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これでいいんですか・・・?

こんな話を聞いたことがあります。

ある街の、とある和菓子屋さん。
先祖代々長く続く老舗で、美味しいお菓子を製造販売していました。
ところが年々売り上げが落ち込んで、遂には廃業をすることまで考えるようになります。
そんなある日、一か八かで新商品を開発することにしました。
古くからの和菓子の技を応用して洋菓子のような新しいお菓子を作り販売をしたところ経営を持ち直したそうです。

ある観光の街、とある金物屋さん。
職人が作る包丁や鎌、籐で編んだ籠や笊、お店の中は昔ながらの手作り商品が所せましと並んでいます。
今時はそういう製品は見向きもされず、店を開けていても商売にならないばかりか、観光地として有名になってしまったおかげで物珍しさで見物に来る人は大勢いるのに、商品は売れない。
だからシャッターを下ろしてしまい、本当に必要な人にだけ品物を売るようになったそうです。

とある大工さん、職人としては確かな腕を持っていて、これまでに数々の家を建ててきました。
カンナ、のこぎり、のみ、墨、ありとあらゆる道具を使いこなし、何もなかった土の上に家を建てるのです。
でも本人は僕にこう言いました。
大手のハウスメーカーがユニットを組んで家を建てるのが人気でね、箱を積むだけで家が建つから、最近は腕の見せ所がなくなった・・・。
その後彼はどこかへ転居し、今は職人としての仕事もしていないのだろうと思います。

ここに挙げた話は、日本中に数ある技術の中のほんの氷山の一角であって、実際にはあちこちで古くから伝承されてきた食品や工芸、職人技が受け継がれることなく消えていっているのだと思います。

それを買う側の理解や価値観も昔とは違ってきていることは確かだと思います。
だから売る側にもビジネスとして成り立つための工夫や努力は必要なのでしょう。
しかし、しかしです。
売れなくなったんだから仕方ない、
人が新しいものを欲しがるのだから新しいものを作ればいい、
ひとつの物を作るのに何日もかかるものをやめて効率よく生産すればいい、
本当にそうなんでしょうか?

画一的に工場で作られた工芸品だけあればいい?
工場で大量に生産された食べ物だけ食べていればいい?
人の技や木の匂いではなく工業的規格製品の臭いがする家に住みたい?

僕は新しいもの、大量生産が良くないなんてこれっぽっちも思ってはいません。
その土地にしかない味わいや料理
その人にしかない技やノウハウ
日本にしか作れない物や工芸品、日用品
そういうものを見て「素敵」とか「美しい」 とか
そう思える感性がなくなっているんじゃないだろうか?
見た目の綺麗さや物珍しさにばかり目を奪われてしまって、
SNSでバズれば飛びつくくせに、本当に良いもの、本当に美味しいものを自分で見つけることを忘れてしまっていないだろうか?
そういう心配をしているのです。
もしもこの心配が当たっているのだとすると、随分と日本人の感性はレベルが低くなってしまっているんじゃないだろうか?
ということです。

昔ながらの日本人の知恵や技は、世界に誇ってもおかしくないものばかりです。
その一つ一つが年々消えていくことも寂しいのですが、
それを何とも思わない近代日本人の方が僕には寂しいです。

国や地方でも、こういう失われつつある職人技、昔ながらの味わいというものを後々の世代にも受け継がれるような支援を考えて欲しいとも思います。
今は流行らない・・・
現代では欲しいと思う人がいない・・・
それだけの理由で職人や職人が持つ技が無くなっていくのは、あまりにも寂しいです。
これでいいんですか?

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