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小寺学「酒乱刑事」

天衣無縫の酒乱刑事(小寺学)が、多摩川河川敷で捜査中に不謹慎にも酒の肴にカブトガニで泥酔、コメディのあとはしんみりと入水でシニカルな百恵ラスト。とある会社の課長(新谷尚之)の背中に異常発生したカブトガニを食した連中が踊り狂う奇病が発生!捜査もろくにせずw酒乱刑事は酒の肴にカブトガニを旨そうに食し、川へと帰って行った(笑)観ると絶対に元気が出る、チャーミングな小品。

感想を受け付け無さそうなぶっ飛んだ自主映画作品にも関わらず、感想を一応、書いてみました(笑)主人公はまともに仕事ができないほど酒乱(っていうかアル中w)の刑事。捜査に訪れたみんなが食べた毒性のカブトガニ「旨そうだなあ」そのまま酒の肴にして深酒しちゃって、自分もカブトガニに変身「川へ・・・」これはカフカみたいな不条理なお話、なのか?

15分弱の8mm撮り自主映画で、小寺学が製作、監督、脚本を一人でこなしてる。スタッフに新谷尚之(にいやなおゆき)、渋谷哲也、中村勝則の3人が名前を連ね、当然ながら(笑)出演も。全編通して奇想天外でおバカなストーリーが貫かれ、勢いで魅せるいかにもな自主映画なのだが、特撮風味の終盤は見せる。

登場人物が実写で自主映画チックに硬いw演技をこなす中、「けいさつしょ」や「ビッグ署長」は画用紙で制作された薄っぺらのペラペラ。一方、奇怪な事件の鍵となるカブトガニは、それなりに遠目に見ればw精巧に作られており、ラストで川に向かって大行進する様はちょっと開高健「パニック」を想像させる(訳ないかw)

酒乱刑事が監督の小寺学で、若手刑事が安本浩二。宝塚刑事が渋谷哲也で、特攻刑事が大和屋暁。課長が新谷尚之で社員が中村勝則。OLが酒井美和で署長がビッグ署長。他、多数のカブトガニ(笑)このお話は、出演者は目いっぱい出てくるが、あくまでも酒乱刑事とカブトガニのお話なのです。

昼からブラブラろくに仕事もしてない新谷課長が公園で背負ったカブトガニに、社員の中村がびっくり仰天。「カブトガニですよ!」新谷課長は「まあ、これでも食えや」酒の肴にカブトガニ(笑)でも、これを食したOLの美和ちゃん含め、3人揃って奇病にとりつかれた。♪カニ、カニ、カブトガニと口ずさみながらカニ歩きで踊りまくる奇病(←毒が入ってたんじゃねーのかw)

画用紙で書いた、あまりにもチャチな「けいさつしょ」に通報があり、画用紙で作ったペラペラのビッグ署長が「酒乱刑事はどこだ!」昼間っから酒をかっくらう、道頓堀の食い倒れ人形みたいな酒乱の小寺刑事は、カラオケで「勝手にしやがれ」をひどい音痴でがなった後、事件が起きている多摩川の河川敷へ向かった。

奇病にとりつかれ♪カニ、カニ、カブトガニと踊り狂う男女を見て、思わずカブトガニ鍋を肴に酒を飲み始めた酒乱の小寺刑事(笑)そのまま、大量発生したカブトガニと一緒に、自らもカブトガニに変身して川に戻って行く。♪酒乱、酒乱、酒乱、酒乱~入水、入水、入水、入水~♪

山口百恵「夜へ・・・」いや、「川へ・・・」が流れる中、ブクブクと水の底に沈んでいくカブトガニになった酒乱の小寺刑事を、呆然と眺める、若手刑事であった・・・

~にいやなおゆき監督から、本作について貴重な情報を教えていただきましたので、ここに追記します~

昨年、武蔵美の学生主催の上映会で『酒乱刑事』が上映されたときの解説です。こういう作品だったのです。非常勤講師を勤めていた武蔵野美術大学の学生が中心になって開催される、若い方々向けの映画祭です。まあ、僕はもう若くありませんが、出品した『酒乱刑事』を作ってた頃は少しは若かったという事で……。 この作品、すでに故人の小寺学という男が監督した短編です。掲載した写真は撮影現場です(映画マニアの方向けのおまけ写真もあり)。映画祭当日、作品の上映後にZOOMで作品解説でにいや出演する予定ですが、もし都合がつかなかった時用に書いておいた作品解説をここに掲載します。

