼女が日本海の田舎町から上京した漁協職員で公金横領していた、という実際の事件に基づくフィクションw

ヒロインの波多野結衣はどんな境遇に生まれ、日本海の漁村でどんな悲惨な目に遭い、結果として公金を横領したが情夫に裏切られ、ホームレスになった挙句、自暴自棄になる。その結果が女性たちの同情を引き、求刑5年が1年6ヶ月に減刑される。どんな不幸な境遇なの?という話。

最大のモチーフは赤いハイヒールである。人妻の結衣は、漁村に廃液を垂れ流したお詫びに来た製紙会社の若手社員(吉岡睦雄)と偶然出会い、夫のDVに悩む中で、彼がプレゼントした赤いハイヒールによろめく。シンデレラになった気分でタップダンスを踊る結衣はひたすら哀しい。

結衣は漁協の共済課に勤めていて、同僚が佐々木麻由子。麻由子も課長の牧村耕次と不倫していて、愛用の口紅を結衣にプレゼントし「ガンバレ!」と背中を押す。夫の森羅万象に暴力的な性生活しかされてこなかった結衣は、地味な生活から、真っ赤な口紅をして女に生まれ変わる。

結衣が漁協のつまらないルーティンワークをしながら、叩き続ける電卓。ため息をつきながらお金の計算をしていた結衣は、吉岡が妻と離婚するために3000万円の慰謝料が必要と聞き、まるで「OL日記 濡れた札束」の中島葵に様に銀行届出印を偽造、払い戻し請求書を銀行に持ち込む。

結衣が夫のDVに悩み、医師から処方された睡眠導入剤。夫の森羅を殺して生命保険金をせしめようと考えた結衣は、森羅が毎晩自宅で晩酌する日本酒に、漁に出かけるとき持っていく魔法瓶のお茶に、砕いた睡眠導入剤を入れ続ける。でも、森羅は身体が屈強で、不死身であった(笑)

昭和49年7月。波多野結衣は森羅万象とお見合いする。結衣は昭和26年9月2日生まれ。22歳とは思えないほど老けた、いや、落ち着いた(笑)結衣は、女子高を卒業し地元の漁協に就職。共済課に勤める眼鏡っ子。彼女の父親は早くに亡くなり、母親も前年に亡くなり天涯孤独だった。

森羅は村一番と言われた腕の立つ漁師。彼は自慢の漁船に結衣を案内すると、船が小波に揺れた隙をつき、犯した。結衣は処女だった。森羅は「結衣と結婚する宣言」子供は二人欲しい。森羅は結衣の母親が村で知らぬものがいない「売女」だと知り、それでも覚悟して結婚した。

森羅のセックスは暴力的で、結衣の夫婦生活は散々なものだった。昭和52年6月、もう結婚して3年、子供はできず、森羅は結衣を「産めず女!」と罵った。そんな頃合いに、漁村で製紙会社の汚染排水問題が起き、ガキの使いで若いサラリーマンの吉岡がやって来て、結衣と知り合う。

退屈な日常に飽き飽きしていた結衣は、吉岡と恋に落ちる。吉岡が投宿する旅館で結ばれ、夜な夜な、森羅の目を盗んで逢引きする。これは森羅の知る所となり、エロい姿で寝ている結衣のケツを見て興奮した森羅は「シャクレ!」(←どこの方言だよw)強引に結衣にフェラさせた。

結衣は吉岡に抱かれるようになると、森羅から心が離れて行く。漁協で電卓を叩きながら、吉岡との熱い情事を思い出す一方、ステテコ姿の森羅に「シャクって(尺って?)くれや」と言われても手コキしかしない。結衣と吉岡の逢引きは、漁協で同僚の麻由子の知る所となる。

麻由子も課長の牧村と不倫していたので、頑張れ!と結衣に口紅をプレゼント。お化粧して吉岡と会い、抱かれるうちに二人の仲はどんどん近くなる。昭和52年7月になった。吉岡は結衣に赤いハイヒールをプレゼントした。吉岡と会えない時間も、結衣はハイヒールでタップを踊った。

吉岡が東京に戻ることになった。結衣は、もう二度と吉岡に会うことはできないと思った。でも、吉岡は「妻とは離婚を考えている。来月、また仕事で来るから」と結衣に言い残した。果たして昭和52年8月になり、吉岡は再び結衣の漁村に来て仕事を続け、結衣とも逢引きを繰り返す。

