『7人の聖勇士の物語』第3章(2)
こんにちは。
いつもお読みくださりありがとうございます。
フォローやスキをしてくださり感激です!
Noteにまだ慣れず、お礼メッセージの設定ができていなくて申し訳ありませんでした。失礼をお許しください。
昨日、友人に教えてもらいながら設定させていただきました。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
仕事帰りのバスの中から見えるお寺の「今月の標語」に、「和顔愛語」と書いてありました。スマホで意味を調べたら「仏教経典で菩薩の態度を表現する言葉で、和やかで親しみやすい態度のこと」とありました。「和顔」は「なごやかで柔らかい表情」、「愛語」は「親愛の気持ちのこもった言葉」のことだそうです。
温和なお顔で思いやりのある言葉をかけていただくと、「私のこと、大事に思ってくださっているんだな」と思えて幸せになりますよね。「和顔愛語」は相手のことを大切に思う心から自然と生じるのかな、と思います。でも、未熟者の私は、かけがえのない大切な人に対してさえ不機嫌な顔をして嫌なことを言ってしまうことも度々です。
そんな自分を反省して、マスクの下でそっとスマイルしてみました。少しだけ心がほどけた気がしました。
『7人の聖勇士の物語』(英語タイトル The Seven Champions
of Christendom)の続きです。
『7人の聖勇士の物語』
第3章 イングランドの聖ジョージの冒険(2)
聖ジョージとド・フィスティカフは、大きな岩のところへやってきました。岩の内側は洞穴になっており、ごつごつした入り口がありました。この険しい岩の住処には一人の隠者が住んでおり、隠者の住むこの国に定められた悲惨な運命を嘆く声が中から聞こえました。騎士が中に入ると、洞穴の真ん中にはテーブルがあり、その上にはランプが置いてありました。隠者は寝床から起き上がり、聖ジョージとド・フィスティカフを歓迎しました。この隠者は徳の高い人で、銀白の長い髭をたくわえておりました。足取りはおぼつかなく、老齢の重みで腰が曲がり、地面にお辞儀をしているかのように見えました。
「勇敢な騎士様、お宿とこの一人住まいの庵でご用意できます食べ物を喜んで差し上げましょう。」と隠者は言いました。そして、その言葉通り、蓄えていた食べ物をテーブルの上にいろいろと並べました。
「どこのお国の方かをお尋ねするまでもございませんね。あなたがいらっしゃった時、兜についているイングランドの紋章でわかりました。かの地の騎士様たちは勇敢で雄々しく、苦しんでいる人々を助けるためにいつでも戦われることを存じております。この地には、偉業によって名を上げる機会がございますよ。その偉業によってあなたは世界中に勇名を轟かせることでしょう。」
この言葉に聖ジョージは耳をそばだて、その偉業とは何なのかと熱心に尋ねました。隠者は話しました。
「高貴なお生まれの騎士様、ご存じの通り、ここは名高いバガボーナボウ国(※架空の国名です)の領内でして、当地の住人の意見によれば世界で最も重要な国でございます。他のどの国よりも繁栄し、権勢を誇っておりました。しかし、恐ろしい緑色の竜が姿を現し、ひどい災難がこの国に降りかかったのでございます。竜は巨大な体躯で国中をうろつき回り、あちらこちらに荒廃と不安をもたらしています。竜の狼藉が及ばない場所などどこにもございませんし、竜の出現がもたらした災厄から逃れる望みもございません。毎日、竜の飢えた口をうら若い乙女の命で養わねばなりません。竜の喉から吐き出される息は非常に有害で、猛烈な疫病を引き起し、その地域一帯の住民を全滅させてしまうのです。竜は毎朝、明け方になりますと破壊を始め、その日の餌となる犠牲者が準備されるまで、荒らし回るのをやめません。かわいそうな餌食を呑み込んでしまうと、翌朝まで眠り続け、そしてまた同じ事をするのです。」
隠者は続けて話します。
「何度も夜の間に竜を捕獲しようとしましたが、無駄だということがわかりました。眠っているイタチを捕まえようとするのが無駄な骨折りであるように。聖ジョージ様、旅の道中でイタチという動物についてお耳になさったことがおありなら、おわかりでしょう。竜にとっては無駄とは申しますまい。自分を攻撃しにきた勇士たちをことごとく打ち倒し、呑み込んで夕飯にするのですから。」
「24年もの長きにわたって我が愛する国はこの恐ろしい苦しみに耐え忍んでまいりましたが、もう乙女はほとんどいなくなり、竜と戦ってくださる勇者もおりません。王の一人娘、女性の中で最も美しく一点の非もない王女様、美しいサブラ様が明日、竜への捧げ物にされることになっております。もし、命がけであの怪物に決戦を挑み、竜を倒すに十分な武芸と力を備えた雄々しく勇敢な騎士様が見つからなければ・・・。」
