「『札響の第9』2020 in hitaru」に参加して

 コロナ禍で揺れた,2020年。その年末に行われた「札響の第9」に,合唱団員のひとりとして参加してきました。合唱団は,本番はもちろん,練習のときから全員マスク着用。合唱用マスクは飛散には効果がありそうだけど,吸入については不安があるのではないかという医療関係者の合唱団員からの指摘があって,練習時は普通の不織布マスクと二重に着用していました。フェイスガードというか,アイガードと言うべきものも,着用している時間が長かったです。
 練習会場は,道新ホール。前後左右に2席以上を空けて,30分くらい歌うと15分くらい換気休憩するというやり方で,5~6回。第9は,普通の公募合唱団なら一年かけて本番だったりするのですが,札響の場合は札響合唱団という「毎年やっている」合唱団があるし,今回は賛助メンバーもほぼプロフェッショナルな皆さんだったので,なんとかなったというわけです。

【そこまでして第9】
 それにしても,そこまでして,なぜ第9を演奏するのでしょうか。
 僕自身は「年末の恒例だから」なんていうことは,ひとつも考えていません。が,合唱であることは,とても重要だと思っています。オーケストラの演奏会は,数ヶ月前から行われてきました。札響の演奏会では,11月にソプラノ独唱を伴う演目が,行われています。でも,合唱はできてない。
 合唱も独唱も「人の声」という楽器ですが,どうしても「その人の声/言葉」になってしまう独唱に対し,人々の声や言葉として表されるのが合唱です。人々の言葉,つまり「聴く人との共感」こそが,合唱の響きだと思っています。宗教音楽などで,まず独唱者(牧師など)が歌ってから,合唱団が応じるスタイルがありますよね。あれです。
 そんなふうに「合唱」を捉えているので,この2020年末こそ,第9は必要だと思っていました。そして,いろいろと議論や検討を経て札響が取り組むとなったとき。合唱に参加することに,僕に迷いは無かったです。

【故エリシュカ先生のこと】
 もうひとつ,今回の出演に「背中を押してくれた」のが,2019年に亡くなられたエリシュカ先生との思い出です。2008年4月から札響の首席客演指揮者になられたエリシュカ先生とは,3.11直後の4月の札響定期公演で,ドヴォルザークのスターバト・マーテルを歌わせてもらいました。
 海外からのソリストや指揮者が日本での公演をキャンセルする中で,エリシュカ先生は「この状況(震災と原発事故で悲しみと困難を抱えている日本の状況)だからこそ,音楽を届ける必要がある」「あなたたち(合唱団)と,今ここで演奏できることは,無常の喜びだ」と,仰っていました。
 癒やしとか,希望とか。そういうものを必要としているところに,音楽でそれを届ける。先生にとって,単純に「音楽家としての仕事」だったのだろうと思います。僕自身はプロフェッショナルな音楽家ではないけれど,そういう「音楽家の仕事」に関われることは光栄だし,喜んでお手伝いしたい。

 コロナ禍で揺れた,2020年。その年末に行われた「札響の第9」には,あの時と同じ使命があったと思います。そして,それを手伝うことができるのは,誰なのか。
 合唱団員のひとりとして,参加してきました。

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