細山智明「愛かもしれない」

シネロマン池袋で、細山智明「愛かもしれない」（成人映画公開題「過激！変態夫婦」）

主人公の影田こと池島ゆたかは、ゲイ恋人（山本竜二）の存在発覚で妻(橋本杏子)と別居中。親友の清水大敬は妹（海音寺まりな）と恋人になった杏子から相談を受け心惹かれていく。一方、池島は密かに風俗で働く清水の妻(しのざきさとみ)の客となり心惹かれていく。異性愛、同性愛が複雑に絡み合う物語に、シュールなギミックが炸裂、芸術的な逸品にして傑作。

私はこれまでに、細山監督作品を２本観ている「豊丸の何度でも狂っちゃう」と「菊池エリ巨乳」どちらも主人公は、池島ゆたかが演じる文字通り影のある男「影田」一見マジメな男だが、心の中に屈折した暗い心の闇を持つ。影田という男に共感できる人は、独特なタッチの細山作品に、のめり込んで観られる。

影田という男は、セーラー服の淫乱少女・豊丸に恋焦がれ、あどけないＯＬだった淫乱女優・菊池エリに恋焦がれる。この２本に共通するのは、影田はヒロインを影から愛し続ける、豊丸のヒモとなり、菊池エリのマネージャーとなり、心の底から彼女たちを好きになってしまう。

でも本作の影田には、豊丸や菊池エリのように自らの心の中に隠された歪んだ淫靡な性癖をぶつける女性は登場しない。影田は既に奥さんと別居中で、親友の奥さん（しのざきさとみ）に恋焦がれるも、熱烈なものではない。影田に共通することが一つ、彼はいつも失恋する。

影田が影田である由縁、それは自らの心の中に閉じ込めてしまったドロドロとした愛欲を出来るだけ見ないように蓋をしつつ、目の前の女性に恋焦がれていくこと。でも、彼の歪んだ愛情は決してハッピーエンドには至らず、失恋で終わる。それは影田自身のためでもあるのだ。

この作品は、これでもかと細山ギミックが次々と炸裂する、本家の？寺山修司もびっくりな前衛演劇そのもの。影田を演じる池島ゆたかと、彼の友人を演じる清水大敬。二人の個性的な役者から敢えて個性を排除して魂が抜けたような表層的な芝居を強制し、これが効果を上げる。

まず印象的なのが、しのざきさとみ（本作は三沢亜也名義）が勤務するソープランドの内装。提灯が天井に飾られ、壁に紅白の幕がかけられた異様な空間は、もはや特殊浴場のそれではなく（笑）ソープ嬢のしのざきさとみと客の池島ゆたかがセックスを通してこの世でない別の異空間にいるような錯覚。

池島の妻（橋本杏子）は、清水の妹（海音寺まりな）とレズ関係になる。お姉さんタチの青パジャマ・杏子と童顔妹キャラの赤パジャマ・まりなは百合の花を咲かせるが、まりなは家を出て行ってしまう。寂しげにまりなの赤パジャマを床に広げ、ロウソクを灯して彼女を偲ぶ杏子。

池島と清水が好きな人に向かって一直線で走る様子。池島は清水の妻・さとみに恋してしまいローラースケートでソープへ走るｗそして、清水のは池島の妻・杏子に夢中になり上半身だけがカメラをレールで動かして幽霊のようにフーと走り、最後は妻・さとみの元へフーと戻る。

さとみが勤めるソープランドの入り口。バニーガールの格好をした森田豊が立っている。髭を剃ったりしながら退屈な時間を潰している。池島はさとみに会うためには、入り口に立つ森田の横を通過しなければならない。池島とってこのバニーボーイとの遭遇が異世界への入り口。

清水が妻・さとみとの夫婦生活に倦怠感を覚え、延々とハミングする童謡「みかんの花咲く丘」♬みかんの花が 咲いている 思い出の道 丘の道♬妻・さとみは清水に内緒で密かに借金をこしらえてしまい、返済のためソープ勤めするが解放され、その歓びから彼女もハミングする。

