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初めての東京(スイーツ)

初めて上京した。

東京にはお洒落な店が多い。

長旅でお腹も減っている。

どうしようと思った。

○○○ナルドなど無い時代である。

コンビニもない。

何とか空腹を満たしたかった。

費用対効果を無意識のうちに考えた。

「喫茶店の定食だ!」

特段に洒落た店に入った。

素敵なお姉さんが、水とメニューを持ってきてくれた。

水ではなかった。レモンの味がする!

これが田舎で噂の「ボッタクリ」と怯えた。

私の田舎では、東京の店の中には、座っただけで高額を請求されると聞かされていた。

頭の中で財布に入れているお金を想像した。

きっと怖いお兄さんが出てきて、ボコボコにされると思っただけで、手が震えた。

まわりを見回すと、普通の雰囲気のような気がした。

少し落ち着いたので、メニューを見た。

「定食がない!」

私の田舎では、満腹の定番である定食は喫茶店で必ず食することができる。

コーヒーもある程度の定食屋が、私の田舎の喫茶店である。

「コーヒー」も複数存在している!

値段は田舎の1.5倍程度である。

「ボッタクリ」と思っているので、どこかに小さく「万円」と書かれているかもしれないと思った。

目を皿のようにして探したが「万円」は見つからない。

店のお姉さんに
「何にしましょうか?」
と尋ねられた。

どうせボコボコにされるなら何か食べたほうが得だと思った。

「何か食べたいです」

「ウチはケーキしかありません」

「ケーキをお願いします」

私の田舎では、店のおばちゃんが裏の畑で取れた果物もつけてくれる。

少しだけ期待しながら待った。

ケーキらしき皿が運ばれてきた。

彩りはいいが、とても小さい。

皿の殆どが鮮やかなソースである。

フォークしか用意されていない!

ケーキはスプーンで食べるものだと思っていた私には衝撃だった。

一口で食べてしまった。

ソースが残った。

どうせボコボコにされるならと思い直し、皿を舐めた。

犬が最後まで舐め尽くすように舐めた。

それほど美味しかった。

味を噛み締めながら、ボコボコにされるのを待った。

ボコボコにされる気配はない。

レシートを持ってレジへ行った。

お姉さんに尋ねられた。

「いかがでした?」

「?」

「またお越しください」

「・・・」

怖いお兄さんが出て来ると思ったら足が震えた。

お金を紙幣で払った。

お釣りをもらうことなく、ドアを出た。

猛ダッシュした。

お姉さんが何か言っているが、振り向かずに走った。

怖いお兄さんも追っかけてこないようだ。

釣銭は勿体なかったが、ボコボコにされるよりマシと納得した。

東京は怖いと思った。

その後、上京するようになっても、この恐怖感が目覚める。

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