「王は、王としての言葉にかけて、約束なさっています。もしそのような騎士が現われ、勝利したら、王女を娶らせ、王の死後はバガボーナボウ国の王位を与えよう、と。」
嬉しさで輝く顔をしてイングランドの騎士は叫びました。
「ああ!私の力量に真にふさわしい偉業がこの地にあるのだ!尊い隠者様、これをどうお考えになりますか。」
そう言って、彼は裸の胸を見せ、生まれた時からそこに印されている緑色の竜の姿を示しました。
何度も頷きながら隠者は述べました。
「深い意味をもった、不吉な運命です。緑色の竜があなたを殺すか、あなたが緑色の竜を殺すか、二つに一つです。」
騎士は朗らかな声で叫びました。「神に誓って私は竜を殺して王女様をお救いすることを確かにお約束します。そうだな、勇敢なド・フィスティカフ?」
従者はとても眠かったので、頷きながら答えました。
「為せば成りますとも。」
それから、隠者が草の葉で寝床を準備しますと、騎士と従者は休息をとりました。朝の到来の忠実な使者である陽気な雄鶏が砂の寝床から、夜明けが近いことを告げるや、聖ジョージはとび起き、大急ぎで食事をとり、従者と震える指の隠者に手伝ってもらって武具の留め金を慎重にとめると、豪華な馬飾りをつけた馬に跨がり、戦いの準備が整ったと宣言しました。ド・フィスティカフに付き従われ、驢馬に乗った隠者に先導されて、聖ジョージは竜が眠る谷間へと進んでいきました。そこは王女が犠牲として捧げられることになっていた場所でした。
その光景が目に入りますと、聖ジョージの目はこれまで見たこともないほどの美しく愛らしい乙女の上にとまりました。乙女はアラビア産の純白の絹に身を包み、大勢の賢く慎ましやかな婦人たちに付き添われて死の場所へと連れてこられたのでした。婦人たちはつらい涙を流して王女の残酷な運命を嘆き悲しんでいました。
この悲しい光景にイングランドの騎士はあふれる勇気をますますかき立てられました。そこで、嘆き悲しむ人々のほうへと馬を駆り、美しい乙女に彼女のために雄々しく戦うつもりであることを約束し、まもなく始まる戦いの結果がわかるまで父君の宮廷へと帰っているよう承知させました。
馬に乗ってゆっくりと進んで行く主人を指さしながら、ご婦人たちの心の慰めになればと願って、ド・フィスティカフは言いました。
「あの方は、為さねばならないことはやり遂げるお方ですよ。」
そして、彼も馬を駆って主人の後に続きました。
豪胆な騎士と忠実な従者は恐ろしい緑色の竜が棲んでいる谷間へと入っていきました。凶暴な怪物の燃える目が、待っていた美しい乙女のかわりに鋼の武具をまとった戦士をとらえるや、皮に覆われた喉から雷よりも大きく猛烈な激怒の叫び声を発して身を起こすと、これから始まる闘いにむけて身構えました。
竜は後ろ足で立ち上がり、翼を広げました。鱗に覆われた尾の先端の二股に分かれたところは巨大な赤いフォークのようで、体の後ろのほうまで長く伸びておりました。鋭い鉤爪は大きく広げられていましたが、一つ一つが大きな船の錨ほどの大きさがありました。ぐわっと開けた口は2列の巨大な歯で守られており、歯のすきまから炎のように燃える赤い舌が見えました。大きな目はまるで燃えている石炭のようにギラギラと輝き、鼻孔からは炎を発していました。体の上半分は磨いた銀よりも明るく輝き、真鍮よりも堅い緑色の鱗で覆われ、体の下半分は濃い黄金色の鱗で覆われておりました。竜の姿を見ては、最も勇敢な者でも攻撃をためらうことでしょう。
しかし、聖ジョージは震えもせず、美しいサブラ王女のことを考えて、闘いに臨む勇気をかきたてました。ド・フィスティカフは竜の姿が好きになれませんでしたので、もし彼が一人だったなら引き返したいと思ったことでしょうが、主人への愛が彼を主人の傍らに引き留めたのでした。
ここまでやってきた隠者は言いました。
「ご覧下さい。あそこに竜がおります! 巨大で恐ろしい怪物です。しかし、ほかの怪物同様、勇気と武芸によって打ち倒すことができるに違いありません。ほら、あの谷間には果物の木がたくさんあります。万が一、竜があなたに傷を負わせたり、あなたが気を失ったりしたら、オレンジがなっている木を見つけてください。その実には素晴らしい効能があります。摘み取ったばかりの新鮮な実を一つ手に入れることができれば、その実はたちまちあなたを回復させるでしょう。では、私はこれにて。ほら、怪物が近づいてきました!」
聖ジョージはド・フィスティカフのほうを振り向きながら叫びました。
「よいか、この闘いは私だけのものだ。お前はそばに立っていて、私が正々堂々と戦うところを見ておれ。ただ、もし私が倒れて、怪物が襲いかかってきたら、その時は急いで助けに来い。」
忠実な従者は、「承知しました」と頷きました。
今日はここまでです。
いよいよ恐ろしい竜との闘いが始まります。
次回をどうぞお楽しみに!
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