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味覚


「チョコチップが混ざったバームクーヘンみたい」
涼しい店内で
隣の子どものもぐもぐ食レポ

"チョコチップの混ざったバームクーヘン"
そんなものは世界にあるのかな

バームクーヘンのつくりかた
一層一層焼き込みを重ねるの
"チョコチップを混ぜ込みながら焼くこと"
できたらいいな




長い間そこにあった建物が解体中
コンクリートから剥き出した鉄筋の無骨さ
建物の形はぎりぎりで保たれてる
ガラスの破られた窓は
太陽を四角く中に連れこむ



窓の中では射し込む光が充満して
舞い上がる埃が儚く輝くから
そこに立てば私のすべてが赤く透ける気がした
血液循環で刻むリズム
たんぱく質の息の音
生きている証

もうすぐ消えてしまうものに永遠を重ねたい
ちいさな呼吸が聞こえるの







スーパーヒーローの赤はどうして赤なんだろう
単純な疑問、受け止めてそっと後ろにまわした
褪色が主役の戦闘
陽射しの中で濃密な正義は薄れゆく
君の鳴らした警告の優しい印
拾い集めて光にかざした、空が泣いている


"チョコチップの混ざったバームクーヘン"
やっぱりそんなモノは無いよ
誰もみたことがないのよ だから
適当に名前をつけて包装してあげましょう
誰も知らないのだから


重なり合う層を舌でほどく
チョコチップとカケラになった
生地が混ざり合って喉を流れる
名前が作り出したものに食べられようよ
ちょうどいいじゃん


コンクリートの日々の向こう
白昼夢の中に心の輪郭を置いてきた
前を向き声を出す私のうしろで
私の脱殻が埃と共に光に染まってる





赤から無色透明へ変わってく音を聞いて
瞬きしてると見逃すよ
今はまだ帰りたくないの
口の中が甘いうちに歩き出す










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