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ロコたろうと鉄道旅(2)

 またまた、鉄道旅のお話し。同タイトルの前回、私が考え抜いてこれが最善と思う方法に、いつも両親は不満らしいと受け取れるような内容のことを書いた。
 今回の記事は、たぶん私ひとりでしたものとしては最長記録のもの。でもそれは、ものすごくモヤモヤする旅行でしかなかった。という、お話し。

片道6時間!

新大阪~名古屋~塩尻~甲府

 2018年の冬も始まろうかというころ、実家の家族ぐるみでかなりお世話になった方の訃報が届いた。通夜、告別式の日程がわかり次第知らせるとは連絡があったものの、その後私個別に母から電話があった。
「あんたは体調を考えなさい」
 このとき私、下の子を妊娠中。数日前に16週、5ヶ月に入ったころのこと。つわりもだいぶおさまってはいたし、5ヶ月といえば安定期だ。
 ただ、ここで注意をしておきたい。安定期というのはあくまで「母体が胎児を育むのに環境が整ったよ」という意味での安定らしくて、アクシデントだ何だがあれば、当然無理を後悔することになる。だから、これから妊娠・出産を考えている方には、一人の経産婦として、とてもオススメできたものではない。
 それでも、私もとてもお世話になった方だし、一見関係のないような父のきょうだい(私のおじ・おば)まで行くというのだから、もっと関係の濃い父の娘である私が行かないわけにはいかない。
「5ヶ月になったし!」
と母に言うと、
「5ヶ月・・・、まあ、安定はしているか」
と、独り言のような声が聞こえてきた。どうやら母は安定期をまちがったほうでとらえているらしかった。このときばかりはこれ幸いと、対策もしっかりすることを約束して、私も葬儀に参列することにした。
 
 旦那に「新大阪から甲府までの切符を、すべて自由席でいいからおさえて」と日程を沿えて頼んだ。
 
 ★ 毎度旦那に切符を頼んでいるのは、JRの駅が仕事先から近く、予約→発券がしやすい環境だったから。
 
 ターミナル駅までの細かい道は省くが、新大阪から新幹線に乗り、名古屋。名古屋からは特急「しなの」。途中塩尻で乗り換えて、特急「あずさ」で甲府へ。家を出てから6時間の長丁場。すべて自由席で頼んだのは、万が一途中で体調を崩した場合、指定した電車に乗り遅れたり、途中下車しなければならないことを考えて。指定席を取っていた電車に乗れなくても、自由席であれば乗れることを知ってはいたが、ほんのわずかかもしれないけれど指定席分だけ損をするのもイヤなので、ならばとあらかじめ自由席で取ってもらったのだ。
 
 新幹線の本数は各特急に比べるとかなりあるから、甲府に何時に着きたいかから逆算して、いつの新幹線、各特急とあらかじめ決めておいた。これは、帰りについても同じだ。
 
 行きも帰りも、私の体調面では特に問題はなかった。帰ってきた翌日が検診の日だったので、昨日まで葬儀で長距離旅行をしたことを当時の担当医に告げると、「うん、特に問題はなさそう」と言われ、ほっとしたことを思い出す。
 体調面では問題はなかった。一方、精神面ではかなりきつかったので。

存在しない列車

毎時1本ある「はず」だ

 通夜、告別式と終わり、その翌日、宿泊したホテルから甲府駅までのこと。両親はおじ・おばを乗せて車で来ていたので、私も甲府駅まで送ってもらうことになった。富山までは高速道路を使うとなると上信越道を経由するだろうし、一旦下道におりるとしたら白馬経由かと想像された。白馬・大町は昔何度か行ったことがあるから、私たち一家にとっては懐かしい場所だ。
 そうでなくても、明るいうちに山越えをしてしまいたいからと、父は9時半ごろ出発の提案をしてきた。
 
「何時の電車だ?」
 確かそのときは、12時台の「あずさ」を予定していたから、12時のあずさだよ、と答えた。
「12時って。11時台にあるはずでしょ?」
 母がすかさず口を挟んできた。あずさが毎時1本ずつあると知っていたらしい。10時台のあずさには、宿泊先からは間に合わない。1時間に1本なら、次は11時台のあずさだ。確かにその時間に甲府駅から松本行きはある。 
 