結衣は食事の支度をしながらジャズを聴く。脳裏にタキシードを吉岡と、赤いハイヒールを履いた自分が社交ダンスを踊っているシーンが浮かぶ。目の前では森羅がステテコ姿で日本酒を飲み、結衣を抱き寄せると獣のように抱いた。その日から結衣は森羅に睡眠導入剤を飲ませ始めた。

森羅は結衣の浮気を疑い、深夜に帰宅する結衣を発見、激しく殴りつけた。でも「麻由子さんと会っていた」とウソをつく結衣。森羅が電話すると、麻由子は口裏を合わせてくれた(←ここ「団地妻 昼下りの情事」みたいw)森羅はふてくされて寝てしまい、結衣は助かった。

結衣は、吉岡の子供を妊娠した。海に向かってお腹を撫でながら「やっぱり、男の子がいいなあ」と呟く。その砂浜に、待ち合わせた吉岡がやって来た。「私、妊娠しちゃった」その瞬間、吉岡の顔が曇った「また連絡する。もう少し待ってくれ」彼は再び仕事を終え、東京に戻った。

昭和52年10月になった。結衣の家に、イニシャルでこっそり、吉岡から手紙がきた「やっぱり妻とは別れられない。慰謝料が3000万円要る」これを読んだ結衣は決心する「何とか3000万円、用立てよう!」漁協の共済課の経理はザルだった。なんせ、結衣自身が一手に引き受けていた。

昭和52年10月24日、結衣は牧村課長が押印した財務諸表を勝手に家に持ち帰り、その上にカーボン紙を置いて実印の印影を写し取ると、共済金の払い戻し申込書を偽造した(←この手口「OL日記 濡れた札束」にそっくりだ!)そして翌10月25日、取引銀行に持ち込み、現金化した。

翌10月26日、結衣は、真っ赤に口紅を塗り、目一杯お洒落な服を着て、思い出のハイヒールを履いて、東京へ旅立った。豊島区雑司ヶ谷、ここは吉岡のアパートがある場所。結衣は思い切って吉岡の部屋を訪ねた。奥から女性の声がした。「新聞勧誘員?」「ちゃんと断ったから」

奥さんらしき人が吉岡に言う「あなた、ちゃんと断れない人だから」これで、結衣は吉岡のウソを確信した。頭の中で、結衣自身が赤いハイヒールでタップダンスするカンカン音が流れ続ける。彼女は絶望し、豊島区の公園で、カバンに3000万円を入れ持ち歩きホームレスとなった。

結衣がホームレスとなって、もう半年以上が過ぎていた。同じホームレスの林魏堂が「しらみの唄」を歌っている。彼女の皮膚はボロボロで、身体からは異臭が漂っていた。赤いハイヒールを履いている結衣は、スーツ姿のサラリーマンが近寄ってきた時、彼が吉岡の顔に見えた。

結衣の脳内に、日本海の漁村に居た時、台所で家事をしながら聞いていたジャズが蘇り、その瞬間、結衣はシンデレラになって吉岡と社交ダンスを踊っていた。結衣は吉岡に抱き着いた。でも、彼は吉岡ではない。「なにすんだ、ババア!」怒った結衣は、傘を振り回し、男を殴った。

公園で大暴れする、赤いハイヒールの女ホームレス・結衣は、近所の住人の通報で警察に逮捕された。昭和53年3月18日23時30分のことであった。結衣の持っていたカバンには、キレイに封がされたままの3000万円の札束が入っていた。翌日、警察の取り調べにより、結衣の横領は発覚した。

驚いたことに、漁協の人たちは警察の通報で初めて結衣の横領を知った。夫の森羅は捜索願を出していたが、妻が東京にいた事すら知らなかった。吉岡が言っていた「慰謝料3000万円」は全て作り話で、妻に離婚話など一切していなかった。結衣とキレイに分かれるための作り話だった。

この事件は、世の女性から同情を集め、不幸な身の上の結衣は求刑懲役5年だったが1年6ヶ月に減刑された。そして、刑務所に収監された結衣は昭和53年7月15日に出産、その私生児は女児であった。そんな女の犯罪史。エンディングに城定さんがハーモニカで「私の青空」を吹いた。

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