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『普通の人々の戦いーーAIが奪う労働・人道資本主義・ユニバーサルベーシックインカムの未来へ』アンドリュー・ヤン著 早川健治訳 那須里山舎

● 以下は、「ボランティア情報2020年5月号」(とちぎボランティアネットワーク編集・発行)所収


『普通の人々の戦いーーAIが奪う労働・人道資本主義・ユニバーサルベーシックインカムの未来へ』アンドリュー・ヤン著 早川健治訳 那須里山舎 定価3200円+税

白崎一裕(那須里山舎)

自分のところの新刊で恐縮だが、現在のコロナ恐慌に対しての有効な政治経済対策本として、あえて紹介する。
 著者のアンドリュー・ヤンは、20代からいくつかの起業を成功させ、その経験から「ベンチャーフォーアメリカ(VFA)」というスタートアップ企業を支援するNPOを立ち上げ大きな成功をおさめる。そして彼の活動は、当時のオバマ大統領にも政策提言としてとりあげられもした。しかし、ヤンは、その活動の中で大きな疑問をいだく。「VFAは成功しても、アメリカの地域経済はちっともよくなっていないではないか?」彼は、そこからアメリカの労働環境・地域経済の資料を分析し、本書にまとめられる結論を導き出す。雇用創出・職業訓練は、ほとんど役にたたず、AI(人工知能)の進展による「自動化」は、労働そのものの消滅をもたらしている。そしてこれらを解決するためには、人間性を中心とした社会構造への転換をめざす「人道資本主義」とその中心に万人への個人単位・無条件の所得保障=ユニバーサルベーシックインカム政策が必須という。ただ、ヤンのすごいところは、この結論をひっさげて、2020年のアメリカ大統領候補者として民主党から出馬してしまう行動力だ。結果、実業家ではあるが政治経験ゼロの台湾系移民二世の超異色の大統領候補が誕生した。大統領予備選挙は、途中で撤退したものの、そのユニークな政策とワシントンずれした政治家とはまったく違うキャラクターで若者を中心に一定の存在感を示したといえよう。特にベーシックインカムの議論は、ヤンの立候補により具体的な政治プログラムとして認識されることとなった。

これで、まずは一段落ということにならなかったのは、一体、後世、どのように評価されるだろうか。コロナの発生だ!

中国武漢より発生した新型コロナ感染症は、短期間のうちに世界中に広まりパンデミックとなってしまった。現在のグローバル経済を直撃したコロナ感染症は、まさにコロナショック、コロナ恐慌ともいえる経済状況を世界中にもたらしつつある。
経済的大恐慌といえば、1929年のアメリカに端を発した「世界大恐慌」を思い起こすが、今回のコロナショックは、それをもはるかに超越する人類未経験の経済的破綻状況になる可能性もでてきたのである。例えば、失業率。これはアメリカの場合だが、「世界大恐慌」とのきは、失業率25%だった。それが、今回のコロナショックでは、FRB(連邦準備制度理事会)のある人物の発言では「4月からの四半期で、32.1%に達する」などというものもある。また、GDPだが、リーマンショックのときは、ほぼ8%の減少だった。ところが、今回は、マイナス50%になるだろうなどというとんでもない予測がでている。

日本でも、緊急事態宣言のあと、外出自粛・休業要請などで、日銭を稼がないとやっていけない業種から廃業などの悲鳴、そして、労働者の不安が増している。政府も一時給付金や雇用調整助成金、中小企業持続化支援金など、スロースタートの経済対策を打ち出してきたが、こんな、「常識的」な対策で先に述べた人類未経験の危機を生き延びていけるだろうか。「常識」では、とても生き延びていけない。

これまでの常識を捨てよう。まず、マネーは、一部の人や企業に集中して特権化する傾向があったが、これをやめて、水道や電気のように、すべての人の暮らしを支えるインフラに転化させよう。すなわち、基本的人権としてのマネー。この基本権としてのマネーの上部にあらゆる産業・福祉・医療・ボランティアなどの社会構造を再構築する。
この基本権マネーこそが、ユニバーサルベーシックインカムだ。ヤンの提言する、「国民ひとりひとりに、すぐに毎月10万円を配ろう」を実現するのだ。
世界史は、ビフォーコロナとアフターコロナで違う歴史過程に入るだろう。アフターコロナが人類の知恵によって存続できるかどうか、その知恵のひとつにベーシックインカムがある。






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