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初心者的なトルクレンチのお話

トルクレンチとは?

バイクや車、なんでもそうですがボルトにしてもナットにしても、小さなネジ類でも、強く締めればいいというものではありません。
確かに、緩んでは困るので後々緩まないように固く締め付ける必要はありますが。
そこで使うのが皆さんよくご存じのトルクレンチです。
YouTubeでも修理やメンテナンスをしている方々の動画を観ていると必ずと言っていいくらいトルクレンチが登場します。
これって、ボルトやナット、ネジ類はそれぞれのサイズや種類、用途によってどのくらいの強さで締め付ければ良いかが数値で決められています。
例えば、 20N・m (ニュートンメートル)或いは 3kgf・m (キログラムフォースメートル)というような数字です。
その決められた数値(力の強さ)でネジ類を締め付けるための道具がこのトルクレンチです。
予めトルクレンチに締め付けトルクを設定しておき、その設定でネジを締め付けると、設定したトルクになった時に ”カチッ” と音がしてレンチのハンドルがノッチから外れるのがわかります。
これで既定の締め付けトルクで締め付ける作業が完了するという仕組みです。

トルクレンチを使わないとどうなる?

日頃工具を使うことのない人、バイクや車の整備に慣れていない人などがボルトを締めていくと、その強さ加減がわからずにボルトを切ってしまうことがあります。
これ、オーバートルクと言って強く締め付け過ぎなんです。
だからと言って、緩めに締め付けると締め付けの強さが足りなくて、ツーリング先で ”ネジが落ちてなくなった” なんてことになりかねません。
ネジが落ちただけなら笑えますが、ブレーキが外れたとかエンジンが壊れたなんて事にでもなったら洒落になりません。

また、クランクシャフトやカムシャフトなどのように、オイルクリアランスが数値で定められているようなパーツには、均一に正しくトルクがかかっていないとオイルクリアランスも適正値かどうか疑わしいということになります。

なので、そういうことを理解している人はトルクレンチを使いますし、ネジ類のトルク管理をおろそかにしないのです。

僕はトルクレンチを使わない

そんなわかったような事を言うんだから、六壱はきちんとトルクレンチを使っているんだろ?
いいえ、エンジンを組む以外には使っていません。
言っていることとやってることが違うじゃないかと怒られそうですが、僕はトルクレンチを持っていませんし、今のところエンジンをバラすとか組む予定がないので今後も買うつもりはないですね。
若い時は重要な箇所に使っていたことがあるのは確かです。
でも、はっきり言ってアテにならないような面があり、さらにはトルクレンチを使うために正しい使い方をマスターしないといけないみたいな感じになって、使うのをやめました。

ある日、自分が締め付けたボルトの締め付け具合がどの程度だったのかをトルクレンチで確かめました。
自分で言うのもなんですが、トルクレンチを使わなくても適正なトルクが出ていました。
これが決定打となってトルクレンチを使わなくなったのです。

トルクレンチは正確ではないのか?

いいえ、きちんとしたメーカーの製品できちんと校正されたものなら正確です。
問題は使う側の方にあるのです。
トルクレンチの構造上、設定した規定トルクで締めた後でも、もっと強い力で締め付けることができてしまいます。
トルクレンチの ”カチ” という音に反応が遅れて、ついつい腕の力を抜くのが遅れてしまうとその分オーバートルクになります。
また、ロックタイトのような緩み止め剤をネジ山に塗布して締め付けると、ロックタイトは粘性のある液体なのである種潤滑剤のような働きをするようなことがあり、締め付けている最中に規定トルクに達してしまい余分に締めていることがあります。
もちろんこれもオーバートルクです。
これらの状態でも正確に規定値を守れるという人はかなりの熟練をした人ではないでしょうか?

それともうひとつ。
ボルトの頭やナットが奥まったところにあるとか、プラスドライバーやヘキサゴンネジ、トルクスなどの頭のネジを締め付ける時は、トルクレンチのラチェット部分からボルトの頭やナットまでの距離が長くなります。
エクステンションなどを使う場合はもっと長くなりますし、ユニバーサルジョイントを使わないとレンチが入らないとか回せないような場合は適正トルク以前にトルクをかけるのがやっとだったりします。
すると、トルクレンチには力が入るのに肝心のナットにはトルクがかからないとか。

このラチェット部分とボルト/ナットの間の距離が長ければ長いほど、締めつけようとするとトルクレンチが斜めになったりして締め付ける作業自体がやりにくくなり、均一にトルクがかけにくいとか正しいトルクをかけられないとかにもつながります。
ラチェットレンチにドライバーの長いビットやエクステンションを付けると締め付けにくいと感じた経験のある人は少なくないと思います。
この作業は、熟練ではないにしてもある程度こういう作業になれた人じゃないとトルクレンチを正確には使えないのです。
つまり、トルクレンチの精度の問題ではなく、使う側のスキルの問題なんですね。
極論しちゃうと、人間の方が正確な作業ができないとトルクレンチを使う意味がなくなってしまうのです。

経験がものを言う

習うより慣れろ とはよく言ったもので、本当にそうだと思います。
若い時に工具の扱いに慣れたせいか、経験のおかげで今でも自分のバイクを面倒みることができています。

基本的にボルトとナットのどちらを締めるか?
ナットです。
どうやってもレンチが上手くかからないなどの理由でナットを締めることができなかったら仕方ないのでナットが供回りしないように工夫してボルトの方を締めます。
ナットを締めることができる時にはナットを締めていき、右腕の力加減とレンチを通して右手に伝わる感触で「ここが丁度良いポイント」というのはわかります。

ボルト・ナットの構造上、ナットの締め付けを続けていくと、ある程度限界を超えたところでボルトが伸び始めます。
その伸び始める感触があったら明らかなオーバートルクです。
ですので、ボルトが伸び始める感触の手前までが締め付けの限界点だと考えます。
さらに締め付けるとナットが小さな力でも回るようになります。
その時点ではボルトの破断が始まっていますので、もう手遅れです。
更に締め付けると ”バツン!” と言ってボルトが切れるかボルトの頭が取れてしまいます。
経験的にこの感触を頼りにボルト/ナットを締めているので僕はトルクレンチを使いませんし、トルクレンチを正確に使えるだけの技量を持っていないということでもあります。

幸なことに、30年のブランクがあったけど僕はこの感触を少しは持ち合わせていたみたいです。

余談ですが、F1のマシンに関わりのある人に言われたことがあります。
嘘か本当か確かめたわけではありませんが、F1などのレース用マシンでは締め付けトルクはトルクレンチではなく、ボルトの長さで管理するのだそうです。
(多分、1ミリ2ミリではなく数十分の1ミリ百分の1ミリの単位だと思いますが・・・)


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