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『7人の聖勇士の物語』第2章(1)

こんにちは。
今回もご訪問くださりありがとうございます。タイトルを『7人の聖勇士の物語』に変更させていただきました。どうぞよろしくお願いいたします。

私は紅茶が好きなのですが、あまりこだわりはなく、大好きなアニメ『おじゃる丸』に登場する「うすいさちよ」さんのように、使ったティーバッグを捨てずにおいて、二度、三度と使っています。うすいさんが絶賛するほどではありませんが、二度目、三度目の紅茶もなかなか美味でございます。

そういえば、『おじゃる丸』の「マリーのうすいお紅茶」という回で、うすいさんに勧められて三度目のティーバッグで入れた紅茶を飲んでみた大家の「マリーさん」。最初薄すぎてよくわからないようでしたが、よーく味わってみるとほのかな香りが感じられて、それを、雨上がりにほんのり香る花の香りとか、春のそよ風の香りとか、やわらかな夕日の香りとか、ロマンチックな言葉で表現していました。まあ、なんて素敵なんでしょう・・・。

優美なる詩の女神は日常世界の思わぬところに静かにたたずんでいます。
私も、マリーさんのように、二度目、三度目のお紅茶に素敵な物語を見つけてみたいと思います。


それでは、『7人の聖勇士の物語』の第2章にはいります。

『7人の聖勇士の物語』

第2章 聖ジョージ、6人の勇士を解放する

魔女でさえ、捕虜の少年が武芸と学問にどんどん上達するのに驚きました。しかし、彼女はこの少年が偉大な人物になる定めであることを知っていましたので、彼の進歩を止める望みはないとわかっていました。運命が彼を自由にするまでの間、彼を閉じ込めておくことが彼女にできる精一杯でした。

ある日、親切な妖精は若君に言いました。

「実は、魔女は百年毎に一度、一週間のあいだ眠りにつくのです。銀の杖がないと魔法が使えないので、彼女は眠るときにはその杖を決して見つからない場所に注意深く隠します。でも、探してみましょう。この機会を私は長い間待っていたのです。もし杖を手に入れることができれば、魔女は私達の意のままになり、この魔法の洞窟の中で私達は思う通りにできるのです。私は実はイングランド生まれの妖精で、名前はサブライナと申します。私はあなたのことを愛しています。あなたは私に親切にして下さいますし、それに、あなたは誠実なイングランドのお生まれですからね。もし魔女を倒すことができたら、あなたが名誉ある生涯をお始めになれるようにいたしましょう。あなたの胸が今この時もそれを渇望しているのを私は存じております。」

この言葉を聞いて、若き王子の胸は歓喜と希望で高鳴りました。

彼らは注意深く魔女を見張り、彼女が銀の杖をどこに隠すか知ろうとしました。毎日、広い魔法の洞窟の果てしない奥深くまで魔女の後をつけてまわりました。日一日と魔女は眠くなり、あまり話さなくなっていきましたが、どれほど長い間彼女が目覚めていたか、彼女が今どれほど眠いかを考えればそれも当然のことでした。

これほど見張っていたにもかかわらず、とうとうカリブは銀の杖を持たずに姿を現しました。彼女は豪華な部屋に自分が眠る用の薔薇の花びらでこしらえた寝台を自分のためにかねてより準備していました。ほどなくして彼女がその寝台に身を沈めるのを二人は目にしました。もし悪意に満ちた凶暴な顔つきをしていなかったら、彼女は立派な寝台で休んでおられる女王様のように見えたことでしょう。王子はすぐに銀の杖を探しに行きたいとはやりました。

「お待ちください」と妖精のサブライナはささやきました。「まだ鼬(いたち)が眠るときのように片目を開けています。両目を閉じていびきをかくまで待ちましょう。そこで、彼らはカリブの両目が閉ざされ、大きないびきが丸天井に響くのを待ちました。そして彼らは出発しました。

侏儒と王子は別々に探すことになり、別れる際に侏儒は言いました。
「持つ価値のあるもので骨折りと苦労なしに手に入れられるものはありません。」

魔女に仕えている者たちは皆、主人と同じように、この機会に眠りにいきました。そのため、深い静寂が洞窟を支配し、静寂を破るのはカリブのいびきのみでした。王子はあちらこちらを探しに探しました。高価な宝石類や光り輝く衣装の山の下、金銀や豪華な武具の下を探しました。こうしたものに彼は今、全く心惹かれませんでした。自分を解放して高貴な生き方を始めさせる銀の杖だけを探していました。その杖とは、ただ学問と忍耐によってのみ獲得できる種類の知識そのものなのです。来る日も来る日も彼は杖を探しましたが、毎日、一日の終りには、ここには杖はないと思える場所が判明するだけでした。侏儒も同じく不首尾で戻ってきました。それでも、二人は、無数の山をひっくり返し、曲がりくねった通路を探索し、深淵に飛び込み・・・それほど探しても、いつも、洞窟内には思いがけない奥まった隅が見つかるのでした。

