隣家の男

しばらくは、携帯のメモの中に眠っていたものを投稿します。これは4月頃に見た夢を少し加工したものです。

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 なんとなく庭の掃除をしようと家の玄関を開けると、隣の家に住む家族の車が目の前に止まっていた。その家族は何故か顔が全員似ていて、娘さんも奥さんも息子さんも全員が父親の顔にそっくりだった。私たち家族がここに越してくる前から住んでいたようで、引っ越して挨拶をしに行ったとき、同じ顔が4人もぞろぞろ玄関から出てくるものだから、はじめましての挨拶に何だか不穏な緊張が追加されたことを覚えている。だからという訳ではないが挨拶をする程度の関係性が続いていて、これといって交流する機会は今まで一度もなかった。

 玄関に立ちつくしどうしたのだろうと不思議に思っていると、映像はいきなり自宅の二階の窓に移動する。なんとその一家は、私の家の”二階の窓に”車を横付けしてきたのである。視線が二階へと移っているとはいえ、さっきまで玄関前に停車していた車が浮上して窓に横付けしてきたため、ここは驚ろくべき場面なのだが、夢の中の私は「あ、二階に用事があるんだな」と冷静に受け止めていた。なんとも夢らしい。

 すると、車の中から隣の家族の父親らしき人物が車窓から顔をだし「あなたの家の二階の寝室にある絵画を我々に返してほしい」と話しかけてきた。返してほしいとは何事だと訝しんでいると男は説明してきた。どうやら、顔が似ている隣家と我が家は遙か昔に何らかの因縁があったらしく、結果、向こうの先祖が大切にしていた絵画を我が家の先祖が二階の寝室にかけてそのままなのだそうだ。私はそんな因縁を全く知らなかったために半信半疑になるのは当たり前で、改めて寝室の絵画を確認しに向かおうとした。すると男は車から窓をひょっこり乗り越えて侵入し、私についてこようとした。隣家の人間とは言え、信用ならない人間を家に入れることにはかなり抵抗があった。しかしどうしても絵画を返してほしいとせがまれ、トラブルになってはより面倒だと、追い返さずそのまま侵入を許した。いざ隣に立ってみると男が私と同じくらいの背丈で、我が家に入るのは初めてであるはずなのに、妙な落ち着きを纏っていた。一体何者なんだ、この男、ひいてはこの隣家は。

 男を連れて目当ての寝室に入ると確かに絵画はあった。足が向いている方の壁の窓との間にあった。よく美術館であるような大きなサイズの絵画がかけられていた。そこそこ大きな作品であるのに、私は初めて壁に掛けられていることを知った様子だった。覚醒した頭でその絵画が何に似ているか思い返すと、現代美術館で見た幾何学模様の作品に似ているような気がする。普段そんなに美術館に行かない私が珍しく興味をもって鑑賞していたからか、不意に出演してきたのだろうか。

夢に戻って、例の寝室にかけられている作品を見てみると、モノクロというよりかは薄暗い茶色が与えられており、幾何学の濃淡が曖昧であった。幾何学模様と言うよりは竹の籠を連想させるような、優しく、ナチュラルな風合いの作品に見えた。

 隣家の男はこの作品を指さして「この絵画で間違いない。寝室だなんて大半を目を瞑って過ごす部屋に飾っているくらいなら、是非とも我が家にゆずってくれないか。」と言ってきた。男の物言いにムッとしながらも、そこまで思いやりのある絵画でもなく、何故この家にあるのかも知らない”昔から家にあったモノ”に過ぎなかったために、私は「いいですよ」と答えた。

男は満足げに壁から作品を外しにかかり、私に手伝いを指示しながらいそいそと二階の窓に横付けした車へ作品を運んだ。

「これからも、何卒よろしゅうございます。」男が車の窓から顔を出して挨拶すると、次の瞬間には隣家の駐車場に車が移動していた。

一体なんだったんだ。夢の中のオリジナルな妄想とはいえ、家族の顔だけは妙にリアルで特徴的だった。いつかどこかで出会うことがあるのだろうか。その時には、挨拶の時に我が家との因縁を訪ねなければ。



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