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与信管理で連鎖倒産を避ける

[要旨]

公認会計士の安本隆晴さんによれば、中小企業の多くは、販売先に対する与信管理を行なっていないそうです。しかし、与信管理をせずに、単に、相手の求めに応じて販売していると、売掛金を回収できず、損失が発生してしまうだけでなく、自社の資金繰に重大な支障が発生してしまい、連鎖倒産をしてしまいかねません。

[本文]

今回も、公認会計士の安本隆晴さんのご著書、「ユニクロ監査役が書いた強い会社をつくる会計の教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、売掛金は回収もれが起きないよう、常に注意しなければなりませんが、貸倒が発生した後の「後始末」よりも、貸倒が発生する前に手を打つ「前始末」、すなわち、「リスクを防止するために先に手を打つ」ことが効果があり、この前始末は、顧客に商品を販売している営業担当者が行うことが適切ということを説明しました。

これに続いて、安本さんは、与信管理の大切さについてご説明しておられます。「今見たように、貸し倒れてしまったら、その分を取り返すのは、並大抵の苦労ではないので、まず、大事なのは、前始末、取引を開始する前に行う『与信管理』です。まずは、現金取引から始めて、徐々に取引量が増えていき、どこかのタイミングで掛け取引に変更に、回収条件を改めて決めます。そのときに、いくらの金額まで売ってもよいかを決めるのが、『与信』という行為です。文字通り、『信用を与える』のです。

得意先から経営状況を聞き出すだけではなく、信用調査機関から信用判定情報を得ることも必要でしょう。中小企業では、与信管理を行なっていところは非常に少なく、中堅企業でも徹底しているところは意外に少ないです。与信管理の重要性を分かっている経営者が少ないとも言えます。『与信だかなんだかへんなことをする前に、お客に何とか買ってもらう方が先だろう』などと仰る経営者の声が聞こえますが、後で泣きを見るのはあなたです。連鎖倒産は、いつ何時起きるか分かりません。相手が上場企業であっても、しっかりと与信管理をするべきです」(131ページ)

私も、中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、中小企業では、売上を獲得するために多くの労力をとられてしまい、与信管理を行なう労力を捻出することはなかなか難しいという現実は理解できます。しかし、まったく与信管理を行なわないということも、懸命とは言えません。そこで、2つ、お薦めする対策をあげたいと思います。1つは、販売先の分散です。一概に、どれくらいが妥当とは言えませんが、特定の販売先に販売が偏らないようにすることです。

特殊な事情がある場合は別ですが、1社の販売先が、自社の売上の30%を超えるというようなことは避けることが無難です。もし、販売先が偏っていると、その販売先から何らかの事情で売掛金を支払ってもらうことができなくなったときに、自社も、事業を継続できなくなるほどの影響を受けることになりかねません。こういった観点から、販売先を極力分散することをお薦めします。2つめは、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営している、経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)に加入することです。

この共済に加入していると、売掛金が回収できなくなったときに、最大で8,000万円の融資を中小企業基盤整備機構から受けることができます。この融資は、銀行の融資と違い、共済の契約者は、回収できなくなった売掛金があれば、その売掛金の金額相当額の融資を受ける権利があるので、いわゆる融資審査というものはなく、迅速に資金繰を維持することができます。また、平時においても、このような共済に加入している会社に対しては、販売先の倒産があったときでも、連鎖倒産する可能性が低い会社であると評価し、融資審査に有利に働きます。

2024/1/16 No.2589

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