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[西洋の古い物語]「楽しきイングランドの聖ジョージ」(第4回)

こんにちは。
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
聖ジョージのお話の4回目、地下牢から脱出した聖ジョージは、空腹で倒れそうなまま、恐ろしい巨人と闘います。
ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。

※画像はクチナシの花です。フォトギャラリーからお借りしました。甘い香りが漂ってきそうですね。この陶酔の香りは、古い愛の物語のように心をときめかせます。今年はほとんどシーズンが終わってしまいましたが、雨の中でも香るので、毎年楽しみにしています。

 
「楽しきイングランドの聖ジョージ」(第4回)
 
さて、地下牢から脱出した聖ジョージは、空腹のため飢え死にしそうでしたが、ほどなくすると高い崖の上に建てられた塔が見えましたので、食べ物をくれるよう頼もうと心に決めて彼はそちらの方へと駒を進めていきました。その城に近づくと、青色と金色の上衣を着た一人の美しい乙女が侘しげに窓辺に座っているのが見えました。
 
そこで、彼は馬から降りると、大声で彼女に呼びかけました。
「ご婦人!ご自身のお悲しみがおありなのでしたら、苦境にあるもう一人の者をお助け下さい、キリスト教徒の騎士である私に、一食分の食べ物をお与え下さい。もうほとんど飢え死にしそうなのです。」
すると彼女は素早く返事をしました。
「騎士様!できる限り早くお逃げなさいまし!私の殿は強力な巨人で、マホメットの信奉者です。キリスト教徒を皆殺しにすると誓っているのです。」
 
これを聞くと聖ジョージは長い間大笑いしました。
「では彼に告げに行ってください、美しい奥様」と彼は叫びました。「キリスト教徒の騎士が玄関先でお待ちしている、ご夫君の城の中で空腹を満たすか、城の持ち主を殺すかするつもりだとね。」
 
さて、巨人はこの勇敢な挑戦を耳にするやいなや、巨大な鉄のかなてこで武装して、闘おうと突進してきました。それは醜い、怪物のような巨人で、猪のような剛毛が生えた巨大な頭をし、目は灼熱を発するかのようにギラギラ燃え、口は虎のようでした。巨人を一目見て、聖ジョージはもう命は無いものと諦めました。でもそれは恐怖のためというより、空腹と体の衰弱のためでした。それでも、自らを至高の神様に委ね、彼も闘いへと突進していきました。彼の武具といってはとてもお粗末なもので、魔法の愛剣アスカロンを失ったことをとても残念に思いました。
 
彼らは正午になるまで戦いました。勇士の体力は殆ど尽きようとしていましたが、ちょうどその時、巨人が木の根っこに躓きました。聖ジョージはこの好機をとらえると、巨人の肋骨の真ん中をかき裂きましたので、巨人は喘ぎ、絶命しました。
 
その後、聖ジョージは塔の中に入りました。塔の中では、恐ろしい夫君から解放されたあの美しい奥方が、あらゆる種類のご馳走と混ざり物のないワインを彼の前に並べました。彼はそれらで空腹を満たすと、疲れた身体を休め、馬にも餌を与えて一息つかせました。
 
そして、塔を感謝で一杯の貴婦人の手に残し、彼は進んでいきました。しばらく行くと、魔術師オーマダインの魔法の庭へとやってきました。そこでは、一振りの魔法の剣が生きている岩に埋め込まれていました。美しさについて言えば、これほどのものを彼は見たことがありませんでした。吊り紐には碧玉とサファイアの宝石がはめ込まれ、丸い純銀の柄頭には黄金の文字の浮き彫りが施されておりました。それは次のような詩でした。

「我が魔術はこの上なく強力にかかり続けるであろう、
一人の騎士がはるか北から到来し、
この剣を岩の土台から引き抜く時まで。
見よ!彼が来たるとき、賢きオーマダインは死なねばならぬ。
さらば、我が魔力よ、我が呪文よ、我が全てよ。」
 
これを見ると聖ジョージは力を振り絞ってその剣を引き抜こうと思い、手を剣の柄にかけました。ところが、どうしたことでしょう!彼は、その剣をとてもやすやすと引き抜きました。まるで剣が縒り合わされていない絹糸一本で吊り下げられていたかのようでした。すると、すぐに魔法の庭の窓という窓が開け放たれ、髪を逆立てた魔術師オーマダインが姿を現しました。そして彼は、勇士の手に口づけをすると、彼を洞窟の中へと案内しました。そこでは、一人の若者が黄金のシーツにくるまれ、4人の美しい乙女たちの歌にあやされながら眠っておりました。
 
「あなたがここでご覧になっている騎士は」と魔術師がうつろな声で言いました。「あなたの騎士仲間のキリスト教徒の勇士、ウェールズの聖デイビッドに他なりません!彼も私の剣を引き抜こうと試みましたが、失敗したのです。あなたは彼を私の魔法から解放したのです。もはや我が魔力は尽きたのですから。」
 
彼がこのように話していると、空にものすごい轟音が轟き、地面もかつてないほどの轟音をたてました。そして、一瞬にして魔法の庭とそこにある全てのものが視界から消え去り、後にはウェールズの勇士が残りました。7年間の眠りから覚めた彼は、聖ジョージに感謝を述べました。聖ジョージも心を込めて旧友に挨拶をしました。(続く)
 
 
「楽しきイングランドの聖ジョージ」第4回はこれでお終いです。

このお話の原文は以下の物語集に収録されています。


今回もお読み下さり、ありがとうございました。
次回をどうぞお楽しみに。

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