ごろ寝の夢

「ウオオオオオオオオオーッ」
 その日、全世界は歓喜の渦に包まれた。待ちに待った発表がなされたのだ。
「みなさま、あの憎きコロネウイルスは、ついに、ようやく、根絶されました」
 コロネウイルス。それは、致死率はそれほど高くないものの感染しやすく、あっという間に世界中に広がっていったウイルスだった。ねじれた円錐形だったからそう命名されたという話もあるが、定かではない。ドリルウイルスという名前にしようという話もあったというが、どうでもいい。

 とにかく、コロネウイルスは根絶された。世界中の人々は三年の間、それを心待ちにしていたのだ。致死率は低いが変異しやすい。ワクチンや特効薬が出来たと喜んでも、ヤツらは変異してそれをすり抜けてしまう。一度感染し治癒しても、また感染してしまう。

 相次ぐ外出制限に都市封鎖に経済疲弊。政治不信と欲求不満と疑心暗鬼。
 もうすべての人に限界が訪れてきていたときに、ウイルス根絶の報。我々は勝ったのだ。
 根絶の決め手は、ウイルスの基礎形である円錐形を食べてしまうような薬品ができたからだと言う。二種類の薬品が開発され、円錐の先から食べるものと太い方から食べるものとがあったらしいが、どうでもいいことだ。

 そうやって長い抑圧の末に解放された人類であったが、それは相当なトラウマとなってしまった。もうあんなことがあってはならない。しかし、ウイルス発生自体は止められない。発生しても広がらない対策をとらねば。

 各国は、鎖国することとなった。ウイルスが発生したとしても、その国だけにとどめておけばいいのだ。世界経済がどうとか、そんなものよりも命が大事だ。経済はその国でまわせばいい。昔はそうだったじゃないか。

 そのうち、国の中でも広範囲に移動してはいけないということで、交通機関の使用が禁止された。ついで自動車の使用が禁止された。高速移動できてしまうから、感染が早くなるのだ。ガソリンや電気というエネルギーも必要となるし。そもそも、交通事故の被害者のほうがウイルスの被害者より多いのだ。
 今までがおかしかったのだ。昔は車なんかなかったじゃないか。

 そしていわば鎖県がなされるようになった。やむをえずに移動する際は知事が発行する手形が必要になった。知事は大名になった。
 さらにそれは鎖市、鎖町、鎖村と進んでいった。実際にそのような制度になったわけではないが、移動範囲が狭くなれば自然と小さなコミュニティの中で生活していくことになる。みんな農業や狩りで自給自足している。昔はそうやっていたじゃないか。

 そして、今ボクは何もない竪穴式住居でうたた寝しているようだ。こんな生活もいいんじゃないのかなぁ、と思いながら。昔はこうやっていたんだろうし。
 うつらうつらとそんなことを考えていたら、点けっぱなしのテレビからニュース速報を知らせる音が響いた。目が覚めた。ごろ寝していたら夢を見ていたのか? どんな夢だったか。
 字幕では、どうやらこれから重大な世界的発表があるらしい。
「ついにウイルスが根絶された、とかいう話だといいんだけどなぁ。もう人類はおしまいですとか言わないよなぁ」
 ボクはきのう外出制限の中スーパーで買ってきたチョココロネを、チョコの入った太い方からかぶりつきながら発表を待った。

-----

新潟日報のコントに投稿して掲載されなかったもの。
11月終わりに選評が掲載された。
「夢オチではなくSFオチにした方がよかったんでは」ということ。んー、夢にしたところがミソだと自分では思ってるのだけどな。
これは4月頃に投稿してたのだけど、だいぶ経ってからの選評。どういう基準で出てくるのだろうなぁ。
でもまぁ、名前が出てくるのはありがたい……かな。
最近はラノベを書いていて、日報のコントには投稿してないので申し訳ない(誰に)。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?