大増殖天使のキス #毎週ショートショートnote

彼女の終末は静かに訪れた。病室に駆け込んだ僕の前には彼女だった体があった。

突然の流行病はあっという間に世界中に広まった。極めて致死性が高いうえ、強すぎる感染力は誰も取り逃がさないという悪意を帯びていた。

彼女が感染したのは2週間前のこと、特徴的な背中の発疹が感染を疑いようのないものにした。対称的に現れる発疹は翼のようだった。

体を走る激痛に顔を歪めながら、彼女は救急車に乗せられた。優しい彼女の面影すら消えていた。

僕も、当然感染していた。一緒に住んでいたのだから免れられるはずがない。偶然にも彼女と僕は同じ病院に入院した。同じ病院だからといって何かの救いがあるわけではない。でも、壁の向こうのどこかの彼女の無事を祈り続けた。神様なんて信じてなかったのに。


今、目の前の彼女は昔のような優しい顔をしている。

僕は最後にキスをした。温もりの残るうちに。
こんな別れは僕たちだけじゃないだろう。

大増殖天使のキス。慈しみはない。

#毎週ショートショートnote  


別れとは辛いもので、経験しないで済むものなら経験したくありませんね。
学割との別れが今でも辛くて、学生をやり直したくなります。

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