『酒乱刑事』解説 監督代理、にいやなおゆき

変な作品を見て頂いてありがとうございました。この作品の作者、小寺学はラーメンの食べ過ぎと酒の飲み過ぎで、もうこの世にはおりません。遺品整理でフィルムを預かっているのは僕なので、代理で解説をさせていただきます。 この作品は1994年製作の8ミリ作品です。監督の小寺学は岡山県で鈴木清順の映画祭を主催した縁で上京、清純さんの紹介で大和屋竺さんの家に入り浸るようになりました。一時、荒戸源次郎事務所で沢田研二の『夢二』の準備に携わってもいましたが退社。結局短編の自主映画を数本作って亡くなりました。自主映画と言っても、真面目な映画祭で上映されるような作品ではありません。いわゆるバカ映画と言われるようなものばかりで、当時どこの映画祭に応募しても完全に無視されました。たいてい「ふざけている」「もっと真面目に作ったほうが良い」とボロカス言われました。でも監督の小寺と我々スタッフは非常に真面目に作っていました。賞を取るような作品を目指していたわけではありませんけど。 当時、僕はまだ岡山の自動車工場でバイト中で、時々上京しては小寺達と遊んでいました。そんなお気楽時代の作品です。 『酒乱刑事』は大酒飲みでいい加減な小寺学という人間、そのものが写し込まれています。そもそも企画の発端は小寺と、僕と、今は日本テレビの大物プロデューサーになってる某氏三人が酒を飲んでいた時に、僕が「小寺が主演で大酒飲みの刑事物を撮ろう、タイトルはアル中刑事!」と言うと、小寺が「いや、それなら酒乱刑事!」と返し、酔っ払った二人が「それだ!」「行ける!」「バロ〜ム!」と腕を組んだ瞬間、日テレの某氏は「僕帰ります」とさっと立ち上がって居なくなり、それ以来一度も会っていません。バロムクロスに関しては、主催者の方に解説お願いします。 タイトルが出来たらもう完成したようなものです。我々が目指したのは歌も踊りもアクションもある、インド映画のような世界でした。今ではドイツ映画の研究で有名になった渋谷哲也が近所に住んでいて、早速三人で作戦会議。我々の映画製作方法は、面白そうなアイデアが出たら、その場で友人知人に電話。メンバーが集ったら即座に撮影を始めます。脚本は作りません。重要なのは撮影場所で、「多摩川の河原は景色がいいよね」「美味しいラーメン屋がある場所で撮影したい」「動物園に行きたいなあ」とまあ、それぞれが行きたい所をロケ場所にします。許可を取ったらその時その場で撮影しなければならなくなるので、許可も取りません。怒られたら逃げるだけです。我々は常に移動しながら、その場のノリで撮影をします。いい加減に思えるでしょうが、これはお金も時間もない自主映画で「良い光の場所で撮影をする」いわばスナップ写真的撮影方法なのです。アイデアは常に募集中で、誰かが面白い案を出せば即採用。カメラマンは「その時出ていない人」。カメラを持った人間がその場で演出家となり指示を出します。撮影期間は三日間。それ以上になると、手伝ってくれる友人知人に負担がかかるからです。メインスタッフは三人、小寺、新谷、渋谷で、この三人は映画完成まで付き合います。だけど、編集には半年以上かかります。監督の小寺が怠け者ということもあるのですが、脚本無しで即興撮影した素材はワンカットワンカットは面白いけど、なかなか上手くつながりません。ああしてみたりこうしたり、撮り足ししたりしながら、完成形を模索していきます。編集しながら脚本を作っているようなものです。『リング』や『呪怨・呪いの家』の高橋洋さんには「マック・セネット一座というのは、こういう人々だったのだろう」と言われてました。しかし『酒乱刑事』の時はめずらしく小寺が脚本を書いて来たのです。けど、撮影初日、スタッフ・キャスト全員、監督の小寺も脚本を忘れて来ました。小寺曰く「まあ良いよね、あってもなくても同じようなもんだし」。 劇中で使われる小道具は僕が岡山で買ってダンボール一杯送った100円ショップの玩具です。バカバカしいけど、こういうものが現場にあったら一気に盛り上がるのです。これも冗談というわけではなく、元々アニメーション作家だった僕が実写に関わることになった時に、玩具的な小道具を平然と持ち込んで、実写でアニメーション的、まんが映画的なフィクショナルな世界を作ってやろう」という考えで始めたことなのです。後に映画美学校の8ミリ授業でも、学生が固くなって動けない所に100ショップの玩具を大量にバラ撒くと、現場の真面目意識が壊れて撮影が動き出すという事がありました。 とまあ、こういう考え方、作り方で製作された作品です。小寺が被ってた巨大カブトガニも僕が馬糞紙で作って岡山から送りました。ちょうど台風の翌日で、大和屋さんの遺品のコートを着てカブトガニを背負った小寺が増水した多摩川で流されて死にかけたのですが、僕は「良いぞ、もっと流されろ!」とカメラを回していたのです。しかしそのカメラにはフィルムが入ってなかったという、まさに作品を象徴するようなオチで、解説をおわらせて頂きます。 アニメーション作家 にいやなおゆき ……とまあ、こういう作品でございます。

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