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爽やかが駆け抜ける

見た目はチーズケーキだった。
表面は茶色の綺麗なグラデーションがかかっている。
ぷるぷると潤っているそれは、艶かしさの中に爽やかさも兼ね備えておりしばらく見惚れてしまう。
乗せられた器は涼し気な透明で、厚みのある丸い形をしており、桜が咲き始めた季節だというのに初夏の気配をテーブルに運んできた。
フォークを入れると、思ったより手応えのあるしっかりとした生地で、チーズケーキの感触ではない。
断面はカステラのように見えるけれど、ぽろぽろと儚く崩れる脆さは持ち合わせていなかった。
ひとかけら、口の中に放り込む。
名前からして主張が強そうだと思っていたのに、良い意味で裏切られてしまった。
個性をきちんと残しつつ、軽やかにまろやかさが口の中に広がっていく。
こんなにさりげなくアピールされたらもう好きになってしまう。
この時間がずっと続けばいいのに、と陳腐なことを思ってみるも、始まりがあれば終わりは必ずやってくる。
ちょっと物足りないな。
でも、このぐらいが丁度いいのだろう。
また忘れた頃にふと思い出しそうな絶妙な後味。

美味しかった。
その名は、レモンタルト🍋