こんなふうにして5日間が過ぎました。王子はこれまで以上に洞窟の中のことに精通していきました。6日目がやってきて、そして終りました。王子の知識は増しましたが、銀の杖は見つかりませんでした。王子は気が気ではありません。それもその筈、7日目には魔女が目を覚まし、力を回復するのですから。

これまで以上に熱心に王子は探し回りました。侏儒も負けてはいませんでした。あちこちさまよっていると、王子の目の前に黄金の扉が現れました。何度も強く押して力ずくで扉を開きますと、ごつごつした石の急な上り階段が曲がりくねりながら上の方へ続いていましたが、どこにつながっているのか王子にはわかりませんでした。王子は恐れずに扉の向こうに入り、階段をどんどん登りました。階段は粗くて急でしたが、王子は疲れたりためらったりしませんでした。階段は所々螺旋階段になっており、ぐるぐる回りながら登っていきます。まっすぐ上につながっている所もあります。足元を照らすかすかな光もありませんでしたが、すぐ後ろに続く侏儒が王子を励ましました。そして王子は探している銀の杖を思い、頑張り抜きました。強靱で健康な王子でしたが、さすがに呼吸が速くなり始めた頃、輝く太陽の光が突然ふりそそぎ、気付くと王子は高い山の頂に立つ雪花石膏でできた壮麗な神殿の中におりました。

神殿の窓からは、山のふもとを囲む森を遙かに越えて、周りに広がる土地をはるか遠くまで見わたすことができました。都市や宮殿、銀色の川の流れ、豊かな畑、艶やかな果実をつけた果樹園、牛が群れる牧場、羊で一杯の草地。まだ小さかった頃にカリブにさらわれて以来、王子はこうした景色を一度も見たことがありませんでした。王子は喜びをもってその景色をじっと見つめておりました。どれほどの間眺めていたでしょうか、ふと、遠くの教会の鐘の音がやさしく漂ってきて彼の耳に入りました。その音は王子に、恐ろしいカリブが目を覚ます時が近づいていることを思い出させました。

王子はこの神殿から脱出しようと思いましたが、それは不可能だと気付きました。というのも、王子がいる塔は100フィート(約30メートル)もの高さがあり、塔の下には先の尖った鉄の釘が落ちてくる者を突き刺そうと待ち構えていましたので。残酷なカリブの支配下に再び身を沈めなければならないのか?こんな考えに王子の勇敢な胸はぞっとしました。それを避けるためなら、一か八か、何でもやってみよう。

王子がそう口に出しますと、侏儒は、「その通りですとも。でも、ほら、あれは何でしょう。」と言いました。王子が振り向くと、目の前には大理石のテーブルに置かれたビロードのクッションが置いてあり、その上には長い間探していた銀の杖がありました。王子はそれをしっかりとつかみました。

「ついて来て下さい」、と侏儒は先を急ぎながら言いました、「一刻も無駄にはできません。」二人は階段を急いで降りました。「無駄にする時間はありません」と侏儒は再び叫びました。どんどん王子の足は速くなりました。階段を一度に何段もとばしながら、走りに走りました。何があっても止まらずに。階段の下にたどり着くと、あの黄金の頑丈な扉が閉まっており、力一杯押しましたが開きません。しかし、王子が銀の杖で触れますと、扉はさっと開きました。王子は洞窟の通路を急ぎました。数多くの恐ろしい怪獣がとびかかってきましたが、銀の杖を一振りすると皆逃げていきました。

王子と侏儒は魔女の部屋へとやってきました。魔女のいびきは既に止まっていました。彼女は目をこすり始め、うなったり荒い息を吐いたりしながらぎこちなく体を動かして、まさに目覚めようとしています。彼女の邪悪な目に一目でも見られたらどんな不幸が起こるかわかりません。

「やっつけてください!」と妖精が言いました。王子が寝台を一撃しますと、大きな叫び声やうなり声、恐ろしい悲鳴が空中を満たし、嘲り笑うぞっとするような叫び声、いななきやほえたける声、シューシューいう音が聞こえ、部屋の壁が揺れ始め、寝台は崩れ落ち、炎が燃えさかり、ものすごい悪臭が立ちこめました。恐ろしい物音はどんどん大きくなり、やがて、ぎらぎら赤く光る濃密な蒸気が魔女の部屋があったところを覆いました。カリブの悲鳴が地中のずっと奥深いところから聞こえてきましたが、叫んでも甲斐のないことでした。

すると、洞窟の中、王子の傍らには、あの侏儒のかわりに美しい妖精が立っていました。妖精は微笑んで言いました。「新しい人生への準備は整っております。でも、解放されるのは私達だけではありません。さあ、幸せの中にいる人々だけでなく、不幸の中にいる友人達を忘れないようにいたしましょう。」

王子はこの上なく礼儀正しくお辞儀をし、レディ・サブライナのご指示にすべて従います、と言いました。「では一緒においでください」と彼女は言い、先に立って歩きました。すると、大きな真鍮の城がありました。胸壁で囲まれた屋根や塔は日光に輝いておりました。


今日はここまでです。
お読みくださりありがとうございました。
次回をどうぞお楽しみに。

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