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経験談:マフラーを担いだ若者

それは突然に

とある日のことでした。
とある若者が肩にチャンバーを担いでホンダ NS 50 に乗って僕のところへやってきました。

以下、その時の会話です。
若者: このチャンバーを NS 50 に付けてもらえませんか?
僕  : えっ? マフラー交換して欲しいの?
若者: そうなんです。お願いできますか?
僕 : キャブはどうする? ジェット類とか持ってるの?
若者: ・・・・? キャブですか?
僕 :そうだよ。だって、マフラーだけ換えても意味ないし、多分遅くなる
        と思うよ。
        NS 50 を速くしたいんでしょ? 
若者: はい、速くしたいです。
僕 : キャブもそれなりにセッティングしないと、マフラーだけ換えても
         遅くなるだけだと思うよ。
若者: それでもいいので交換してください。
僕: わかった。じゃ交換しようか。
          でも、遅くなっても僕のせいじゃないからね(笑)

と、こんな会話をしたのを今でも覚えています。
2サイクル 50ccの ホンダ NS 50、このマシンに「いかにも」という感じのチャンバーを取り付けたら、速くなるどころかむしろ逆で、遅くなることは予想していました。
それでもマシンのオーナーさんがお願いすると言っているので、僕はそれを引き受けました。

さぁ実走・・・残念

交換作業は15分くらいでしょか。
あっさり交換はできました。
交換し終わってから、若者に試乗してみたら? と言うと、彼は近所を一周走って戻ってきました。

若者:やっぱり戻してくれますか?
僕 : どうした?やっぱり遅くなった?
若者: はい、遅いです。

だから言ったのに・・・・・
文句のひとつも言いたかったけど、若い時には誰でも一度は考えることを彼もやったわけで、心の広い僕はノーマルマフラーに戻してあげました。

トータルバランスの代表格

最近は排ガス規制がどうちゃらで2サイクルのバイクは絶滅危惧種になってしまったみたいですが、高齢のライダー諸兄はご存じの人が多いのではないでしょうか。
2サイクルは排気効率が良いだけではダメで、チャンバーのテーパーの角度や膨張管の太さや長さなど、エンジンの特性に合わせて ”排ガスを押し戻す”
ような機能も持たせる必要があります。
そうしないと、排気バルブを持たない2サイクルではピストンが下死点から上死点へストロークして圧縮工程に入った時に吸気した混合気が排気ポートから抜けてしまうからです。
4サイクルであれば吸排気にバルブがあるので、マフラーは排気効率だけを上げてやれば良いのですが、2サイクルではエンジンの構造上の理由でチャンバーの形状はとても重要なわけです。

更に、排気効率の良いマフラーにすると排ガスの抜けが良くなった分吸気する空気の量も増えるので、それに見合うだけのガソリン供給も増やさないとキャブレターから吸い込まれる混合気の空燃比が変わってしまいます。
つまり燃料の混合比率が下がってガスが薄くなるわけで、こうなると本来得られるはずの出力が得られなくなります。
結果、この若者のように 「マフラーを換えたのにパワーが出ない」という残念な事になります。
これは2サイクルに限らず4サイクルのエンジンでも同じことが言えます。

どんな車でもオートバイでも、トータルバランスというのはとても大切で、
全体の中のどれか一つを良くしてあげれば全体が良くなるということはほぼありません。
この吸排気系の話はその代表的なもので、出口の側が良くなったら入口の方もバランスさせてあげないと全体のバランスがおかしくなってパフォーマンスが下がるというわけです。

マフラーを担いで僕のところへ来た若者は
NS50に乗って
マフラーを担いで帰って行きました


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