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錆戦日誌10・とある決別

返信があったのは翌日の夕方だった。

「死んだのかと思った。この前は雀荘で世話ンなったな」
「テンプランスルビーか。洒落た名前じゃねえか」

こっちにつく気になったのか、とジャンクテイマーは言った。

「冗談じゃない、俺は宣戦布告をしたいのさ」
「真紅に戻りでもしたのか」
傷跡を調べたのはお前だろう、今更戻れないのはわかってンだ」

グレムリンズ・ギフトは未来への希望を、自らが生み出した兵器に託した。ジャンクテイマー、少なくともその首魁はそれを悪用し、自らが望む世界を手に入れようとしている。正直なところ、どちらも眉唾だ。

「お前こそ、ただの機械に世界を救済されていいのか。全部忘れて、ただの市民に戻るなら今のうちだぞ」
「作ったやつが神だって言うなら、あれも神のうちなんだろう。しかしグレムリンズ・ギフトの望むものが、俺たちとは違うことだってある」

生きているか死んでいるかもわからず、空を飛び続けているだけの設計者の思惑より、同じ時代に生まれ、今を生きている財団の方がまだ信頼できる。なるほど元傭兵らしい判断ではある。
しかし俺は、毒にも薬にもならない講釈を垂れるオーバーロードより、今を生きるための物資をかすめ取っていく小悪党の方が気に食わない。横領をしていた士官を撃ち殺したのもそうだ。
戦争と巨大未識別の脅威を経てなお、俺たちは互いの手を取ることもできない。だから俺はこの虚空の海で、罪を重ねるしかないのだ。

「もう雀荘には来ねえのか」
「お前みたいに悪質な客が出るところには二度と行かない。もし次に会うなら戦場だ」
「顔見知りを撃つのは気が引ける」
「俺たちは赤の他人だ。迷うなよ、ペレグリンロード」

返信には時間がかかった。

「残念だ、テンプランスルビー。お前に神の祝福を」

あとのふたりは、ついに現れなかった。

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