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規模の経済性と経験曲線効果

[要旨]

業界のリーダーとなっている会社は、製品の生産数を増やすことで、スケールメリットを受けることができますが、これを規模の経済性といいます。また、累積生産数が増加すると、工員の習熟度が高まることで生産性も高まりますが、これを経験曲線効果といいます。したがって、リーダーは、これらの経済性を活用し、2番手以下の会社との競合を優位に進めることが可能になります。

[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの遠藤功さんのご著書、「経営戦略の教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べます。前回は、自動車業界のリーダーのトヨタは、コスト・リーダーシップ戦略をとり、2番手のホンダは差別化戦略をとり、また、スズキやダイハツは集中戦略をとることで成功しましたが、日産や三菱は戦略が明確でないことから、苦境に立つことになったと考えられるということを説明しました。

これに続いて、遠藤さんは、業界のリーダーが、競争を優位に進めることができる特性である、規模の経済性と経験曲線について述べておられます。「リーダーのひとつの条件であるコスト優位を実現しようとするとき、2つの経済性分析に着目することが大切です。1つ目は、『規模の経済効果』を表す、スケール・カーブです。企業のコストは、大きく分けて、固定費と変動費の2種類があります。

固定費は規模が大きくなればなるほど、単位コストは下がる傾向があります。総体としてのコストは同じでも、頭割りする母数が多ければ、単位当たりのコストは低下する、という理屈です。また、変動費についても、規模が大きければ、例えば、原材料の仕入れを大量に“まとめ買い”するなどして、コストを下げることができます。このように、規模が大きくなることによって得られるコスト効率の向上を、『規模の効果』と呼びます。(中略)

2つ目は、事業活動の経験値とコストとの関係を明らかにする『経験曲線』、すなわち、エクスペリエンス・カーブです。スケール・カーブがモノを対象にしたコストダウンであるのに対して、こちらは『人の学習効果』に着目し、『学習曲線』(ラーニングカーブ)とも呼ばれています。第二次世界大戦中に、航空機の組み立てにおいて、作業者が習熟するにつれて、生産性がどう上がっていくかを分析したものが最初だと言われていますう。

数多くつくればつくるほど、学習効果によって生産性が向上し、コストが下がっていくことが分かっています。これは、製造業に限らず、サービス業においても、人の生産性を測る考え方として有効です。コストには、こうした2つの特性があることを認識し、自社が生み出す製品やサービスのコスト特性を把握した上で、相対的コスト優位を実現することが、リーダーの戦略の大きな柱となるのです」

規模の経済性と経験曲線効果は、経営資源の大きな会社ほど有利に働きますが、中小企業でも、両者の効果を活かすことができます。例えば、東京都板橋区にある山芳製菓さんは、パートを含めた従業員数が約200名の中小企業で、かつては、生協などのPB商品の生産委託を受けて、ポテトチップスを生産していました。しかし、さらに収益性の高い製品の販売をするために、自社開発の製品も製造するようになりました。この、自社開発製品の製造は、PB製品を製造していない場合と比較して、規模の経済や経験曲線効果の両方のメリットを受けることができます。

また、香川県にあるエフディアイという会社でも、焼き菓子のOEM生産をしています。この会社も、全国から、委託先の要望に基づいた焼き菓子を生産することで、規模の経済や経験曲線効果の両方のメリットを受けながら売上を増やしていると考えられます。このように、中小企業であっても、自社製品について、他社と協力することで、規模の経済や経験曲線効果の両方、あるいは、いずれかのメリットを受けることが可能になることもあるのです。

2024/3/24 No.2657

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