 が、この11時台のあずさというのがネックで、あずさは一部が名古屋方面への乗り換え駅である塩尻駅を通過してしまう。11時台のあずさはこの塩尻通過のあずさだった。
 そこで私は、検索ツールで電車時刻を調べて表示させた。その前の自分で検索したものもスクリーンショットして送り、情報共有していたので、二度手間である。乗り換え駅と時刻を指定すると、私があらかじめ情報共有しておいた、12時台のあずさが結果として表示される。
「だから、何で12時台のあずさなの。11時台のが出るはずでしょ?」
「11時台のあずさは、塩尻に止まらないんだって」
「だって、塩尻は名古屋行きの乗り換え駅じゃない。全部止まるんだから」
 勝手に「全部止まる」だなんて。我が家の勝手でダイヤが作成されているわけじゃないんだから。止まらないっていう結果が出ている時点で、止まらないっていう事実がある、それだけのことじゃないの?
 それでも私の検索の仕方がおかしいから、わざと11時台のあずさが出てこないように調べているんだと言い張って、両親は私を責める。
 私は体の負担を少なくするため、乗り換え回数を少なくしたいのに。11時台のあずさは塩尻を通過。次の12時台のは乗り換えできるあずさ。だから、乗り換えできるほうにしたいのに。
 すると両親は、
「一刻も早く子どものもとに帰るのが母親ってもんでしょ!」
「子どもが待っているっていうのに、お前の趣味を優先させて何をのんびり帰ろうとしているんだ」
と、私が母親として足りていないという方向から責めてくる(ええ、どうせ足りていない母親ですよ~だ!!)。そして、別に今回は趣味・・・鈍行でゆっくり旅を優先させてなんかいない。今回は時間優先、その証拠に乗車券のみではなく、特急券まで見せているのに(自由席のではあるけど)。

 このゴタゴタのあいだに甲府駅に到着し、言い合いは、改札前コンコースでも繰り広げられた。私も検索の方法を変更し、11時台のあずさに乗った場合のルートについても表示させたうえで、普通電車に乗り換えなきゃいけないことになるから、ということも伝えた。
「じゃあ、本当に11時台のあずさが塩尻に止まらないのか、窓口で聞いてこい!」
とまで言われる始末。だから、いくら調べたって出てこないんだから聞いたって同じだって! と言っても、
「情報がまちがっているかもしれないだろ! 母さんについてってもらって聞いてこい!」
とまで言われる始末。
 尋ねるぐらいは自分でもできるって! なんでお母さんについてきてもらわなきゃいけないのよ。つまりは、「私が何かごまかそうとしていないか、監視者をつける」ということか。何で私が思っていることを否定するんだろう。そして信じないんだろう。
 
 仕方なく窓口の行列に並び、
「11時台のあずさは、塩尻には止まらないんですか?」
と尋ねた。止まらないので、その前の停車駅(確か上諏訪)で普通電車に乗り換えて塩尻まで行くと、○時○分塩尻発のしなのに乗ることができる、とのことだった。
 母がついてくることは阻止できたので、尋ね終わって、結果を両親に報告する。それでもまだ、
「何で塩尻に止まらないのよ」
「それで本当に行けるのか?」
と懐疑的だった。
 改めて11時台のあずさに乗った場合のものを、両親に見せた。窓口で尋ねたのと同じ乗り換え方法が表示されている。ほ~ら、検索かけたのと駅員さんが教えてくれたのと、同じじゃないか!
「ったく、だから自由席なんか」
 父が吐き捨てるように言った。聞こえていないとでも思ったのだろうか。
 11時台のあずさが塩尻に止まらないことと、私が自由席の切符を押さえていることは、何の関連もないはず。今こうやって振り返ってみたら、私を問い詰めているうちに、その論点がズレにズレていたということでもある。
  
