見出し画像

いまおかしんじ「にじいろトリップ 少女は虹を渡る」

新宿ケイズシネマで、いまおかしんじ「にじいろトリップ 少女は虹を渡る」 脚本は宍戸英紀。

11歳の少女(櫻井佑音)が離婚寸前の両親とキャンプ場に来て、関西弁の少年に導かれ「願い事が叶う」滝へと向かう。序盤にミュージカルで観客の度肝を抜いた後、美しい自然と純真無垢な少女の祈りに回帰。美しい情景に涙がこばれてしまう、児童映画の秀作。

本作は尺が39分しかない中編。60分以上の長編ばかりの中で中編一本立ては昔はあったそうだが、今では斬新、本日のケイズシネマの場合ゴールデンタイムの夜7時から予告編2本と場内注意事項1分で7時5分から本編開始で7時44分には終了。これ時間割に弾力性あっていいですよ!

デジタル撮影で、この尺であれば、テレビドラマとして観てもOKかな?と思うが、いや、やっぱり違う。森の大自然や、夜の花火の美しさ、これはスクリーンでこそ、堪能したいもの。「ひょっとしたら、これミュージカル映画なの?」と思っても、いったん観始めてしまったらもう出られない、劇場鑑賞ならではの醍醐味も味わえるw

いまおか監督らしいフワフワと掴み所が無いようでいて、ストーリーはオフィシャルサイトに掲載された通り。余計な説明などせず観客の想像力に委ねる作風は「れいこいるか」から登場人物をスイッチして続いているように錯覚してしまう。明確な初めと終わりが無い話。

製作はアイドル文化振興会。実質的な製作は国映と思われる。監督がいまおかしんじでプロデューサーが坂本礼、メイキングが鎌田義孝で演出協力が女池充。ピンク七福神のうち4人揃ってる。国映に縁があるスタッフたちが歌の上手な11歳の女性アイドルを推す歌謡映画。

本編の39分プラス、これにCMを加えると45~50分。こりゃまさにテレ東深夜ドラマ枠にすっぽり入る尺だが、この映画で私が最も心に染みた大好きな場面、少女が少年と願いが叶う滝にたどり着く上空から俯瞰して撮ったカットの美しさと観客の心に訴える強靭な訴求力が本作の肝だ。

観てると小沼勝が生涯で唯一撮った児童映画「NAGISA」を思い出す。ヒロインは愛媛出身のスレンダー美少女松田まどかさんだった。彼女は小学校6年生にして水着に健康的な色気があった。それに対し本作でヒロインを演じる櫻井佑音ちゃんはまだ大人と子供の中間より子供側にいる、奥手で可愛い女の子、しかも歌が凄く上手い特徴。

小沼監督は、「NAGISA」における時代設定を、自らの少年時代にバックデートして、当時の大流行歌「恋のバカンス」をモチーフとした。でも、いまおか監督の場合はちょっと違うぞ。決してバックデートなどしない。あくまでも2021年の少女像。ヒロインの佑音の曲「それはいつも今日」はラストで鎌田メイキングに重なる。

音楽担当の宇波拓は、古澤健「ロスト☆マイウェイ」で音楽担当。この作品では田んぼのど真ん中で、川瀬陽太と回文遊びの様なコミックソングを歌っていた。一方、本作においては、登場人物は台詞の多くをミュージカル化して、ラストはテレ東深夜青春ドラマ枠っぽく主題歌とメイキングで終わる青春風味。

ヒロインの櫻井佑音(さくらいゆうね)ちゃんは、とにかく歌が上手。作中では11歳だけど、もう中学生(←そんなお笑い芸人いたなw)いまおか監督らしい無茶ぶりにも明るい笑顔でチャーミングにヒロインの心境を歌う。可愛いなあ。私の娘にもそんな頃あったなあ(*'▽')

佑音ちゃんが、両親が不仲であること、キャンプ場の先に願いをかければ叶う滝があること、全て歌詞をミュージカル風に歌い、それ以外の登場人物たちも佐藤宏、守屋文雄、誰もが例外なくオペレッタ風に歌いながら台詞を繋ぐ。すっかりミュージカルに慣れてくると、激変する!

映画的なステキなカットがいくつもある。なかでも、両親の不仲に心が沈む佑音が、幻視の中に家族仲良く花火で遊ぶ自分を見たシーンは、突然、泣けた。妄想世界の中でキス上手の「石田君」に憧れていた佑音は、現実世界で願いが叶う滝に案内してくれた関西弁の歳内君と仲良くなるが、役を終えて目の前から突然消えた時の寂しさ。

あらすじについては、ここでは特に追うことなどすまい。11歳にしては大人びた少女の、まだ見ぬ淡い初恋と、目の前の離婚寸前の父親(小林竜樹)と母親(荻野友里)の間にある大人の男女の諍い。まだ思春期にすら入っていない少女の目の前の残酷な日常が、観客を切ない気持ちにさせる。

設定はとても暗いドラマなのに、観ていてホッとするのは、健気な彼女がまだ見ぬ妄想のキスの上手な彼氏「石田君」とは似ても似つかぬ関西弁の男の子に連れられ、願いを叶える滝で「虹を渡る」瞬間の奇跡である。その後に何が起こるか分からないが既に奇跡は起きた。

ロマンポル脳的には(←この映画でこういうこと言って大丈夫か?)西山真来、守屋文雄、佐藤宏、お馴染みの三人が中編映画に少し出て来て盛り上げる。演技力では素人の少年少女をサポートしているように見えてとても微笑ましい。全員参加型のオペレッタなのだ。

守屋は♪迷子の迷子の カワイコちゃん あなたはどこにいるのかな♪ 佐藤は♪いたいた 見つけた カワイコちゃんはここにいた♪喋るように歌う守屋もバリトン歌手のように声を張る佐藤もひたすら滑稽だw

観始めてしばらくは、歌の上手な佑音ちゃんが一人ミュージカルのような形式で進むのかな?と思わせて、登場人物が全員、歌を歌い始める。この感じ、なんだっけ?と考え、思い出した。私が小学生の頃、体育館で見た巡業の児童向け劇団による歌を織り交ぜた演劇鑑賞。

今の時代、もう小学生が体育館で児童向け劇団の校内全員鑑賞会をしたりする文化は消えてしまったのであろうか?この作品を観て懐かしさにかられるのは、映画館と言う名の体育館にタイムワープして、自分が小学生になったつもりで児童向け演劇を観てる感覚である。

確かに両親の離婚と言う題材は重くて、小学生の少女には抱えきれない程に重いものかもしれないけど、周囲の温かい大人たちが見守って、きっと彼女を立派な大人に育ててくれる。両親の別居は今は元に戻らなくても、きっと彼女は虹の橋を架けられる!という寓話だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?