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相場類型別解説/支配権争い相場①/支配権争いの基本的な流れ

以前、ゲーセク、バイオ等セクター別の解説を行ったが、今回は、セクター問わず、相場類型別の解説という項目を立て、「支配権争い相場」について考察する。

●支配権争いとは何か
私が「支配権争い」と呼んでいるのは、第三者が株を集めて株主権を行使し会社の経営に関与していく、というものである。
①相場の過程で実際に大量の株集めをしている勢力がいること、②事業上の提案や会社側の買収対応等の発展性があること、③要所要所でイベドリ効果が働くことから、時価総額関係なしに急激な上昇トレンドを作りやすいのが特徴であると思われる。

●支配権争いの流れと株価の上昇要因
以下では、支配権争いの流れとそれに伴う株価の上昇要因を整理する。

(1)第三者(※金融機関等を除く)による株式の取得
 これは5%を超えたところで、大量保有報告書の提出により判明するが、中には、金商法違反覚悟で期限内に大量保有報告書を提出しないというケースもある。
 期限内の提出を怠る理由としては、①大量保有報告書の提出により株価が上昇するリスクを避ける、②大量保有報告書がきっかけで会社に株集めの動きを察知されたくない(※会社は株主名簿のチェックで把握する)等が考えられる。
 大量保有報告書の提出により、報告者が更に買い集めを継続する可能性や何らかの事業上の提案等への期待が高まり、株価が上昇する場合がある。

(2)第三者による経営への提案
 第三者は、純投資の場合を除き、会社の経営について何らかの提案を行う。株集めが純投資によるものか、経営への関与のためのものかは、大量保有報告書の保有目的欄が参考になる
 この提案は、事例によりけりである。友好的なケースでは交渉を行い事業提携等を提案する場合もあるが、敵対的なケースでは、究極的には株主総会の招集を請求して役員の交代を求めることになる。第三者側で50%を超える議決権を確保していれば、この交代は承認されることになる。
 例えば、今年のオウケイウェイブやFVCは、株主総会で役員交代が認められたが、ワイエスフード(江川氏)のように、株主総会ではなく事前の交渉で役員交代になるケースもある。
 また、現在の日本製麻やワイエスフード(青柳氏)は、第三者が株式を取得している段階であり、具体的な展開はこれからである。

(3)会社の対応
 第三者が大量に株集めを行う場合、会社は「大規模買付行為等への対応方針」を導入する場合がある。
 これは、第三者の株式取得に対して会社が導入する手続の履行を求めるものであり、株式取得の目的、想定取得割合等を明らかにさせるものである。そして、第三者が手続に従わない場合、対抗措置として、株主への新株予約権の無償割当(※ただし、買収側には行使制限がかかる)を実施し、買収者側の議決権のみ希釈させる、という方法をとる場合が多い。
 会社としては、第三者の不自然な株集めを放置していると、究極、50%を超える議決権を確保された場合、役員が交代され、乗っ取りを許すことになる。それを防ぐために、対応方針を導入して、買収者側の動きをコントロールしようとするのである。
 対応方針が導入されたケースとしては、東京機械、三ッ星、オーバル、ナガホリ等が挙げられる。
 この局面では、第三者の株集めの傾向が顕著になっており更に買い集めが継続される可能性や新株予約権の無償割当への期待から株価が上昇することがある。特にオーバルでは対応方針の導入により大きく株価が上昇した。

(4)株主総会の基準日の設定
 上記の流れを受けて、①第三者が役員交代の株主総会の招集を請求したり、②会社が第三者の株集めに対して新株予約権の無償割当を議決する株主総会を招集する場合がある。
 そして、これら①②の株主総会には基準日が定められ、その定められた基準日の権利確定日(2営業日前)に株式を有している株主に議決権が認められる。
 また、新株予約権の無償割当については、それを承認する株主総会の基準日とは別に、それが承認されたことを前提として、③実際に無償割当を受ける基準日も別に設定される。これにより、その基準日の権利確定日(2営業日前)に株式を保有している株主が無償割当を受ける権利を得ることになる。
 上記の①②の株主総会や、③新株予約権の無償割当に関する基準日の権利確定日が定まった場合、買収者側も会社協力者側も議決権確保のために買い集めを行う可能性があることへの期待が集中してイベドリが発生しやすい
 例えば、①役員交代の株主総会の基準日のイベドリの事例としては、オウケイウェイブ、ワイエスフードが挙げられる。
 また、②会社が対応方針を導入し、新株予約権無償割当の承認の株主総会や③実際の割当に関する基準日のイベドリが発生した事例としては、東京機械、三ツ星が挙げられる。このケースでは、新株予約権無償割当が認められれば買収者側に不利であるため買収者側の株集めの傾向がより顕著になること、一般投資家からしても株が増えるモチベーションがあること、からより大きな相場になりやすいといえよう。
 参考に、東京機械、三ツ星の出来事・株価推移の整理を以下に添付する。

(5)第三者側からの無償割当の差止め仮処分の申立て
 会社が新株予約権の無償割当を行うことを決定した場合、買収者側としてはそれを許すと議決権が希釈され、役員交代等に必要な議決権が確保できないリスクを負う。
 そこで、この局面までくると、買収者側は、裁判所に対して、会社の新株予約権の無償割当を差し止める仮処分を申し立てることになる。この仮処分が認められた場合、会社は新株予約権の無償割当を中止する判断をせざるを得ない。
 仮処分が認められるかどうかは、会社が定めた新株予約権の無償割当の設計により異なる。この点、三ッ星の場合、仮処分が認められたが、これによりこの方法それ自体が否定されたというわけではなく、あくまで個別具体的な事案により判断される。

(6)役員交代の株主総会
 なお、役員交代の株主総会が開催される場合、新経営陣に対する期待が高い場合は、それに伴うイベドリで株価が上昇する場合もある。
 このケースは、例えば、FVC、オウケイウェイヴ等が挙げられる。








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