 その後お昼ごはんにパンを買い、早々と改札を抜けてホームにおりた。甲府駅は橋上駅舎のため、改札は2階、ホームは1階の形式になる。フェンスの向こうに父が車を止めた駐車場までの道が丸見えで、父がこちらに向かって満面の笑みでこちらに手を上げている姿を確認できたが、どうせ向こうからは微妙な視線の違いまで見えている訳がないと、私は見えていないフリをした。
(なお、おじ・おばは車の中では両親に味方するような意見を言っていた。元々私を駅まで送るついでに駅周辺の町並みを歩きたいとのことで、車を止めてからは別行動だった)。
 
 結局11時台のあずさに乗ることになった私は、上諏訪、塩尻で乗り換え、その後名古屋駅で新幹線をわざと数本見送ってから乗った。トイレに行ったりしていたのもあって、どのみち予定していた新幹線には間に合わなかった。何の意味もないかもしれないが、私の小さな反抗(のつもり)だった。

正確に伝えても満足してもらえない

 いつも帰省や両親が絡む旅行のときに、旦那には不思議がられる。
「○時に駅に着く、で、ええやん。それなら特急であろうと普通であろうと、○時に着くっていう事実は正しいのやし、まちがってない。なんでロコさんは特急とか何時発のやつとか、余分な情報までつけるん?」
 旦那にとってはそれでよくても、うちの両親がそれでは納得しない、と何度も言っている。いつもそれだけの情報で文句を言わないのは、問う相手が実のではなく義理の息子だから。
 それでも、旦那に何度も尋ねられる。○時に着く、だけでは満足されない。普通電車だといえば、またなんでそんなチマチマしたの、と言われるし、出発後と途中の○○の時点で連絡しろ、とも言われる。だから昔、青春18きっぷのみで富山まで行けたときには、サンダーバードに乗った場合の時間も事前に検索しておいて、該当時刻で大阪駅・金沢を出発したことを連絡し、でも当の本人たちはサンダーバードではなく普通電車内だった、ということがあった。特急に乗っていたつもりが実は普通電車でした、というごまかしは、都会であれば特急と各在来線が同時に入線・出発ということはあり得るけれど、地方で都会ほど本数がなければ、特急と在来線が同時入線・出発なんて珍しい。だいたい私たちは、乗っていた普通電車のあとに到着するサンダーバードの時刻で連絡を入れていたから、これも両親が万が一早めに駅に着いていて見つかったら、また何か言われるんじゃないかと、いつもヒヤヒヤしていた。
 今の富山駅は高架化工事が終わり、駐車場から駅構内を見通せなくなったから、見つかる危険性はなくなった。高架化される前は、列車が到着するのはいちばん北側のホームで、フェンスひとつ越えればそこは駐車場、駅構内を見渡すことができたから。 
 
 その点、義実家はざっくりしている。○時に着くと言ったら、
「おう、そうか。じゃあ、そのころ○○駅に迎えに行くわ」
で済むのだから。
「自分の意思でどの電車って選んでいるんだから、何も言われる筋合いはないはずだし、自分で選んだ結果なんだからもっと堂々としてりゃいいのに」
と旦那は言う。うん、あなたの両親に対してはそれでいいよ。私の両親の場合は、それでも懇々と「特急電車のすばらしさ」を説いてくるんだから。いい加減こっちも疲れてしまうのよ。
 今回の帰省、その前の甲府への行き来。私には私なりの旅を楽しむ自由がある。子どもがいれば、子どもと一緒に楽しむ自由だってあるはずで、事細かに時間を尋ねられることが、私にとっては楽しむ自由を一部奪われているなという気もちになってしまう。
 たったそれだけのことで? と思われてしまうかもしれない。・・・まあここは、私と両親とのこれまでの関係の積み重ねの中で生じたものなので、これ以上どうとも言えないのだけど。

密かな楽しみ

 実は11月に、仕事関係でひとつ旅行を計画している。旅行というほど旅行できるかはわからないけれど、両親に言ったら言ったでまた、何か言われるだろうし。だから内緒にしておこう。
 さて、久しぶりに前のり鈍行旅にしようか? それとも片道はぜいたく新幹線の旅にしようか? 前のりする分宿代が1泊分余計なんだから、新幹線利用の場合と大して変わらないかもな。
 
 でも、今からワクワクしていることは、紛れもない事実。

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