羅生門〜ジジイの耳毛ver.〜
ある日の暮方の事である。一人の下人が、羅生門
の下で雨やみを待っていた。
いや、「下人が雨やみを待っていた」と云うよりも「雨にふりこめられた下人が、行き所がなくて、途方にくれていた」と云う方が、適当である。
ふと見上げると、羅生門の上に薄明かりが見えた。下人が近づいてみると、白髪の着物を着た老婆が着物を着たジジイの耳毛を一本一本抜いているのであった。下人は老婆を組み伏せ、何をしているのか白状させた。
「この死人の耳毛を抜いてな、マッキントッシュを作って売ろうと思うんじゃ」
下人が老婆を組み伏せる力はだんだん弱まっていく。老婆の答が存外、平凡なのに失望したからだった。老婆は言葉を続けた。
「このジジイはな、耳毛を抜いて当然の奴じゃ。生前はZoomでちんぽを露出していた男なんじゃ。こっちの男は、ノーマスクで餃子店に入ろうとし、入店を拒否された男。生前のことを考えれば、許してくれるじゃろうて」
男は、自らの立場をかえりみた。
「俺もそうしなければ、餓死をする体なのだ」と。もう、先程までの躊躇いは無かった。
下人はすばやく老婆の耳毛を抜き取った。
「悪いな、俺はあんたの耳毛を糧にワックスを作る。”粗品”として生きていく」
下人が立ち去った後、老婆が起き上がったのは、もう間もなくの事である。羅生門から下を見下ろすと、ただ黒洞洞(こくとうとう)たる夜が広がっているのみである。
……下人の行方は、誰も知らない。R-1グランプリで、優勝するまでは。
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