ピンク映画では珍しく、女性同士のレズシーンだけでなく、男性同士が愛し合うゲイポルノのような場面もある。後輩の山本が先輩の池島のチンコをフェラしたり、一緒にお風呂に入って「先輩、好きなんです」抱き合って熱い口づけを交わしたり、バイ性癖の無い人は苦手かもｗ

シュールな場面がてんこ盛りの割に、しっとりとした大人のラブストーリーとして落ち着いて観られるのは、出演者の演技力によるところが大きい。池島ゆたか、清水大敬、しのざきさとみ、橋本杏子、この４人の演技はホントに安定している。二組の変態夫婦の関係を描くのだｗ

清水＆さとみ夫婦の変態性はどこにあるのか？それは清水が「老化防止」に病的にこだわり、自宅にソープのマットを敷いて、妻のさとみにソープ嬢そのもののマットプレイをさせる。清水にとって老いの防止とは夫婦生活をマンネリ化させないこと。そのためのソーププレイだ。

では池島＆杏子夫婦の変態性はどこにあるのか？池島は高校時代から交換日記していた山本竜二と同棲してしまうｗ一方、怒って池島を追い出した杏子も自宅に海音寺まりなを呼び寄せ同棲してしまう。要するに、元々が同性愛者だった仮面夫婦。二人に幸せは最後まで訪れない。

池島がさとみに恋焦がれ、清水が杏子に恋焦がれ、物語は複雑化する。「池島夫婦も清水夫婦もこのまま離婚して、池島がさとみと再婚して清水が杏子と再婚すれば、みんなハッピーじゃね？」と一旦は思わせておいて、そんなに世の中うまく運ぶもんじゃないよ！という流れ。

池島は山本から言い寄られ続けるが、杏子はまりなに出ていかれる。山本は真性ホモだが、まりなはバイとはいえ男の方が好き。同性愛者と一言に括れるものではなく、男も女も好き、男も好きだが女の方がもっと好き、女も好きだが男の方がもっと好き、人それぞれ微妙なのだ。

冒頭、サラリーマンの池島と清水が退社してスーツ姿で道を歩いている（←普通に歩いてるｗ）池島が向かう先は、高校時代の後輩・山本が経営するラブホ、清水が帰宅するのは愛する妻・さとみが待つ我が家。二人とも既婚者なのに、なぜ境遇がこんなに違うの？から始まる。

山本は池島の高校時代の後輩。当時から交換日記をしていた。池島は杏子と結婚してからも山本との関係を続けていた。池島はバイだった。杏子は山本の存在に気付き、怒って池島を家から追い出した。池島は山本が父親から継いだ稼業のラブホの一部屋を間借りし住んでいた。

清水は妻のさとみを愛している。でも、同時に老化が心配である。妹のまりなが杏子と付き合ってることは知っていたが、放任している。自宅の床にマットを置いて、さとみの身体にローションを塗りたくりマットプレイしてもらうと、清水は一日の仕事の疲れが取れた（笑）

清水はさとみにマットプレイして貰うとご機嫌で「みかんの花咲く丘」をハミングする。でも、さとみにはそれどころではない事情があった。彼女は海外先物取引に失敗し、貯金が底をついてしまった。清水はそのことを知らない。さとみは夫には内緒で、ソープで働き始めた。

池島の妻・杏子は、清水の妹・まりなと愛し合っていた。池島の自宅を訪れ、杏子とまりなの濃厚なレズプレイを横でじっと見ている清水。杏子は清水に打ち明けた「池島が先に男と寝たの。それが許せなかった。だから私も彼女と寝たの」いやいや違うでしょ、明らかに杏子はレズｗ

ところが、まりなは杏子の元から去ってしまう。杏子は自宅でさとみとマットプレイ中のｗ清水に電話する「私、どうしたらいいの？」相談を受けた清水は、杏子にさとみにはない可愛らしさを感じて、彼女の元に向かうたび、フーと幽霊のように軽い足取りで向かうのであった。

