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月刊ボランティア情報書評2009年9月号 『デモクラシー以後――協調的「保護主義」の提唱』E ・トッド著 石崎晴己訳 藤原書店 定価3200円+ 税

月刊ボランティア情報書評2009年9月号 『デモクラシー以後――協調的「保護主義」の提唱』 E・トッド著
『デモクラシー以後――協調的「保護主義」の提唱』E
・トッド著 石崎晴己訳 藤原書店 定価3200円+
税 

評者 白崎一裕

このトッドの新訳は、9・11以降におけるアメリカのイラク戦争などの行動をアメリカの衰退を繕うための「演劇的小規模軍事行動」と分析してイラク戦争反対の思想根拠となった『帝国以後――アメリカ・システムの崩壊』に続くものだ。そして、本書は、ふたたびアメリカを中心としておきた「金融恐慌」への対処法が明確に主張されている。

 内容は、サルコジ政権の分析やフランス国内の政治状況など、もっぱらフランスのことに限られている。しかし、それらを背景にして考えてみると、わが日本の状況が見事に浮き彫りにされてくる。まず、フランスではカトリック教に対抗して形作られてきた、諸政治勢力が、カトリックの衰退とともに同時に衰退し、自らの存在の根拠をうしなったこと。それにかわり、政治空間をおおっているのは、人間や社会への関心を失い、自らに閉じこもる「ナルシシズム」の蔓延であり、それが高学歴者のエリート層にも顕著に広がっていること。そして、それら高学歴先行世代階層と若者層の世代間対立のこと。
加えて、地方選挙と国政選挙の断層があること。また、それらの「ナルシシズム」の人々は、貧しい人を軽視し、自由貿易主義的経済政策に閉じこもり、民主主義の危機を招いていること、等々である。 

これらの分析をわが日本にも当てはめてみよう。バブル崩壊からの失われた10年にかけての人々の空虚な意識。それを埋め合わせた「小泉・竹中ライン新自由主義政策」と民主主義の「劇場化」。その結果拡大した、世代間格差・地方と中央の格差および圧倒的な「貧困」の拡大である。加えて、昨年のリーマン・ブラザーズ破たん以降の「恐慌」が加わった。それらに対して、学者や評論家の多くが「保護主義はいけない、自由貿易を守ろう」と声高に主張している。しかし、トッドは、明確にそれに対して自由貿易主義NO!と言い、保護主義こそ国内自給を促して国内需要を高め格差と貧困からの脱却への道だ、と提言している。そもそも、金融恐慌を招いたのは、グローバル化という自由貿易主義の延長にあるマネーの暴走だった。その暴走に歯止めをかけるのは、自給を中心とする保護主義であり、同時に、それは、民主主義空洞化の克服ともなるというのだ。

その論理を補強するのに、日本の読者向けに付録としてつけられているのが、ケインズの「国家的自給」という論文だ。このなかで、ケインズは財や金融の国家的自給を主張している。評者は、これに加えて「基礎所得保証(ベーシックインカム)と農が基軸の地域計画で自給型経済へ」(「現代農業2009年8月増刊」)と「時代はグローバルからローカルへ」(「現代農業2009年2月増刊」共に農文協)の関曠野氏(思想史)のふたつの論文を合わせ読むことをお勧めする。これらを読まれることでトッドとケインズの主張の意味がより明確に理解されるだろう。

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