【発達障害短編小説】異能の輝き〜第3章 異能の仲間〜
第3章 異能の仲間
葵は予感に支配される日々を過ごしていた。
最初は偶然だと思い込もうとしたが、連日のように繰り返される出来事に、その否定は無意味だと悟った。何かが自分の中で変わった。
だが、それが何なのかは依然として分からなかった。
そんなある日、学校での授業中にまた「見た」。
教室の片隅に座っていた大和(やまと)が、教科書を机から落とす未来が一瞬頭の中をよぎる。
無意識に目を向けたその瞬間、彼はまさに教科書を落とした。
「まただ…」
葵は、心臓が高鳴るのを感じた。
だが、驚いたのは葵だけではなかった。
大和がゆっくりとこちらを振り返り、じっと葵を見つめていた。
「なんで、俺が落とすって分かったんだ?」
彼の声は小さかったが、はっきりと葵に届いた。
周囲のクラスメイトは授業に集中しており、誰も気づいていないようだったが、葵は冷や汗が背中を伝うのを感じた。
「え…どうしてそれを…?」
大和は、机の上に放り出された教科書を拾い上げ、無言のまま葵に歩み寄った。
そして、誰にも聞こえないように声を潜めて言った。
「お前もか? お前も見えてるんだろ、未来が」
一瞬、時間が止まったように感じた。
葵は息を呑んだ。自分の力について話すつもりはなかったし、他人に知られることが恐ろしく思えていた。
だが、大和の真剣な目に、自分と同じような不安と理解が浮かんでいることに気づいた。
「どういうこと…?」葵が震える声で聞くと、大和は一瞬考え込み、椅子に腰掛けた。
「俺、最近変なんだ。頭がさ、すごい速く動く
んだよ。いろんなことを同時に考えられる。
前はただの多動だって言われてたんだけど…今
は、なんか違うんだ。
気づいたら、何でもすぐに分かる。物の構造と
か、人の考えとか。だから、なんかお前が俺の
動きを予測したことに気づけた」
葵は言葉を失った。
彼も自分と同じように「何か」に目覚めているのだ。
それが彼にとって何を意味しているのか分からないが、少なくとも彼女だけではないことが分かった瞬間、少しだけ心が軽くなった。
「私、最近、未来が見えるの」と、葵はついに打ち明けた。
「正確に言うと、ほんの数秒先の出来事が見えるの。でも、それがいつ起こるかは分からないし、コントロールもできない。ただ突然、頭に浮かぶんだ…」
大和は少し考え込むように腕を組んだ。
「それ、もしかして…『超覚醒』じゃないか?」
「超覚醒…?」
大和は葵に顔を近づけ、小声で話し始めた。
「聞いたことない? ネットで見たんだけど、
一部の人間が突然、脳が覚醒して特殊な能力を
得ることがあるらしい。
でも、そんなのただの噂だって思ってたんだけ
ど…もしかしたら、俺たちがその例かもしれな
い」
葵は驚きと不安を抑えながら、大和の言葉を反芻した。
もしこれが「超覚醒」だとしたら、彼らは今までとは全く違う現実に生きていることになる。
葵はその事実に圧倒されそうになったが、同時に何か大きな謎に近づいている感覚があった。
「でも、もしそれが本当なら…どうすればいい
の?」
葵の問いに、大和は無言のまま窓の外を見つめた。
「分からない。ただ、俺たちだけじゃないと思
う。他にもいるんじゃないか? 同じように能
力に目覚めた奴らがさ」
葵はその可能性を思い描いた。
自分のように、ある日突然異能に目覚め、戸惑い、恐れている人々が他にもいるのだろうか。
そして、もしそれが事実なら、彼らを探し出すべきなのだろうか?
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