一方、池島は寂しさを紛らわすために入った前衛的なｗソープランドで、清水の妻・さとみとばったり出会う。恐縮しながらも一応、お金は払ったのでマットプレイ。それが上手いの何のって（←清水に鍛えられたからだろｗ）池島はボディ洗い上手なさとみにメロメロになる。

さとみのことが恋しくて堪らない池島は、退社するとローラースケートでソープへ急行！気色悪いバニーボーイの横をすり抜け、「看護婦さんをお願いします！」さとみはナース、他にもＯＬ（五代響子、本作はいわぶちりこ名義）やセーラー服など、コスプレが選択できるのだ。

もう遠慮が無くなった池島は、天井から提灯がぶら下がり紅白幕がかかったソープ個室にローラースケートでカッコよく乗りつけると、白衣姿のさとみを出迎え、ローションまみれになってねっとりとFUCKする。四の地固めのようなド迫力のセックスに二人とも気をやってしまう！

池島と清水は、大都会のど真ん中、シティホテルのお洒落なカフェで語り合う。二人が座る周囲をカメラがスーと回り続ける異様な空間。清水は「お前が男となんかくっつくから」と諭すが、当の清水自身、池島の妻が気になって仕方がない。二人揃って「影田」になってしまうｗ

清水とさとみの夫婦生活は、依然と変わらなかった。老化防止のため清水が自宅で始めたマットプレイ。隠れてホントにソープでマットプレイするさとみの技術はどんどん上達（笑）マット上ローションまみれでシックスナイン、清水のチンコをジュボジュボするさとみはエロい！

そんな過激な夫婦マットプレイをしていても、清水は杏子から相談電話があると居ても立ってもいられず、幽霊のようにフーと引き寄せられてしまう。杏子はまりながいなくなった寂しい一人寝の部屋で、まりなの赤パジャマを床にしいてロウソクを灯し、清水に悩みを打ち明ける。

清水曰く「まりなは男とも何度か付き合ったことがあるんだよ」杏子はそれを残念だと思うが、清水には心がなびかない。さとみは清水との夫婦生活の継続を願っていたし、池島が客としてソープに通いつつ、まさか自分のことを好きになり始めているなんて思いもよらなかった。

そして、男女間の複雑な関係を清算したのは男男間、女女間の関係の修復、すなわち「バイだけど同性の方が好き」という引力だった（笑）池島はさとみとソープでヤッて帰った後も、山本に部屋でチンコをフェラして貰っていたが、山本は池島の態度がつれなくて気が気でない。

山本は思い切って、池島を泊めている浴室に誘い全裸で一緒に入浴「池島さん、あなたは僕のことを本当はどう思ってるんですか？」見つめ合う目と目。山本は「僕は先輩が好きなんです」池島は優しく山本を抱き寄せると熱く唇を重ねた。っておいｗこれはゲイポルノじゃねーぞ！

男と遊び続けたまりなが杏子の部屋に戻って来た。清水はお邪魔虫になってしまった。その頃、さとみは謎の男（唐笠を被り黒スーツ、木に着けた赤電話ｗ）から「先物取引のハッピー商会は摘発されました。半分は取り戻せますよ」さとみはこれでソープ勤めから解放されましたｗ

清水は杏子の部屋に行く理由が無くなり、気持ちを吹っ切るように、画面右側から左側に、これまでとは反対方向にフーと移動、足取りも軽く愛する妻・さとみの待つ自宅に帰って行った。さとみは掃除しながら「みかんの花咲く丘」を清水から伝染したように楽しくハミングした。

池島はソープを訪ねたが「看護婦さんをお願いします」と注文しても、さとみとは別の女が登場した。杏子は相変わらず家に入れてはくれない。バニーボーイの森田は髭を剃る表情がイラつく（笑）池島だけは誰ともヨリを戻せず、孤独を身にまとったまま、夜の街に消えて行った。