相場類型別解説/支配権争い相場②/「ウルフパック戦術」を踏まえた新株予約権無償割当を巡る買収側と会社側の思惑
前回、支配権争い相場の基本的な流れと、株価の上昇要因を記載した。
前回の記事で記載したとおり、支配権争い相場の中でも、会社が大規模買付行為等の対応方針を導入した上で、対抗措置である新株予約権の無償割当の承認を求める株主総会の基準日を設定し、そして実際に無償割当に係る基準日が設定された局面では、特に急激な上昇トレンドを生みやすい(東京機械、三ツ星)。
今回は、その相場の肝となる新株予約権の無償割当の設計について、近年増えている買収者側のウルフパック戦術も踏まえた上で、説明を加える。
●買収防衛策としての新株予約権無償割当の一般的な設計
買収防衛策としての新株予約権無償割当は、一般的に、以下の設計がされている。
①全ての株主に対して、新株予約権Aを無償で割り当てる
②買収者側ではない一般株主は、新株予約権Aを行使価格1円で行使できる
③会社は、一般株主の新株予約権Aを、対価として株式を交付することで取得できる
④買収者側は、新株予約権Aを行使できない
⑤会社は、買収者側の新株予約権Aを、対価として別の新株予約権Bを交付することで取得できる
⑥買収者側は、新株予約権Bについて、買収を撤回したり、保有割合を減らしたりしないと、行使できない
⑦会社は、買収者側の新株予約権Bを、対価として金銭を交付することで取得できる
要するに、買収者側ではない一般株主の株式は増加するのに対して、買収者側の株式は、買収を撤回したり保有割合を減らすなどしなければ増加しない仕組みとなっている。これにより、買収者側の議決権のみが希釈されることになる。
そして、上では「買収者側」と記載したが、これは大量保有報告書を提出して会社に役員交代等の提案をしている「買収の主体」だけではなく、その買収の主体と足並みを揃えて買収に加担する「買収者グループ」を含むものである。この「買収者グループ」のメンバーは表面上「買収の主体」と無関係を装っている場合も多く、大量保有報告書にすら登場してこない場合もある。
●近年増えている「ウルフパック戦術」
近年、買収者側が、株集めの際に、「ウルフパック戦術」という方法をとる事例が増えている。
これは、買収者側が、一つの買収主体で株集めをするのではなく、複数のグループで株集めをする点に特徴がある。
買収者側としては、会社が買収防衛策を発動した場合、買収主体が一つだけであれば、「大規模買付行為等の対応方針」で株集めに面倒な手続を求められる上、上記の新株予約権無償割当が発動された場合、新株予約権Bの行使に買収の撤回や保有割合の減少が求められる以上、議決権の希釈化リスクが大きくなってしまう。
これに対して、ウルフパック戦術を用いて買収者側が複数のグループであれば、主要な買収主体以外は、対応方針の手続にとらわれずに株集めを継続できる上、上記の新株予約権無償割当が発動された場合でも、一般株主を装って新株予約権Aの行使をして株式の交付を受けることができ、買収者グループ全体としてみれば、議決権の希釈化リスクが減ることになる。
このウルフパック戦術による場合、株集めを行ってる個々のメンバーは、会社から買収者グループの一員であり一般株主ではないと判断された場合、新株予約権無償割当の場面で議決権の希釈化リスクを負うため、自らが「買収グループとは無関係である」と主張して一般株主を装う必要がある。
一方、会社は、会社が乗っ取られてしまうリスクを抑えるために、株集めを仕掛けている個々人が「買収グループの一員である」と判断するため、対応方針上の手続の過程で買収主体との関連性の証拠集めをすることになる。
例えば、ナガホリが買収者側のリ・ジェネレーションに対して他の株主との関連性を問う質問を繰り返しているのは、このウルフパック戦術への対策の一環であると思われる。他方で、リ・ジェネレーションや他の大株主が、お互いに無関係であると主張していることも、ウルフパック戦術を仕掛ける側からすれば重要なことである。
●新株予約権無償割当を巡る争点
会社の新株予約権無償割当は、株主間で不公平な取り扱いをするものであり、設計内容によっては、会社法上無効となる場合がある。
買収者側にとってみれば、新株予約権無償割当が認められてしまうと議決権が希釈されてしまうため、それが会社法に違反するものであるとして、裁判所に対して新株予約権無償割当の差止めの仮処分を申し立てることになる。
この差止めの仮処分は、裁判所が暫定的に新株予約権の無償割当の有効性を判断するものであり、仮処分が認められれば、会社としては無償割当を中止・留保せざるを得ないことになる。
そして、特にウルフパック戦術が行われている場合、新株予約権無償割当の有効性を判断する際、会社が「特定株主を買収者グループと判断する」基準が明確であるかどうかは、重要な要素となる。これが明確でないと、会社が何でもかんでも買収者側と判断して一般株主の議決権すらも自らの意のままにコントロールしてしまうおそれがあるからだ。
三ッ星事件の場合は、①この基準が不明確であり会社の裁量が広すぎたことや、②買収者側が買収を撤回する方法が明らかでなく、新株予約権Bの行使が極めて困難となっていたこと等が理由で差止め仮処分が認められた。
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