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損失回避バイアスに惑わされない

[要旨]

ドン・キホーテ創業者の安田隆夫さんによれば、ビジネスで「大勝ち」することが難しい要因のひとつは、人は負けることに敏感、すなわち、損失回避バイアスがある一方で、勝つことには鈍感、すなわち、機会原価を発生させてしまうからです。したがって、大勝ちをするためには、損失回避バイアスに惑わされず、機会原価を発生させないようにすることが基本と言えます。

[本文]

今回も、前回に引き続き、安田隆夫さんのご著書、「運-ドン・キホーテ創業者『最強の遺言』」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、ドン・キホーテが開業以来34年間増収増益を続けてきた要因は、何回負けても絶対に致命的な“大負け”をせず、勝つ時は“大勝ち”を重ねてきたからだということについて説明しました。

これに続いて、安田さんは、人は負けることには敏感な一方で、勝つことには鈍感であることに注意しなければならないと述べておられます。「ところが、実際、大勝ちを目指すのはなかなか難しい。人は、得てして、『負け』には敏感だが、『勝ち』には意外なくらい鈍感だからである。行動経済学で言う『損失回避バイアス』というやつだ。人間は利得と損失を比較する際、損失の方をより重大だと感じやすく、損失を回避しようとする傾向がある。例えば、商売で、50万円の損をしたとしよう。人は負けに敏感だから、意気消沈した後に悔しがり、死に物狂いでその負けを取り戻そうとする。

ところが、100万円儲けられたはずなのに、50万円しか設けられなかった場合は、そこで『50万円も儲け損なってしまった』と心底悔しがれる人は少ない。多くの人は、『50万円儲かったんだから良しとしなければ』というレベルに留まってしまう。これではダメだ。チャンスなのに、“ほどほど”にこなし、『腹七分目』や『腹八分目』で満足してしまうのは、結果的に運を下げる要因となる。得られる果実を完全に収穫できなかったことを、地団太踏んで悔しがれる人が、本当に強い勝負師として強運に恵まれるのだ。

100万円儲かるチャンスが巡ってきたら、100万だけでは満足せず、『今の自分には少なくとも100万円勝てる運の流れが来ているのだから、さらに200万円勝てる運の流れが来ているのだから、さらに200万円、300万円と儲けることができるかも知れない。さあ、どうやって大きな勝ちを掴みに行こうか』と思える人、つまり、勝ちに敏感かつ貪欲な人が、人生とビジネスで大きな成功を収める。最悪なのは、目の前にチャンス(幸運)がぶら下がっているのに、それを掴みにいこうとしないことだ。チャンスの時に機敏な対応をしない人は、ピンチの時に適確な対応をしない人よりも衰運を招くということは強調しておきたい」(59ページ)

安田さんがご指摘しておられる、「損失回避バイアス」はどんな人も持っていると思います。したがって、損失にこだわり過ぎると、収益を得る機会を見逃してしまいやすくなります。本旨からそれますが、過去の損失を取り戻そうとすることにこだわりすぎることで、さらに損失を増やす結果になる、埋没原価効果にも注意しなければなりません。話を戻すと、安田さんは、「100万円儲けられたはずなのに、50万円しか設けられなかった場合は、そこで『50万円も儲け損なってしまった』と心底悔しがれる人は少ない」とご指摘しておられます。

この、「100万円儲けられたはずなのに、50万円しか設けられなかった」ことを、機会原価といいます。安田さんのご説明の主旨は、損失回避バイアスに惑わされず、さらに、機会原価を発生させないようにしなければならないということだと覆います。すなわち、損失に対する敏感さ以上に、収益に敏感になれということでしょう。そして、私は、そのための要素のひとつとして、管理会計を使いこなす能力を身に付けることだと思います。例えば、機会原価を把握するには、まず、管理会計をよく理解しなければなりません。それは、34期連続増収増益を実践している安田さんが実証しています。

2024/8/21 No.2807

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