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錆戦日誌8・とある病室

「あっ、手術が済んだばかりなんですから、まだ休んでいてください」

平時は軍服に覆われている傷跡もあらわに、半身に包帯を巻いた男はベッドに腰かけて報告書に目を通していた。

「我々はうまくやったか」
「はい。誘導には成功しています」

巨大未識別誘導作戦。融合し、巨大化した未識別グレムリンを交易航路から遠ざけ、あわよくば撃墜しようと画策した。多大な犠牲を払ったが、当初の目的だけは達成できた。量産された機体はあんなものを相手取れるようにはできていない。

「上層部は傭兵に助力を請うことを決定しました。既に撃破報告も上がっています」
「さすがはヴォイドテイマーだな」

思えば、死の眠りから目覚めたときもそうだった。彼らと彼らの機体が、この混迷の中の希望になるだろう。
しかし、何もかもを傭兵に任せられるわけではない。未識別機動体の発生源の捜索、ジャンク財団への対処、グレイヴネットに飛び交う情報の精査。組織でなければできないことも多い。

「タワー直下領域を解放、北西部ももう間もなく、か」

索敵、共鳴は、粉塵に覆われた世界を見通そうとする意志によって行われるという説がある。その意志こそが領域の解放、そして世界の浄化につながるのだと。
グレムリンは戦いの果てに世界を終わらせる。現状の、不具合がある世界を。

「これは術後の妄言だが」

ダスト・グレムリンの覚醒を促すため、グレムリン同士で戦わせる必要があった。そのための灰塵戦争(※)だったが、ダスト・グレムリンは世界を浄化することができなかった。

だからこれはやり直し(リブート)だ。

死の眠り。選抜に漏れたグレムリンテイマー。三大にも抗しうる財力、兵力を持つ組織が今日まで雌伏し続けてきた、その理由。

「テイマーズ・ケイジは、この未来を予見していたんじゃないか?」


(※)前回の日誌では灰「燼」戦争と表記していましたが、正しくは灰「塵」戦争です。

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